アレクダレン 2
侯爵家の馬車に揺られながら、自分の気持ちを落ち着けようとカバンからペンを出して、ペン羽で眉間を摩る。
ふわふわふわふわ
癒される。
「.....何を?」
怪訝そうにアレクダレンが尋ねてくる。
「はっ!いえ!あの、これは....その........。」
しまった。
いつもの癖でやってしまった。
きっと変人だと思われている。
「く、癖のようなもので....っ!」
「癖?」
「.....考え事をしている時や、気持ちの切り替えの時などこうすると、頭が、すっきりするのです.........」
側から見れば変な癖だという事は理解しているカティは言いながら羽で目元を隠し俯いてしまう。
「......誰にでも癖はあるものだ。」
癖のことを知ると大抵の人は馬鹿にして笑うのだが、アレクダレンの声は意外にも優しかった。
「あの...アレクダレン様にも何か癖があるのですか?」
聞くと、ぐっとアレクダレンの眉間にシワが寄る。
カティが思わず口を真横に結ぶと、
「ああ、違う。怒った訳ではないんだ。コレが私の癖なんだ。」
そう言って自身の眉間を指差す。
「眉間の.....シワ........」
妙に納得した声を出してしまった。
だが、アレクダレンは不機嫌そうに見えるがそうでもないらしく、深刻な顔で頷く。
「....私は昔から表情を出すのが苦手で....嬉しくても悲しくても全てこの顔になる。
そのせいで昔から女性や子供からは恐がられている。」
「それは........なんというか........」
お気の毒です、とは言葉に出来なかった。
「同情は不要だ。」
今度は不機嫌にしてしまったようだ。
慌てて何か言おうとするも何も言葉が出てこず、口をパクパクさせていると、ふとアレクダレンの表情が和らぐ。
「君は本当に全て表情にでるのだな。」
「....申し訳ございません.....」
いや、と小さくアレクダレンに返され、カティはしばし考える。
確かに不機嫌そうな顔は整っているから余計に迫力があるが、こうして少しでも話をさせてもらうとなんとなく喜怒哀楽くらいは分かるものだ。
「.....けれども、あの。」
「アレクダレン様はお優しいと思います。
ロザリア様を置いていかれたりされなかったし、ついでとおっしゃっていましたが、侯爵家に連れて行ってくださったり、私としては大変身の余る心遣いを頂いています。」
真っ直ぐ目を見て、そう伝えた。
ただやはり無礼なのですぐに視線ははずしたが、どうしても知って欲しかった。
「.....最初、怯えていただろう?」
「あれは....お二人があまりにも美しくて....き、緊張を...........」
アレクダレンはポカンとしている。
いや、実際は眉間にシワを寄せたままなのだが。
あら、私表情が分かるようになってるわ。
カティはそんな事を思いながら、しばらくお互いに沈黙していると、聞こえないくらいの小さな声で、
「そうか」
とアレクダレンが溢したのを狭くはない馬車の中でしっかりとカティの耳は拾っていた。