↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第二章【聖域のアルタネイティブ】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/190

変身、アルタネイティブ・ブルー-07

 シェリルは話し始める。


エネミーと言う生命体の事。


 エネミーの暮らす異世界【ミューセル】の事。


 ミューセルは食糧と呼べるエネルギー・虚力と、それを潤沢に持つ生物学上のメス・アリメントが枯渇してしまった事。


 それ故に人間社会へ侵略を開始し、人間の女性から虚力を得ようとしている事。



 ――【アルターシステム】と言う物の事。



アルターシステムを手にした久野洋平に、四六が協力要請を願い出て、彼がそれを承諾した事。



「……何とも、妙な作り話聞いてる気分になるな」


「信じて、頂けるでしょうか」


「信じるしかねぇさ。洋平の姉さんはエネミーってのを見てねぇから疑心暗鬼だったろうけど、俺はあのバケモンを何度も殴ってんだ」


「……全く。本当に貴方も洋平君も、普通の規格に当てはめる事が出来ない子供だ」


「もう話は終わりか」


「ええ、ボクからご説明できることは、以上です」


「なら、俺にもアルターシステムってのを寄越せ」



 志木と粧香が、不意に彼が放った言葉に、ギョッと驚きを見せた。


 いきなり現れ、話を聞いた上で、彼は「自分が戦う為の力を寄越せ」と言ってのけたのだ。驚くに決まっている。


 だがシェリルは、まるでその言葉が放たれる事を知っていたかのような、何とも言えぬと言わんばかりに表情を歪め、しかし首を横へ振った。



「それは、出来ません」


「なんだ。あの指輪、もう無いのか?」


「いえ、あります。ですが、しかし」


「しかしもかかしもねぇよ。寄越せ」


「待ちなさい菊谷君。まだアルターシステムに予備があると言うのならば、我々四六が所有するべきで……っ!」


「黙ってろ女。今はコイツと話してんだ。ていうかお前誰だ」



 粧香が二人の会話に割って入った所で、荘司がギロリと睨み付け、彼女の言葉を遮った。



「……アルターシステムは、人間の使用を鑑みていない、エネミー用のシステムです。人間にどのような影響を与えるかも分からない。もしかすると、君たちの肉体に悪影響を及ぼす可能性も」


「なら余計に、そんなもんを洋平だけに任せておけねぇ。俺にも寄越せ」


「いけません。ボクは洋平君にも、この一件から手を引くように説得するつもりです。エネミーと戦うのは、ボクだけで良い。ボクは、その業を請け負う覚悟がある」


「手前勝手な覚悟なんざ知った事か。俺はお前も、お前が協力してる四六とやらがどうしようが、別に好きにしろって思ってんだ。


 女が食われる? 大賛成だね。女は鬱陶しいし面倒だし、一度こっちを敵と認識すると、ネチネチネチネチ突いてきやがる。それこそ女じゃなけりゃ、ぶん殴ってる所だ」



 荘司の発言を聞き、彼の後ろでワナワナと怒りに震え、表情を真っ赤にさせる粧香。だが彼女へ気遣う事も無く、シェリルは彼に問いかける。



「では、なぜ貴方は」


「何度も言わせんな。洋平を守る、それだけだ。……不満かよ」



 シェリルは、荘司の目を、ただジッ――と、見据えていた。


彼の目は、鋭く、刃の様で、だが――優しい瞳を有していた。



「……友達、だから?」


「あぁ。洋平は、俺に出来た、初めてのダチなんだ。


 ……もし間違ってんなら正してやる。もし正しいなら、一緒に進んでやる。


 それが、友達……ってもんなんだろ?」


「……そう、ですね。それが、友達……全く、その通りだ」



 フフッと笑みを浮かべながら、シェリルが面を下げ、俯くと。


粧香の持つ携帯電話が、震えた。



「……何だ」



 通話ボタンを押して、電話に出る。だが数秒も経過しない内に、彼女の表情は青ざめ、志木へと視線を送った。



「エネミーか」


「はい。観測班から報告です」


「位置は」


「秋音市民病院上空――我々の、上です」



 **



 その地を、上空から見下ろす景色は何とも絶景であった。


 木々は少なく、アスファルトやコンクリート、レンガに木材……様々な素材を用いた建築物がそこらに存在し、また鉄にまとわれた車、チェーンと人力を用いた自転車が走り回る光景は、見慣れぬものだ。



彼――ロンドの目に映るのは、何も景色だけでは無い。



見渡す限りに、メス、メス、メス――何とも潤沢な【食糧】があるものだと、彼は口から溢れる涎を止める事無く、しかし欲望を自らの中から排し、秋音市民病院別病棟の屋上に足を付けていた。



