カティ
カティはお城の見える石畳の街に住む針子だ。
彼女の務め先の帽子屋のオーナーは貴族令嬢だけでなく、王族にも人気の帽子デザイナー、マダム・リリである。
マダム・リリとカティの母、サランは幼馴染で、子供のいないマダム・リリはカティが産まれてからずっと自分の子供のように可愛がってくれている。
カティに自らデザインの仕方や針の刺し方など熱を入れて教える程に。
またカティも飲み込みも早く、手先も器用なので、あっという間にマダム・リリの指導を吸収していった。
今ではお店の看板娘だ。
今日も一日の仕事を終えたカティは、次々と帰路につく針子達に挨拶をしながら、目の前に広げた真っ白なままの紙と対峙する。
「あら、カティ。あなたは帰らないの?」
そう声をかけたのはマダム・リリである。
「来月に王太子様の生誕パーティーがあるでしょう?それに伴って、パーティーに参加される令嬢を王妃様が選抜なさるためにお茶会を開くのですって。」
「あぁ、そういえばそうだったわね。王妃様付きの侍女の方に聞いたわ。<王太子妃候補>のお茶会ね。」
カティは眉を下げながら頷いた。
「それなのよ、ママ....。今回の生誕パーティーで王太子様の婚約者を決めたい王妃様が、候補を絞るためにお茶会をなさるとしっかり内緒で宣言されたものだから、ご令嬢方からたくさんの注文がついた依頼が多くて.....ってママの方が依頼きているでしょう?」
「私はご贔屓の方、何名かお受けしたけれど、その他はカティをお薦めしておいたわ。」
にっこりと微笑んだその顔に有無を言わさない何かを感じたカティは頬を引攣らせる。
「.....どうりで、依頼数がおかしいなと思ったのよ。ママ、ひどいわ....。」
恨めし気にマダム・リリを睨むもどこ吹く風。
「まぁ、これも経験よ。手伝いはするからやれるだけやってごらんなさいな。いずれは独り立ちしてもらいたい親心ですもの。」
そう言ってウィンクをする姿に溜息をついて、諦めたようにペンの先にある羽で眉間を撫でる。
一度言い出したら聞かない彼女の事だ。
反論しても時間の無駄だという事は長い付き合いで分かっている。
彼女が自分の事を思って、そうしてくれているのも知っているので、余計な事も言えない。
まぁ、確かに腕試しのいい機会だ。経験にもなるだろう。
ペン先の羽は柔らかく、釈然としない気持ちも固くなった頭も溶かしてくれる。
これは物事を前向きに考えるためのカティの癖のようはものである。
そうして真っ白な紙の上にインクを落とし始めた彼女の様子を優しく微笑みながらマダム・リリは見守っていた。




