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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【聖域のアルタネイティブ-卒業編-】
122/190

変わりゆく世界-14

 お手を、と伸ばされた手。その意味が分からず、優奈は身を怯ませながら、一歩、また一歩と、彼女――アルタネイティブ・パープルから距離を取る。



「エンド様は、貴女を大変お気に召しておられます。今後来る『エンド様が統治する新たなる世界』に、貴女を妃として、招きたいとの事です」


「アイツ――侵略を諦めてなかったのか!? 今日した話は何だったんだよ!?」


「侵略ではありません。地球とミューセルの統治により、一つの国家となる素晴らしい関係にございます。ただ、その統治を行うが、我が王たるエンド様であるだけ。


 今世界を統べていると言っても過言ではないアメリカ大統領に代わり、エンド様が地球を統治するだけの事ではありませんか。そこに、何の不都合が地球人にありましょう」


「それは……っ」


「さぁ、お手を」



 取って下さい、と言いかけたパープル。


しかし、彼女の言葉は、今彼女の顎に向けて打ち込まれた掌底によって阻まれた。



「――い、つぅ、アンタらアルタネイティブって、装甲で覆ってない所も固くない?」



 掌底を放った者は、スーツ姿の女性である。


久野恵梨香。優奈の姉であり、彼女も優奈と同じく崩沈技拳法の使い手である。



「姉ちゃん逃げろ!」


「可愛い妹放って、逃げられるわけないっしょ!」


「素晴らしい姉妹愛でございます。――しかし何人も、エンド様の計画を邪魔する事は許されない」



 今、パープルの素早い二撃が恵梨香を襲う。


彼女は「早」と言いながらもその腕を見切り、何とか全ての攻撃を受け流し、カウンターとして顎に二発、掌底を連続して打ち込んだ。



「早いですね」


「それはこっちの台詞だッてェの……!」



 狭い優奈の自室で行われる、パープルと恵梨香の演舞を、優奈はただ見ている事しか出来なかった。


恵梨香の高い技量によって、パープルの放つ攻撃は全て受け流されているも、しかし変身している故に攻撃力が、受け流す事に成功している恵梨香を確かに疲弊させている。


パープルはどこか楽し気に、まるで人間による抵抗を楽しむかのように、本気を出していない。



「やめろ……やめろッ!!」



 今、優奈が見ていられずに打ち込んだ拳。


しかし、アルターシステムによって強化すらされていない優奈の拳が彼女の頬へ叩き込まれた所で、僅かに動きを止めるだけで、ダメージもなっていない。


むしろ、今優奈の腕を取り、その身を抱き寄せた事によって、恵梨香が動けなくなった。



「優奈っ!!」


「姉ちゃん……、っ! 逃げろ……っ!」


「何言ってんの、アンタが」


「オレは大丈夫、大丈夫だから……っ」


「本当に美しい姉妹愛だ。……私、実は美しい者は壊したくなる主義でしてね」



 パチンと指を鳴らした瞬間。開かれたゲートより、狭い部屋の中に押し寄せる三体のスネークウルフタイプエネミー。


ギョッと驚く恵梨香が構えようとするも、その前に振り込まれた腕。


姿勢を崩しながら避けた恵梨香だが、しかしスネークウルフは止まって等くれない。



女だ、と。


食え、と。


食えるぞ、と恵梨香に群がる姿に、優奈が涙を流して叫ぶ。



「いく、行くから! エンドの所行くから、姉ちゃんに手を出さないでくれッ!!」


「ほう、それは喜ばしい。貴女が自発的に来て下さるのならば、エンド様もお喜びになるでしょう」



 ですが――と。


パープルは、見下すような視線を恵梨香へと向ける。



「彼女は抵抗を辞めぬようですし、このままでも構いませんね?」


「それじゃ意味が無い!! 止めてくれって言ってるんだよっ!!」



彼女はスネークウルフに対抗して拳を振るい、蹴りを放ち、殺されぬように、食われぬように立ち会って、身体に傷を負いながらも雄叫びを放ち、今一体の敵を、強く蹴りつけた。



「ざけんな優奈……ッ! 私がそんなヤワな姉ちゃんじゃねぇって知ってるっしょ!?」


「姉ちゃん……っ」


「どうにも、彼女には平伏と言う言葉の知識が欠けているようだ。――あとは任せる」



 ゲートを開き、優奈を引きずりながら去っていくパープルを追おうとする恵梨香。


しかし、倒せていないスネークウルフが次々に彼女の前に立ち塞がり、崩沈技の基本も忘れ、激高しながら殴りかかる。



「どけェッ!! 私のたった一人、可愛い妹を拉致するあんな輩を許しておけるかァッ!!」



 しかし、三体は言葉を発する事はない。


ただ肥大化した腕を振るい、恵梨香へと襲い掛かるのみで、チクショウと無念の声を上げながら、少しでも抵抗してやると拳を振おうとした――その時だった。




「――シャァアッッ!!」




今、三体のスネークウルフが、吹き飛ばされた。


突然の事に息すら忘れた恵梨香の目には、屋根を突き破って彼女の眼前に立ち、三撃の拳をスネークウルフへと振るった巨大な男の姿が、ただの肉壁にしか見えていなかった。



「……え?」


「衰えたか、恵梨香」



 ボゴッ、と。


体中の筋肉を肥大化させ、威圧感を更に増した大男の姿がそこにあった。


それがスネークウルフの振るう腕を掴むと引き千切り、痛みで叫ぶ相手の声が鬱陶しいと言わんばかりに口内へ拳を叩き込み、体内から犯すようにしてそのまま腕を振るい、残る二体のエネミーを、壊していく。



「ふしゅうぅ……ッ!」



 ただ一呼吸を済ませただけなのに、恵梨香はエネミーに襲われる以上の恐怖を感じた。


目の前にいる大男には――それだけの圧がある。



「お……お父、さん? いつ、何時日本に、戻って来たの?」


「ついさっきだ。先週、何やら秋音市で騒動があったという噂を聞きつけてな」



 久野優奈と久野恵梨香の父である、崩沈技拳法第四後継者・久野岩平の姿だ。


彼は恵梨香の頭を撫でながら「腕が落ちたようだな」とだけ言うと、今窓ガラスを割って現れたアルタネイティブ・ブルーに「荘司か」と声をかけた。



「優奈を頼む。何やら紫の奴に連れて行かれた」


「親父さん、アンタ何時の間に」


「早く行け。――俺の可愛い息子だった、現娘に何かあってみろ。お前でさえ許さんからな」



 彼より放たれた威圧感に、ブルーは息を呑みながらも、入って来た窓から外へと戻っていく。


 彼女の姿を見届けた後、恵梨香はぺたりと足を床に付けて、ため息をつく。



「……リフォームしたのにぃいいっ!! お父さんのバカッ!! 普通に玄関から入って来いよクソ親父グレるからな!?」


「……すまん。玄関の扉が小さくて、つい」


「にしても屋根突き破るよりは色々方法あるでしょうよ!? バイトでも何でもして修繕費払いなさいよ!?」


「……すまん」

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