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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【アルタネイティブ・クロス】
103/190

正義-01

「一つ、聞きたいことがあるのです」



 サール・クラージュが、未だにM60E3から無数の銃弾を放っている中、ブルーに声をかけた。


彼女は今まさに襲い掛かるエルスの一体に蹴りつけた後、短く「なんだ」とだけ問うた。



「優奈さんの記録なのですが、明らかに名前と性別だけ、書き換えられた痕跡が見られました」


「白兎の奴、真面目に仕事してなかったのか?」


「いえ、痕跡と言っても公的記録だけ見れば、一般市民が見ても違和感のないものです。


 ただ明らかに経歴がおかしい。男子校である玄武高校への入学もそうですが、彼女の記録には、まるで男性であったかのような経歴が多く残されています」



 ブルーの隣へ着地したセイントもまた「その記録は己も閲覧した」と話に入った。



「? どういう事? 優奈が元々男だったっていうの?」



 掌に火球を生み出し、それを投擲して災いを焼いた炎舞が疑問を口に挟み、ブルーは彼女の言葉に頷いた。



「優奈は、元々男だった。


 久野洋平。特撮ヒーローが好きで、自分もヒーローになりたいって志して、父親から拳法を学んで、俺みたいな無法者を諭し、笑顔で語り掛ける様な、そんな男だった」



 セイントが、何か考えついたように、呟く。



「アルターシステムの影響か」


「どういう事なのですか?」


「ヴァンプのアルターシステムは、自らの血を循環させる事により虚力を増幅させ、肉体を女体へと変貌させる。


 己の量産型アルターシステムは、ヴァンプの血を用いて虚力を増幅させ、肉体を女体へと変貌させる。


しかし、四六の持ち得るアルターシステムには、ヴァンプの血など言う特異な燃料は無い。


つまり、自らの肉体を変貌させることによって虚力を増幅させる他に、力を得る方法はない」


「その肉体変貌を繰り返しすぎて、優奈……ううん、男の洋平から女の優奈になっちゃった、って事?」


「そんな感じだ。さらに言えば、アイツは『あえて女の体になる症状を早める』事で、ブラスターフォームなんて力さえ手に入れた。


 ――そうなるって、分かっていながらな」



大体のエルスを片付ける事が出来た。もうヴァンパイアや災いの数も残り少ない。


四人は一斉に走り出し、最後の一狩りへと向かいながらも、話を辞めはしない。



「あの子が、女の子になってまでやりたかった事って、何なの!?」



 炎舞が災いの一体を叩き切りながら、問う。



「自分の守るべき正義を守る。それに仇成す奴を倒す。それだけだ」



 ブルーが、回し蹴りでヴァンパイアの一体を蹴り飛ばす。



「それは必ず成さねばならない事だったのか?」



 セイントがブルーの蹴り飛ばしてきたヴァンパイアに拳を突きつけ、殺し、問う。



「きっとそうなんだよ。アイツは自分の全てを投げ売ってでも、自分の正義を成し遂げたかった」


「だから――それは何でッ!?」



 滅鬼の刃を強くコンクリートに突き刺した炎舞。


 するとコンクリートの割れ目からマグマのように噴き出す火柱が、無数のエルス、ヴァンパイア、災いを焼いていく。



「そうして力を得る事で、正義を成し遂げる事で、ようやくアイツは、大切な人を守る事が出来ると考えた。


 何とか無事で済んだけど、アイツの姉さんは虚力を捕食されて、生きる屍となって、もう言葉を交わしてくれる事も無くなったと思い込んだ。


――アイツはもう、二度と何も失わない為にって心に決めて、言葉通り全てを殺した。


自分の性別すら。


 だけど、アイツはそれでも尚悩むんだ。



 ――倒してきた奴らにも、正義があったんじゃないか、ってな」



「……その想いを見届けた上で、菊谷さんはどう考えたんです?」


「アイツが女になろうが何になろうが、関係ない。


 ――今までもこれからも、俺はアイツの為に、この拳を振るう。それだけだ」



 今――変身を解いた荘司が、最後のエルスを殴り壊した。



 **



 アルタネイティブ・レッド・ブラスターフォームの拳と。


プリステス・ヴィヴィット・サニスの拳が、ぶつかり合った。


両者を中心として発生する衝撃波の中で、二人は拳と拳で殴り合いながら、言葉を交わす。



「貴様の言う正義とやらは矛盾しているッ! 正義を成す為の正義等、それは悪にも等しい傲慢だ!」


「そうだな、そんな事はワルツとやり合う前から、荘司に散々聞かされたよ!」


「ならもう一度私が問い直そう! 貴様は自身に仇成す者が持つ価値観を、願いを、想いを、その拳で殺してきたのだろう!? それが貴様の正義と語ってなっ!


 今こうして、我々の欲する願いを打ち砕こうとする行為は、我々にとって悪でしかない! だが貴様はそれを正義というか!?」


「認めてもらおうなんて思わないッ! 理解してもらえるなんて思ってないッ! それでも俺には守りたい世界があって、その為に倒すしかないなら、幾らでもこの拳で砕くッ!」



 レッドの拳がヴィヴィット・サニスの拳を弾き、彼女は受け身を取った上でハンドガンを両手に持ち、レッドに銃弾を放っていく。


 銃弾を避け、拳で弾き、地を蹴ってアルターシステムを脚部にかざす。



〈Alter・kick〉



背部と脚部のスラスターを吹かし、ヴィヴィット・サニスへアルターキックを見舞うレッドだったが、しかし彼女もまた、キックでそれに応戦した。



「分かんないんだよッ! お前たちをどうしたら正しい道に導けるか、どうしたら俺達の正義を認めてくれるか、それが分かんないから戦うんだッ!」


「ならばやはり、貴様の正義は偽りだッ! 答えも示さず、我々に否だけを突きつけるお前が、正しいわけがない、あっていい筈がない!!」


「お前だって、俺達に心開く事すらないのに!?」


「そもそも私はお前の正義など知った事か! シェリルの仇を――そして散っていった、カリスの無念を晴らすッ! それが今の私が抱く正義だッ!!」

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