『うん……? シェリルの反応は、ここにあるんだがなぁ』



 自らが足を付けた場を、今一度確認する。コンコンと軽く床を蹴り付け、下が空洞である事を認識した。



『あぁ~。この下かぁ』



 彼は、ニヤリと笑みを浮かべつつ、その右足を高く振り上げ――一気に、その踵を地面へと叩きつける。


轟音と共に、崩壊する屋上。


 ガラガラと瓦礫が下階へと落ちていき、その重力に従い、彼もその地へ足を置いた。



『――みぃつけた、シェリル』



 降り立った部屋の奥。ダブルサイズのベッドに腰かけ、驚愕と言わざるを得ない表情で、ロンドを見据える、金髪の人型エネミー・シェリル。



「君は、ロンド……っ」


『なんだ、スルフは負傷させた事はさせたのか……まぁ、アイツの戦闘能力は一体じゃお察しって所だし、それでも上々かなぁ』


「アイツもエネミーか」



 ロンドとシェリルの間へ入り、ギラリとした視線を向ける、一人の男――菊谷荘司。


彼は、その病室へと突如現れた、ロンドと呼ばれたエネミーを良く観察した。



身体は人間と同じ二本足で自立が出来る形状、体色は全体的にフレッシュグリーンの明るく、二つの目は赤く虫の様な複眼。


 さらに鼻はサイのように鋭く尖った角が存在し、おまけに身体全体は筋肉の様な形状の繊維で覆われており、見た所頑丈そうに見える。



『なんだぁ? 君は人間に守られてるのかい? なっさけない事だなぁ、シェリル』


「止まりなさい、エネミー!」



 そんなロンドへと、銃を向ける二人の大人――野崎粧香と、秋山志木。


 二人は9㎜拳銃をしっかりと握りながら安全装置を解除し、いつでも撃てるように引き金へ指をかけていた。



「おい、アイツにハジキって効くのか」


「ハジキ――拳銃の事ですね。個体によりますが、口径からして無意味です。しかも彼の特徴は」



 荘司の言葉に回答していたシェリルの言葉を遮るように、粧香がまず牽制として、その引き金を引いた。


放たれた銃弾は空を切りながら進み、ロンドの胸元に着弾。


 ――だが、銃弾が形を歪ませて床に力無く落ちたのみで、ロンドの身体には、傷一つ付いていない。



「……あの通り、堅牢な肉体です」


「ちっ」



 舌打ちをした粧香。彼女は銃口をロンドへと向けながらも、その視線をシェリルへと向け、志木も彼へと言葉を投げた。



「シェリル、アルターシステムを野崎に渡せ。彼女は自衛官だ。覚悟は出来ている」


「そう、私は自衛官。


 国民の安全と、平和を守る為……そして、女性の自由と尊厳を守る為に、戦っている。


 私は、自分の命なんて、惜しくはない……!」


『勇ましい高級食材だねぇ。美味しそう、実に美味しそうだ!』



 粧香へ向けて歓喜の声を上げ、ダラダラと涎を垂らすロンドの姿に、彼女は少しだけ狼狽える。怯えていると言っても良い。



「は――早くなさい、シェリルっ!」


「シェリル、戦う相手を間違えるな。我々も君も、目的は同じの筈だ」



 志木と粧香。二人の声を聞きながら。



シェリルは、いつの間にか手に握っていた、蒼色の宝石が埋め込まれた指輪――アルターシステムを、ただ静かに見据えていた。



(このアルターシステムを野崎さんに渡して、ロンドを倒せるのだろうか)



 時間は有限だ。必死に頭を動かす他無い。


彼は考える。一瞬の内に、粧香へとアルターシステムを渡した際に起こり得る事態を幾度も幾度も思考する。


しかし――彼女がアルターシステムを手にしたとして、ロンドに打ち勝つ道筋が、彼には思いつかなかった。


しかもアルターシステムは元々『生物学上のオスが使用する』事を目的として作られた。


 女性である粧香では、それこそエネミーと人間という括りだけでなく、雄雌の括りにも隔たりがある。



――で、あるのならば。



シェリルは、荘司の目を見据えた。


そして荘司も、彼の視線に気付き、自らの視線を合わせ、頷いた。



――これで、後戻りは許されないと、シェリルは感じた。



荘司へと手渡される、蒼色のアルターシステム。


 その行方を知り、粧香が目を見開き口を大きく開いたが、そんな事を気にも留めず、荘司は右手の中指に、指輪を装着した。


瞬間、頭の中を駆け巡る、情報の荒波。


鈍器で頭を強打されたような感覚と共に、荘司は一瞬だけ目を伏せたが――今、力を手にしたと言う実感を得た。



「なら……準備運動と行くか」



 荘司は一瞬だけよろめいた自身の身体をしっかりと立たせ、アルターシステムを装着し――変身をする事無く、一歩一歩前を見て歩いて行く。


ロンドへと近付き、彼が訝しんだ所で、その右手を握り拳に作り変えた。



『あぁ』



 そこでロンドは、荘司が何を行おうとしているかを察した。



『僕を殴る気なのかぁ。可愛いな、人間は。いいよぉ。一発、僕を殴る権利を授けましょう!』



 まるで、子供の遊びに付き合っているような態度で、荘司が構えた拳を見て笑うロンドへ、荘司は「そうかい」と小さく呟いた。



「じゃ、ちょっくら一発――試させてくれ」



荘司は、両足でしっかりと身体を固定した上で腰を捻り、右腕に力を込めた。


 一呼吸を短く終わらせた所で、カッと目を見開き、右腕部を思い切り、ロンドへと振り込んだ。




――まるで、大砲の砲撃に似た轟音が、ロンドの腹部から放たれると同時に、ロンドの身体は強く吹き飛んでいき、病室の壁へ、体を押し付けられた。




『な、ぁ……!?』



 驚き、声を上げながら、尚も痛みでビクンと震えたロンド。彼は、目を見開いた上で荘司を良く観察する。


何の変哲もない人間である。エネミーと違って特殊な性質も持たない、ひ弱で、武器に頼らねば、人間一人を殺すことも労する人間である筈なのに――


その力、人間に非ず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。