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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【聖域のアルタネイティブ-卒業編-】
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変わりゆく世界-21

「いいえ。――実はね、彼女達は元々インドを拠点に活動するテロ組織と繋がりがありまして、そこでエルスの製造をさせていたそうなのですが、先日別の部隊がそのテロ組織の拘束に成功したのです。自分達で使おうとしていた、残る四機を我々が押収し、今使用しているというわけですね」


「動力源は!?」


「それも先日押収し、我々が保管していたフォルネスの血を。操作は全てウチの隊長である秋山志木が行っています」


「っ、な、ならば何故周りに人っ子一人いない!? 菊谷荘司の持つアルターシステムだけでは、駅前の人々全員を避難させることなど不可能だし、それは量産型アルターシステム残り二個を使用しても同様だ!」


「Jアラートや、緊急避難警報とかってご存じですか? 今この周辺、半径一キロ圏内は全てその範囲内です。貴方が荘司と会った時辺りから警報を流して自衛官と警察官が協力し、範囲外にある公民館へと避難させています。駅前に用意していた大型バス二十台程度を使用し、駅前にいた人々を、そして周辺にお住いの方も可能な限りね」


「だ、だが、地震や台風などでも無い今の状況で、正常性バイアスが働く人間を、そう早く動くハズが……」


「地震や台風ならそうでしょうね。だから志木さんが利用したのがエルスや、実際に存在したエルスの製造を行ったテロ組織の名前です。


『日本の地方都市・秋音市へテロを敢行する』という偽の情報を流し、実際にエルスを投入する――人々がエルスの脅威を目にして、それでも逃げないとお考えですか?」



 変身を解除した白兎が、ポケットから取り出したスマートフォン。


SNSの画面を開き、トレンドにもなっている『秋音市』で検索をかけると、エルスが両腕を上げて周りを威嚇する映像が拡散されていた。



「流石日本の自衛隊と警察官です。パニックになる民衆を素早くバスや車に避難させて、公民館方面へ真っ先に逃げています。元々以前の陥没事件があったせいで車の通りが制限されていた事も、今回作戦が上手く言った要因でもあるでしょう」


「だ、だが何時までも隠し通せるものでもない! エネミーの姿を見る民衆が、少なからずいるかもしれないじゃないか!」


「少なからずいるかも、程度の人数であれば、荘司や僕のアルターシステムが放つ認識阻害機能で誤魔化せます。――どうでしょう。人間の持つ技術ややり方だけでも、意外とやるでしょう?」



 僕達が恐れたのは別でした。


白兎はそう続けて言葉にして、アルターシステムを再度装着しなおした。



「問題が多くありましたよ。あなた方がすぐに行動を起こすかどうかとか、本当に多くの問題が。


 まず貴方が荘司を本当に狙うかどうかが賭けだった。


そして荘司と殴り合っている時にエンドの乱入や、他のエネミーがやってくる場合も想定しなければならなかった。


もし作戦通りエルスを放つよりも前に、エネミーが放たれてしまった場合はどうしようもなかった。


――でも、状況とあなた方の性格、それらを総合して考えた結果として、こうする事が理論上一番であると、志木さんは判断した。


 色々と綱渡りな所はありましたが、こうして僕達は成功し――今頃荘司は優奈の奪還に動いている筈ですよ。エネミーなんかエルスと四六に任せて、悠々とね」


「き、さま等アアアアッ!!」



 パープルの怒号と共に白兎も再度ホワイトへ変身。襲い掛かる彼女へ銃口を向け、トリガーを引く。


無人の駅前で行われる攻防に、観衆はいない。



**



 鳴海産業グループビルは、館内全域に発令されたJアラートによる警報を受け、全ての人間が避難を終了し、既に無人と化していた。


荘司は誰もいない広々としたロビーに入り、駆け出しながらエレベーターの三十四階へと昇っていく。


一分と掛からず到着し、扉が開いた瞬間に身を乗り出すようにして降りた彼だったが、彼を出迎えたのは、エレベーターより遠く、一番奥の部屋から身体を出して、今こちらへと歩いてくる一人の男だった。



「エンド」


「よぉ、菊谷荘司。わざわざ死にに来てくれるとは、嬉しい限りだよ」


「オメェに用はねぇ。……いや、ねぇ事はねぇけど、後回しだ。優奈を返せ」


「返すかよ。その前にお前を殺し、アイツをオレだけのモノにしてやるさ」


「優奈は誰のモノでもねぇ、勝手にテメェの所有物にすんな」



 二者は近づきながら、互いにアルターシステムを構える。


だが変身する気は未だなく、口を開いて違いを睨み続けるだけだ。



「オレなら優奈を抱ける。アイツを一人の女として愛してやれる。しかしお前はどうだ? アイツは元男の、親友だろ。それを女として、アイツを抱けるのか?」


「抱く事が全てじゃねぇだろ。セックスが全部じゃねぇだろ。そう言う番いがどうとかしか語れねぇケモノが、アイツに触れるな。アイツを惑わすな」


「女も満足に抱けねぇヘタレが」


「抱く事しか頭にねぇヤリチンが」


「お前はオレが殺す」


「お前こそ俺が殺す」



 互いに理解する事が出来ぬと判断し――否、もうそうした言葉を交わしても相手を理解しようとすらしない二者による罵倒の浴びせ合いは、両者が眼前に近づいた事により終了した。


荘司が振り込んだ拳が頬にめり込ませたエンドが、二つのアルターシステムを繋ぎ合わせて変身。


アルタネイティブ・ヴィヴィッド・エンドへと成り代わった彼女が、振り込まれる荘司の拳を全て肉体で受け止めた後、僅かに動きが止まった瞬間を見計らって拳へとアッパーカットを決め、僅かに彼の身体が浮いた瞬間、その左足を軸に右足で思い切り蹴り込み、彼をオフィスの壁に衝突させた。


まるで発泡スチロールかのような柔さで、衝突した壁が崩れ、奥の部屋へと雪崩れ込む事となった荘司。


しかし頭を瓦礫で打ちながらも、しかし眼力に宿る殺意を以てして、今近づいてきたヴィヴィッド・エンドへ、乱雑な蹴りを一撃腹部へと叩き込み、立ち上がって、何度も何度も、その端正な顔を殴り続ける。

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