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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【アルタネイティブ・クロス】
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混戦-02

「ふむん、面白い事になっているな」


「師匠、あそこにいるのアンタの子だろ? 助けなくていいのか」


「アレはAのガキだ。私に子はいない」



 秋音駅の天井に座り込む、秋音高等学校の制服をまとった少年――龍大大和は、菊谷荘司を指さして、隣に立つ女性へと声をかけた。


 女性は菊谷ヤエ (B)であり、彼女はタバコに口を付けながら、飛んできた炎舞の炎で火を点した。



「しかし、アルタネイティブ達がまとまるとは思っていなかった。いずれ七瀬七海を狙う者が現れるとは踏んではいたが、これならば彼女の安全を私が管理する必要はしばらく無いな」


「プリステスやヴァンプは知ってたが、防衛省にもアルタネイティブがいるとはな」



 龍大大和はパチンと指を鳴らした。


すると自身の背後に青白い火花が散り、それは一つの火縄銃を形作り、自動的に火縄に火を点け、銃弾を放った。


放たれた鉛玉は、彼らに近づいていた一体のヴァンパイアを撃ち、消滅させていく。


詰まらない事をしたと言わんばかりに、少年は立ち上がってその場から去っていく。



「見ていかないのか?」


「理沙の寝顔の方がよっぽど見ていて気分がいい。七瀬七海はこれで安泰だろう? なら僕は帰る」


「そうか――大和、お前の苗字、変だぞ」


「知ってるけどしばらく変えるつもりは無い。あんたはその菊谷って苗字をさっさと変えた方がいい。何百年使ってるんだ」



 手を振りながら去っていく大和の姿を見届けた後、Bも強く秋音駅の天井を蹴り、その場から飛び立ってしまう。



まるで――「この物語に付き合うつもりは無い」と言っているかのように、あっさりと。



**



中村スミレは、秋音高等学校の制服を着込んだ上でスカートの下にジャージを着込んだ少女だ。


彼女は秋音山の入山口に建てられたキャトル診療所から出ると、深いため息を付きながら秋音駅のホーム間通用口を抜け、現在アルタネイティブ・クロスが混戦を極める現場へとたどり着いてしまう。



「なんと、まぁ――お使いの帰りにこんな事態に行き会うとはな」



 スミレが小さく呟く。


状況は分からないが、鋼鉄の人型機械と、人の形をした異形がひしめき合い、更には無数の少女達が拳や剣、太刀を用いて戦っている様相を「あれプリステスか? 穏やかじゃないな」と呟きながら、脇を抜けようとする。


しかし、一機のエルスが彼女の存在に気付いたのか、その剛腕を振り下ろし、叩き潰そうとした光景を、アルタネイティブ・クロスの面々は誰も気付いていない。


彼女たちはアルターシステムによって、人払いが成されていると思っているので、現場に人がいると認識していなかったのだ。



 しかしスミレは、エルスが腕を高く振り上げ、それを下す前には、短く地面を蹴って、後ろへと跳ぶ事によって剛腕を避けていた。



――まるで、エルスの行動が事前に見えていたかのように。



更には落ち着いた様子で、コンクリートにめり込んだエルスの腕に触れると、青白い火花が点り、一瞬の内にエルスの腕を消したばかりか、手には鉄製のパイプが無数に持たれていた。



「ま、こんなもんいらないがな」



 バラバラと地面にパイプを落とし、帰路に就く時、ふと鳴海カンパニービルをチラリと見据えた。


事の中心地となっているビルを見て、少女はふと思い出したかのように呟くのだ。



「……あそこ、ミズホの親父が経営してるグループのビルだよな。何が起こってんだ?」



 気にはするものの、しかし面倒事に首を突っ込むのは御免だと言わんばかりに、その場から立ち去っていく。



彼女もまた――「この物語には付き合わない」と言っているかのように、あっさりと。



 **



 鳴海カンパニービルの屋上へと降り立ったレッド、ヴァンプ、乱舞の三人は、目の前でこちらを睨む二人の女性へと足を向けた。



「これで形勢逆転だ。さっさとミューセルに帰った方が身の為だぞ。まぁ帰った所で追いかける手段を探して、潰してやるが」


「正義の味方がいう言葉とは思えんな、アルタネイティブ・レッド。貴様はかつて久野洋平として、正義のヒーローを志していた筈だが」



 サニスの言葉に、レッドが表情をしかめた。彼女の言葉に何かを感じているように。



「俺は確かに正義のヒーローを今でも志してる。今じゃヒロインだけどな。――けど、俺は知ってる。


 正義なんか、この世のどこを探したって、無いんだ。


シェリルさんだって何が正しかったのか、わかってなかった。だからこそ少しでも正しい事をと、アンタらを守る術を提示したんだろ?」


「――お前がシェリルを語るなよッ!!」



 レッドの言葉に、カリスが激情を顕わにして、アルターシステムを稼働させる。


変身を遂げ、アルタネイティブ・ヴィヴィット・カリスへと変貌した彼女は、強く地を蹴ってレッドへと襲い掛かろうとするも、そんな彼女の振り込んだ拳を受けたのは、レッドではなく、ヴァンプと乱舞だった。


ギリギリと歯ぎしりをしたヴィヴィット・カリスは、そのまま拳伝いに二者から虚力を僅かに吸収し、口から放出した。


吐き出されるビーム砲にも似た光線を、ヴァンプの聖剣が受けると、彼女に向けて滅鬼の刃を上空から振り込む乱舞。


避け、乱舞の腹部を蹴りつけたヴィヴィット・カリス。


しかしそんな彼女の顔面をヴァンプの拳がめり込み、屋上の端まで飛ばされる。



「チ――クショウォッ!!」



 汚い言葉を吐きつつ、追撃をと迫るヴァンプ、乱舞の攻撃を躱していくヴィヴィット・カリス。


そんな三者のやり取りを見届けつつ、サニスが目を細め、アルターシステムを構えた。



「ああ、そうだ。お前がシェリルを、正義を語るな。


 彼は私たちの希望だった。絶滅に瀕する我々にエルスという力を、希望を与えてくれた。


シェリルを殺したのは、確かにワルツかもしれない。


けれど、そんな彼を本当の意味で殺したのは、地球という文明・文化だ。



――そんな彼を殺した地球を憎む。彼が与えた希望を壊すやもしれん貴様の正義を恐れる。



我々は、戦って、明日を得るッ!!」

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