エピローグ-01
エンドとの戦いが終わり、四六の面々には平和というべき時間が訪れていた。
既に日数としては二週間弱が経過し、久野優奈はエンドに買ってもらっていた白のワンピースを着こみながら、六人の女性――否、男一人と女五人によるお茶会に参加していた。
「へぇ、じゃあユーナは女の子としてソージとお付き合いする事になったんだ?」
女物の可愛らしい服を着た少女に見える少年、アルタネイティブ・ヴァンプ、瀬上直哉は、オレンジアイスティを飲みながら嬉々として、彼女の話した卒業話に耳を傾け、そう尋ねた。
「アタシらが色々起こってる間に、秋音市ってば大変な事になってたのかぁ、なんか申し訳ないわ」
「ですね……キャトルさんっていうプリステスの方が秋音市にいるし、問題ないかなってお出かけしてたんですけど」
「まぁ、元々協力し合える時には協力しましょうという集まりですし、そこまで気にする必要は無いのでしょうが、それでもですわね」
戦いの行方についてを気にしていたのが、三人の女性たち。
プリステス・演舞、宮越花江。
プリステス・乱舞、神崎美咲。
プリステス・サール・クラージュ、シャルロット・クラージュ。
「言うて、アタシらも秋音市にはいたけど、ちょっくら別件でピンチだったし、大変だったからねぇ」
「でもあれ、パパが悪いんだからボクと七海関係ないしっ」
直哉の頭を撫でながら、ケタケタと笑みを浮かべる少女が、七瀬七海。この中では唯一、戦闘能力を持たない一般人と言ってもよいのかもしれない。
「そ、それで、さ。ちょっと教えて欲しいんだけど」
自分以外の五人に何があったかを語り終え、ようやく本題だと言わんばかりにスマホを取り出した優奈が、顔を赤くしながら、恐る恐る画面を点す。
「その、敵だったエンドってやつに、ホントに女子高生かよってバカにされて、ちょっとムカーっとしたから、色々スマホの使い方、教えて欲しいんだ」
「どれどれ……?」
隣に座っていた七海がスマホの画面を覗き込む。ホーム画面には初期設定時にあるアプリ以外は存在せず、思わず「……うん」と諦めの声を上げてしまうが、その空気を換えるかの様に、直哉が強く頷いた。
「うんうん、ユーナは色々と知らない事多過ぎ! もっと可愛い女子目指して頑張らないとね、ひとまずはミサキレベルにかわいい子を目指そっ」
「ちょっとヴァンプぅ。美咲ってばアタシにとっちゃ宇宙一可愛い女の子なんだけどぉ?」
「んー、ミサキはもっときゃぴきゃぴした女子系の方が似合いそうだもん」
「まぁそれはアタシも思う」
「花江さん!? わ、私にきゃぴきゃぴした感じは、似合わないと思うんですけど……っ!?」
優奈の事を放って盛り上がる直哉、花江、美咲の事を放って、シャルロットと七海が色んなアプリを教えていく。
「これが女子高生必須アプリ、イングラグラムとトイッター、グローね。イングラは可愛い写真とか料理とかパシャってそれをアップすんの」
「パ、パシャ……? アップ……?」
「トイッターは百四十文字で表現する小さなブログみたいなものですわね。情報収集ツールとしても使われるので、ぜひ使い方を覚えた方がよろしいかと」
「ぶ、ぶろ……? ツール……?」
「グローはほら、ピース」
インカメラを起動して撮影した写真。優奈は何が何だかわからない内に撮られた為、ポーズも何もつけられなかったが、七海とシャルロットはそれぞれ手の甲を見せる形でのピースを顎にやり、小顔アピール。
「ほら、メッチャ盛れるっしょ? こんな風に可愛い写真を撮る技能は女子に必須技能だから、覚えときな」
「も、漏れる……? 何が漏れるんだ……っ!?」
「言っとくけど漏れるじゃねぇからね!?」
「まぁ、その辺をしっかり覚える必要はないですし、使い方さえわかれば一人前の女子と言えるでしょう。私、日本特有の『ギガが減る』が苦手です」
「え、あのそれって女子に必須なんですか? 私もイングラとかトイッターとかは全然使ってないんですけど……」
「美咲ちゃんは後で花江さんとシャルロットに使い方を学びなさい」
試行錯誤しながら、何枚か自撮り写真を撮る優奈の姿を微笑ましく見届けながら、面々はお茶を口にする。
「でもさぁ、なんでそんなに焦ってんだか。ソージならそういう女子っぽくない女子でも受け入れてくれるんじゃない?」
直哉の言葉に、優奈は顔を赤くしつつ、スマホで口元を隠しながら、恥ずかし気に言った。
「……だって、荘司も最近のナウい女子高生と付き合いたいに決まってるじゃん? だから、女子力磨き、みたいな」
「そもそもナウいって言い方がイマドキ女子じゃねーし」
花江が笑いながらポーズ指南をしつつ、それに戸惑いながらも従う優奈と花江の写真を、美咲が撮る。
「菊谷さんなら、きっと今の優奈さんを受け入れてくれますよ。私だって、あんまりイマドキ女子って感じじゃないですけど、ちょっとずつ変われてます。
だから焦らず、ちょっとずつ、菊谷さんと一緒に歩んでいけばいいと思います」
最後に、可愛らしく上目遣いでカメラに映る直哉と、ちょっとだけたどたどしい裏ピースを頬にやる美咲、そして微笑みを浮かべる優奈で、一枚の写真を撮る。
――優奈は少しずつ、変わっていく。
それを新鮮な気持ちで楽しむ彼女の事を、仲間はずっと、近くで見届ける事だろう。




