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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【アルタネイティブ・ヴァンプ-Bloody Castle-】
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プロローグ-02

 墜ちたとは言っても、ただ墜落したわけではない。


落下の寸前に双方自前で持ち得ている各部スラスターを用いてある程度衝撃を緩和させているので、共に着地の衝撃をほとんど感じていない。



「今の爆発、多分あそこが製造ラインなんでしょ?」


「肯定だ」



 直哉――ヴァンプの声は、元々彼女が持ち得る声より少し高くなっている程度だが、志斎――セイントはそれまでの雄々しい男の声とは百八十度異なる、綺麗なハスキーボイスで返答された。



「敵が何者かはわからんが、分からぬからと言って慎重に行っては取り逃がす。走るぞ」


「当たり前じゃん、ボクと志斎の二人で、勝てない相手なんかいないもんねっ」


「それもまた、肯定だ」



 流石に着地地点を選べなかった関係上、一つ隣の火が上がっている場所に落ちてしまっていたので、そこから隣接する隣の工場にまで走る。


 元々隣の工場は稼働していなかったか、人はとんと見ず、ただヴァンプとセイントは火災の影響でセキュリティも満足に作動していない渡橋を駆け抜け、量産型アルターシステムの生産ラインへと突入した。



目に入ってきた光景は、地獄絵図と言っても過言ではないかもしれない。



爆発によって焼け焦げた、肉の焦げる匂いと、その体を今まさに燃やす者達の死骸。


酷い、と一言呟きながらも生存者を探そうとするが、しかしセイントが一瞬素早く拳を突き出し、ヴァンプへ襲い掛かる鉄棒を防いだ。


 ガギン、と。セイントの腕部装甲が受け止めた鉄棒は縮んでいき、炎の向こう側に消えた。


と思いきや、今度は炎の中から鉄棒を担いだ屈強な体格の男が姿を現し、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。


志斎と変わらぬ程の屈強な肉体を見せびらかすように上半身は何も来ておらず、下半身は足全体を覆う伸縮性の高いデニム。それが炎で多少焼けても気にしないと言わんばかりに、彼は炎の中を付き進む。



「おお、ヴァンプのお坊ちゃん! オマケにセイントまでいるじゃねぇか!」


「……オジサン、誰? オジサンがこんな事仕出かしたの?」



 警戒しつつも、男と会話をするヴァンプ。しかしセイントは目を疑う様に、口を開いた。



「バカな……貴様、フォレストか?」


「おぉよ! あのガキだった志斎がそこまでデカくなるたぁな、十三年って時は長ぇモンだなぁ!」


「セイント、知り合い?」


「少し待て、貴様が生きているという事は、まさか」


「その『まさか』よ」



 背後から声が聞こえ、ヴァンプとセイントが背中を合わせながら、交互に前と後ろを確認する。


声は女の物だった。


ぷっくりと膨れる唇と胸、そして引き締まったクビレに反するように出る尻。それを隠す事も無い、胸元までしか覆わない短めのシャツと、太ももと尻を強調するようなハーフパンツを履いた女性。



「久しいですね、豊穣志斎」



 さらにもう一人が女性と隣接し、歩いてくる。


先ほどのフォレストと呼ばれた男とは違い、肉体的には細身ではあるが、身長の高い白人男性。眼鏡を着用した彼は白いスーツが煤で汚れるのがイヤだと言わんばかりに火の手から逃れるようにしている。



「フォレスト、マリス、クラウン――【親衛隊】が何故ここに?」


「ハッハーッ! まず生きてる事を喜んで欲しいねぇ、冷てぇじゃねぇの戦闘マシーンッ!」


「でもそうなるのも仕方ないわよねぇ。何せ私たち、死んだ事になっているもの」


「戯れはそこまでです。――やりますよ」



 眼鏡の男がそう言葉にした瞬間、三人がヴァンプとセイントに向けて、駆けた。


セイントへと向かっていく筋肉質の男と眼鏡をかけた男。ヴァンプに向けてはやけに露出の多い女が襲い掛かる。


ヴァンプは、その女性が放つ拳と蹴り、そしてその威力を受け流しながらも決して攻撃はしなかった。


相手が何者かもわからず、人間にしか見えない存在へ攻撃を控えているのだ。



「うふっ。ヴァンプの坊や、お姉さんに手加減してくれてるの?」


「してるよ。なんたって人間にしか見えないもの。ボクが戦うべきかわかんないからねっ」


「私の力を受けておいて、それでも悩んでくれるなんて、嬉しいわ。――好きになっちゃいそうっ」



 僅かにヴァンプと距離を置いた女性は、しかし赤面する顔を隠すことなく、自分の胸に一度手をやり、まるで谷間を強調するように寄せた。


その胸元に視線を向けてしまったヴァンプだが、それは思春期の男としてあるべき姿だから、ではない。


彼女の胸元に、何か宝石にも似た石が埋め込まれていた。


そこから放出される熱を感知。思わずその場から飛び退いたヴァンプの判断は正しかった。


胸元にやっていた女性の手が燃え、今それをヴァンプに向けて振るったのだ。


それだけで、豪炎がヴァンプへと襲い掛かり、飛び退いていなかったら燃やされていた程の熱量。


眼前で燃える炎を、顕現させた聖剣を以て切り裂く。それだけで消火されていく光景を見据えたヴァンプは、目を細めながら問う。



「……魔性を帯びた炎?」



 ヴァンプの聖剣は、単純な剣としての破壊力を有するだけでなく、対魔兵装としての役割を果たしている。


 故にヴァンパイア等の魔性生命体に最大の効力を発揮するのだが、今切り裂いた炎も魔性を帯びているからこそ、剣で斬るだけで消火した、というわけだ。

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