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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【聖域のアルタネイティブ-卒業編-】
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変わりゆく世界-24

 ブルーとの戦闘、そして現在行われているホワイトとの激戦により、既にアルタネイティブ・パープルは疲労困憊状態と表現しても差異はない程に追い詰められている。


特に消耗しているのはスラスターと体力で、ブルーと同等のスピード性能を有するが、しかし長時間の変身を想定した体力とスラスター強度が必要だ。


ブルーよりもパープルが劣る点はここであり、彼女は荘司程の体力、荘司程戦闘に長けているわけではない。結果として、スラスターの破損や消耗に繋がる戦闘となってしまい、現在追い詰められている理由にもなっている。


とは言え、戦闘経験としては、ホワイトよりもパープルの方が上。


スピードはほぼ同性能になっても、パワーや経験で勝るパープルの攻撃を避け、撃ち込んでいくホワイト。しかしヒラリと舞うようにして避けるパープルの動きが、元より体力のないホワイトを追い込んでいく。



「くっ」



 出力針の出力を最小にしつつ、手数で勝負する手法を採用。


トリガーを幾度も引く事によって、ほぼタイムラグ無しで放たれる弾丸を、それでも尚丁寧に一つずつ躱していくパープルは、一瞬だけ、弾丸の射出が遅れた瞬間を見計らい、今まで温めていたスラスターの出力を最大にし、ホワイトの背後に回る。



「ッ!」


「貰った!」



 パープルの回し蹴りが腹部に叩き込まれ、変身解除にまで追い込まれた白兎。転がりながら、彼は傷ついた身体に鞭を打つようにして立ち上がろうとするも、しかし肉体へ与えられたダメージが大きく、上手く立ち上がれない。



「つぅ……っ!」


「手こずらせて……くれましたね……っ」



 息を切らしているパープルだが、既に勝利は目前にまで迫っている。ニヤリと笑みを浮かべながら、白兎の近くにまでやって来た彼女は、白兎の顔面を踏みつけて、勝利という名の美酒に酔う。



「だが所詮、貴方は私に叶う器では無かったという事ですよ! バカな人だ。裏方に従事していれば良かったのに、若い命をちゃちな正義とやらを持ったが故に、これから殺されるのだから!」


「好き勝手に……、言ってくれますね……っ」


「ああ言ってやるさ! 貴方の様な人間は、常に正義を体現する者の影でいればいい! 自分の正義を振りかざそうとする存在は、常に強くなければならないのだからなっ」



 白兎の腹部を蹴りつけたパープルの爪先がめり込んだ瞬間、白兎はぐったりと意識を失った。


だが、まだ死んでいない。これから殺さねばならないと、パープルはただ、力を込めた拳を振り下ろす為、腰を捻った。


だが、拳は白兎へ叩き込まれる事は無く、その二の腕ごと切り落とされて、今地に落ちた。



「……な?」



 何だ、と言葉にしたかった筈が、言葉に出来なかった。


噴き出す血に呆然と視線を送りながら、今自分は何故負傷しているのか、前後に何があったのか、少ない情報から鑑みようとするも、しかし彼女の思考が遮られる。



「全く……人の隠れ住んでる秋音市で好き勝手暴れてくれてるな。……えっと、エネミーだっけ?」



 自身の背後。


パープルよりも小さい、小柄な人間の姿がそこにあると気付いた。


顔だけをそちらに向け、その人物を観察する。


 首元程度にまで伸びる黒髪、そしてジトっとした目つきが印象強い、少年の様な風貌の少女が、その手にコンバットナイフを持ちながら、今それを宙に投げた。


投げられたコンバットナイフはバチバチと青白い火花を散らして消え去っていき、パープルは思わずその場から飛び退き、少女へと困惑の声を上げる。



「だ――誰だ、貴様っ! アルタネイティブではないな!」



 事前に調べていた、秋音市で危険と判断されている人間は幾人も存在する。


しかし、現状ブルーやレッド以外の危険人物は、この秋音市にはいない、もしくは別の事件を解決するべく動いている、または邪魔立てする事は無いだろうと情報を得ていた筈だ。



 アルタネイティブ・ヴァンプ、瀬上直哉。


アルタネイティブ・セイント、豊穣志斎。


プリステス・乱舞、神崎美咲。


プリステス・炎舞、宮越花江。


プリステス・サール・クラージュ、シャルロット・クラージュ。


斬撃の魔法少女、マジカル・カイスター、水瀬遥香。


銃撃の魔法少女、マジカル・リチャード、如月弥生。



今、目の前にいる少女は、違う。


アルタネイティブでもなければ、そうした危険性ある情報にも入ってこなかった存在。


それが――通常の人間では決して叶う事のない、アルタネイティブへ相対し、今パープルの腕を切り落としたというのか?



「ん……そうだな。改まって自己紹介する程の者じゃないが、一応これから死ぬ奴に対して、名を名乗らんのも後味悪いな。


 ――中村スミレだ、覚えなくても良い」



 彼女――中村スミレは、今右手を高く振り上げ、彼女の周辺にバチバチと青白い火花を散らしていく。


空中に浮く、数多のコンバットナイフ。それは次第にパープルの四方を囲むように展開され、逃げ道を塞ぐようにした。



「行け」



 短く命令を下したスミレの言葉。タイムラグ無しに、その射線をパープルへと定め、一斉に、まるで投げ放たれる様に速度を得て飛来する、数多のコンバットナイフ群を避ける手段が無く、その全身に浴びざるを得ない。



「が――ぐううぅううっ!!」



 腕に、足に、腹部に、頭部に、次々に突き刺さっていくコンバットナイフだが、しかし着弾して突き刺さると同時に消滅し、一本も互いにぶつかり合う事も無く、全射命中。


全身に傷を作りながら、しかしまだ僅かに息があるパープルが「お、お前をぉ……エンド様の、所にはァ……」と呻き出すが、しかし彼女は笑いながら首を横に振る。



「私ら、別にお前らの計画邪魔しようってんじゃないよ。別に地球征服だろうが勝手にやってくれ。駅反対側に私らが住んでる診療所があってさ、そっちにエネミーが来たから、軽い八つ当たりなんだよね。


 それに――場合によっちゃ、私らもアルタネイティブと敵対しなきゃいけないらしいから、敵情視察ってのも兼ねてるけど」



 じゃあ帰るよ、と。


そうサラリと言い切って、駅の方面へと向かっていく彼女の言葉を最後に。



アルタネイティブ・パープル――オペラは、意識を閉ざし、今静かに死に絶えた。

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