蕾 1
「カティ、顔色が悪いわよ?」
マダム・リリにそう指摘されるのも仕方ない。
他の針子達に頼んだ分の仕上げはカティの仕事だ。
いくつか仕上がった物は、依頼主の所に届けてから必要があれば調整をしていく。
それに加えて、ロザリアの帽子は他の帽子とは違い、元にする型から作らなければならなかったため、思ったよりも時間がかかってしまっている。
そのため、カティはお店の一室を借りて寝泊まりするはずだったが、寝る時間を惜しんで作業をしているので、完全に寝不足である。
「体調管理してこそのプロよ。気持ちは分かるけれど、今日はきちんと自分の家に帰って寝なさい。
それも今すぐ!」
元を辿れはマダムのせいもある気がするのだが、引き受けたのは自分だ。
マダムの言っている事が正しいだろう。
カティは素直に頷いた。
すると、カランカランとお店の扉が開いた。
そこに立っていたのはアレクダレンだった。
「まあぁ!アレクダレン様!」
「こんにちはマダム。近くを通ったので寄らせてもらいました。妹が帽子の事を気にしていたなと思いまして......カティ?」
カティに視線を向けたアレクダレンは険しい表情に変わる。
「随分顔色が良くないが....体調が悪いのか?」
「いえ......そうではなく....」
「寝不足ですわ。今帰らせる所でしたの。」
カティの言葉を遮ってマダムが告げると、アレクダレンはまた更に険しい顔になった。
「妹が無理を言ったせいだな.....私が馬車で送ろう。」
とんでもない!と勢いよく椅子から立ち上がろうとしたカティは足元がふらついて、ガタガタっと音を立ててテーブルの上に両手をついた。
「きゃあっカティ!大丈夫!?」
駆け寄ったマダムの腕をつかもうとすると、何故だか自分の体がふわっと浮く。
「すみませんが、マダム。カティの家までの道をわたしの御者に伝えてもらえませんか?」
なぜアレクダレンの声が至近距離で聞こえるのかと思い、声の方向に顔を向けると金に近い淡い茶色の瞳とぶつかる。
カティはアレクダレンに抱き抱えられていたのだ。
それを理解したカティは一瞬のうちに耳まで顔を赤く染めたが、同時に目眩をおこす。
「な、な、な、な、な.....っっっ」
「話すな。辛いだろう?じっとしていてくれ。」
相変わらずの眉間にシワは寄っているが、その声は優しい。
アレクダレンのありえない行動と恥ずかしさで混乱したカティはそのまま意識を手放した。