混戦-02
「ふむん、面白い事になっているな」
「師匠、あそこにいるのアンタの子だろ? 助けなくていいのか」
「アレはAのガキだ。私に子はいない」
秋音駅の天井に座り込む、秋音高等学校の制服をまとった少年――龍大大和は、菊谷荘司を指さして、隣に立つ女性へと声をかけた。
女性は菊谷ヤエ (B)であり、彼女はタバコに口を付けながら、飛んできた炎舞の炎で火を点した。
「しかし、アルタネイティブ達がまとまるとは思っていなかった。いずれ七瀬七海を狙う者が現れるとは踏んではいたが、これならば彼女の安全を私が管理する必要はしばらく無いな」
「プリステスやヴァンプは知ってたが、防衛省にもアルタネイティブがいるとはな」
龍大大和はパチンと指を鳴らした。
すると自身の背後に青白い火花が散り、それは一つの火縄銃を形作り、自動的に火縄に火を点け、銃弾を放った。
放たれた鉛玉は、彼らに近づいていた一体のヴァンパイアを撃ち、消滅させていく。
詰まらない事をしたと言わんばかりに、少年は立ち上がってその場から去っていく。
「見ていかないのか?」
「理沙の寝顔の方がよっぽど見ていて気分がいい。七瀬七海はこれで安泰だろう? なら僕は帰る」
「そうか――大和、お前の苗字、変だぞ」
「知ってるけどしばらく変えるつもりは無い。あんたはその菊谷って苗字をさっさと変えた方がいい。何百年使ってるんだ」
手を振りながら去っていく大和の姿を見届けた後、Bも強く秋音駅の天井を蹴り、その場から飛び立ってしまう。
まるで――「この物語に付き合うつもりは無い」と言っているかのように、あっさりと。
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中村スミレは、秋音高等学校の制服を着込んだ上でスカートの下にジャージを着込んだ少女だ。
彼女は秋音山の入山口に建てられたキャトル診療所から出ると、深いため息を付きながら秋音駅のホーム間通用口を抜け、現在アルタネイティブ・クロスが混戦を極める現場へとたどり着いてしまう。
「なんと、まぁ――お使いの帰りにこんな事態に行き会うとはな」
スミレが小さく呟く。
状況は分からないが、鋼鉄の人型機械と、人の形をした異形がひしめき合い、更には無数の少女達が拳や剣、太刀を用いて戦っている様相を「あれプリステスか? 穏やかじゃないな」と呟きながら、脇を抜けようとする。
しかし、一機のエルスが彼女の存在に気付いたのか、その剛腕を振り下ろし、叩き潰そうとした光景を、アルタネイティブ・クロスの面々は誰も気付いていない。
彼女たちはアルターシステムによって、人払いが成されていると思っているので、現場に人がいると認識していなかったのだ。
しかしスミレは、エルスが腕を高く振り上げ、それを下す前には、短く地面を蹴って、後ろへと跳ぶ事によって剛腕を避けていた。
――まるで、エルスの行動が事前に見えていたかのように。
更には落ち着いた様子で、コンクリートにめり込んだエルスの腕に触れると、青白い火花が点り、一瞬の内にエルスの腕を消したばかりか、手には鉄製のパイプが無数に持たれていた。
「ま、こんなもんいらないがな」
バラバラと地面にパイプを落とし、帰路に就く時、ふと鳴海カンパニービルをチラリと見据えた。
事の中心地となっているビルを見て、少女はふと思い出したかのように呟くのだ。
「……あそこ、ミズホの親父が経営してるグループのビルだよな。何が起こってんだ?」
気にはするものの、しかし面倒事に首を突っ込むのは御免だと言わんばかりに、その場から立ち去っていく。
彼女もまた――「この物語には付き合わない」と言っているかのように、あっさりと。
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鳴海カンパニービルの屋上へと降り立ったレッド、ヴァンプ、乱舞の三人は、目の前でこちらを睨む二人の女性へと足を向けた。
「これで形勢逆転だ。さっさとミューセルに帰った方が身の為だぞ。まぁ帰った所で追いかける手段を探して、潰してやるが」
「正義の味方がいう言葉とは思えんな、アルタネイティブ・レッド。貴様はかつて久野洋平として、正義のヒーローを志していた筈だが」
サニスの言葉に、レッドが表情をしかめた。彼女の言葉に何かを感じているように。
「俺は確かに正義のヒーローを今でも志してる。今じゃヒロインだけどな。――けど、俺は知ってる。
正義なんか、この世のどこを探したって、無いんだ。
シェリルさんだって何が正しかったのか、わかってなかった。だからこそ少しでも正しい事をと、アンタらを守る術を提示したんだろ?」
「――お前がシェリルを語るなよッ!!」
レッドの言葉に、カリスが激情を顕わにして、アルターシステムを稼働させる。
変身を遂げ、アルタネイティブ・ヴィヴィット・カリスへと変貌した彼女は、強く地を蹴ってレッドへと襲い掛かろうとするも、そんな彼女の振り込んだ拳を受けたのは、レッドではなく、ヴァンプと乱舞だった。
ギリギリと歯ぎしりをしたヴィヴィット・カリスは、そのまま拳伝いに二者から虚力を僅かに吸収し、口から放出した。
吐き出されるビーム砲にも似た光線を、ヴァンプの聖剣が受けると、彼女に向けて滅鬼の刃を上空から振り込む乱舞。
避け、乱舞の腹部を蹴りつけたヴィヴィット・カリス。
しかしそんな彼女の顔面をヴァンプの拳がめり込み、屋上の端まで飛ばされる。
「チ――クショウォッ!!」
汚い言葉を吐きつつ、追撃をと迫るヴァンプ、乱舞の攻撃を躱していくヴィヴィット・カリス。
そんな三者のやり取りを見届けつつ、サニスが目を細め、アルターシステムを構えた。
「ああ、そうだ。お前がシェリルを、正義を語るな。
彼は私たちの希望だった。絶滅に瀕する我々にエルスという力を、希望を与えてくれた。
シェリルを殺したのは、確かにワルツかもしれない。
けれど、そんな彼を本当の意味で殺したのは、地球という文明・文化だ。
――そんな彼を殺した地球を憎む。彼が与えた希望を壊すやもしれん貴様の正義を恐れる。
我々は、戦って、明日を得るッ!!」




