正義-01
「一つ、聞きたいことがあるのです」
サール・クラージュが、未だにM60E3から無数の銃弾を放っている中、ブルーに声をかけた。
彼女は今まさに襲い掛かるエルスの一体に蹴りつけた後、短く「なんだ」とだけ問うた。
「優奈さんの記録なのですが、明らかに名前と性別だけ、書き換えられた痕跡が見られました」
「白兎の奴、真面目に仕事してなかったのか?」
「いえ、痕跡と言っても公的記録だけ見れば、一般市民が見ても違和感のないものです。
ただ明らかに経歴がおかしい。男子校である玄武高校への入学もそうですが、彼女の記録には、まるで男性であったかのような経歴が多く残されています」
ブルーの隣へ着地したセイントもまた「その記録は己も閲覧した」と話に入った。
「? どういう事? 優奈が元々男だったっていうの?」
掌に火球を生み出し、それを投擲して災いを焼いた炎舞が疑問を口に挟み、ブルーは彼女の言葉に頷いた。
「優奈は、元々男だった。
久野洋平。特撮ヒーローが好きで、自分もヒーローになりたいって志して、父親から拳法を学んで、俺みたいな無法者を諭し、笑顔で語り掛ける様な、そんな男だった」
セイントが、何か考えついたように、呟く。
「アルターシステムの影響か」
「どういう事なのですか?」
「ヴァンプのアルターシステムは、自らの血を循環させる事により虚力を増幅させ、肉体を女体へと変貌させる。
己の量産型アルターシステムは、ヴァンプの血を用いて虚力を増幅させ、肉体を女体へと変貌させる。
しかし、四六の持ち得るアルターシステムには、ヴァンプの血など言う特異な燃料は無い。
つまり、自らの肉体を変貌させることによって虚力を増幅させる他に、力を得る方法はない」
「その肉体変貌を繰り返しすぎて、優奈……ううん、男の洋平から女の優奈になっちゃった、って事?」
「そんな感じだ。さらに言えば、アイツは『あえて女の体になる症状を早める』事で、ブラスターフォームなんて力さえ手に入れた。
――そうなるって、分かっていながらな」
大体のエルスを片付ける事が出来た。もうヴァンパイアや災いの数も残り少ない。
四人は一斉に走り出し、最後の一狩りへと向かいながらも、話を辞めはしない。
「あの子が、女の子になってまでやりたかった事って、何なの!?」
炎舞が災いの一体を叩き切りながら、問う。
「自分の守るべき正義を守る。それに仇成す奴を倒す。それだけだ」
ブルーが、回し蹴りでヴァンパイアの一体を蹴り飛ばす。
「それは必ず成さねばならない事だったのか?」
セイントがブルーの蹴り飛ばしてきたヴァンパイアに拳を突きつけ、殺し、問う。
「きっとそうなんだよ。アイツは自分の全てを投げ売ってでも、自分の正義を成し遂げたかった」
「だから――それは何でッ!?」
滅鬼の刃を強くコンクリートに突き刺した炎舞。
するとコンクリートの割れ目からマグマのように噴き出す火柱が、無数のエルス、ヴァンパイア、災いを焼いていく。
「そうして力を得る事で、正義を成し遂げる事で、ようやくアイツは、大切な人を守る事が出来ると考えた。
何とか無事で済んだけど、アイツの姉さんは虚力を捕食されて、生きる屍となって、もう言葉を交わしてくれる事も無くなったと思い込んだ。
――アイツはもう、二度と何も失わない為にって心に決めて、言葉通り全てを殺した。
自分の性別すら。
だけど、アイツはそれでも尚悩むんだ。
――倒してきた奴らにも、正義があったんじゃないか、ってな」
「……その想いを見届けた上で、菊谷さんはどう考えたんです?」
「アイツが女になろうが何になろうが、関係ない。
――今までもこれからも、俺はアイツの為に、この拳を振るう。それだけだ」
今――変身を解いた荘司が、最後のエルスを殴り壊した。
**
アルタネイティブ・レッド・ブラスターフォームの拳と。
プリステス・ヴィヴィット・サニスの拳が、ぶつかり合った。
両者を中心として発生する衝撃波の中で、二人は拳と拳で殴り合いながら、言葉を交わす。
「貴様の言う正義とやらは矛盾しているッ! 正義を成す為の正義等、それは悪にも等しい傲慢だ!」
「そうだな、そんな事はワルツとやり合う前から、荘司に散々聞かされたよ!」
「ならもう一度私が問い直そう! 貴様は自身に仇成す者が持つ価値観を、願いを、想いを、その拳で殺してきたのだろう!? それが貴様の正義と語ってなっ!
今こうして、我々の欲する願いを打ち砕こうとする行為は、我々にとって悪でしかない! だが貴様はそれを正義というか!?」
「認めてもらおうなんて思わないッ! 理解してもらえるなんて思ってないッ! それでも俺には守りたい世界があって、その為に倒すしかないなら、幾らでもこの拳で砕くッ!」
レッドの拳がヴィヴィット・サニスの拳を弾き、彼女は受け身を取った上でハンドガンを両手に持ち、レッドに銃弾を放っていく。
銃弾を避け、拳で弾き、地を蹴ってアルターシステムを脚部にかざす。
〈Alter・kick〉
背部と脚部のスラスターを吹かし、ヴィヴィット・サニスへアルターキックを見舞うレッドだったが、しかし彼女もまた、キックでそれに応戦した。
「分かんないんだよッ! お前たちをどうしたら正しい道に導けるか、どうしたら俺達の正義を認めてくれるか、それが分かんないから戦うんだッ!」
「ならばやはり、貴様の正義は偽りだッ! 答えも示さず、我々に否だけを突きつけるお前が、正しいわけがない、あっていい筈がない!!」
「お前だって、俺達に心開く事すらないのに!?」
「そもそも私はお前の正義など知った事か! シェリルの仇を――そして散っていった、カリスの無念を晴らすッ! それが今の私が抱く正義だッ!!」




