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2日間の試験を終え、結果が帰ってくるのはその翌日。
テレアは結果を見たいような、見たくないような、不安定な心境だった。
手応えはある。今までで一番解答用紙の空欄は少なかった。だがそれでもやはり心配で、右手が筋肉痛になりそうだ。
試験はどの教科も100点満点で、成績表には点数だけではなく、平均点や中央値から算出された4段階のランクも表記される。
◎が最も良くて、続いて○、△、×となる。
一学期に4回ある試験のうち、×を3回取ると単位はもらえず、場合によっては来年また同じ授業を取らなくてはならない。
テレアは×を取ったことはほとんどないが、◎を取ったこともまたほとんどない。大抵○か△だ。
苦手だったダナン語は△ばかりだったが、ヴァニッドのおかげで何とか○を取れるようになったところだ。
教室にたどり着いたテレアに、カナリアが、いの一番に寄ってくる。
変に気取った、静々とした動きをしている。違和感しかない。
彼女の顔だけしか知らない者ならば、なんと美しく上品な女性だろうとでも思うのかもしれないが、そうではないことをテレアは知っている。
「テレアさん、ご機嫌はいかが?そういえば、今日試験の結果が返ってきますわね。どうしましょう、わたくし今回一番成績が悪いかもしれませんわ」
そう演技がかった様子でカナリアは嘆いてみせるが、テレアはそれどころではない。大根女優を無視して席に着く。
それが不満だったのか、カナリアは唇を尖らせてテレアの後ろをついてきた。
「つれないわねー。緊張してるだろうと思って、ほぐしに来てあげたのに」
カナリアは先ほどの下手な猫を脱ぎ捨てて、テレアの座る席の一つ前の列に座ってこちらを向いた。
階段状の座席になっているので、少し見上げる形になる。
「結構よ、カナリア。後は結果を待つだけ。緊張してたってできるわ」
「ふーん、結果を待つだけねぇ。まぁ、いいけど。でもきっとあなた、すぐに私を頼ることになると思うわよ」
「頼る?」
「そ。じゃあ、先生入ってきたから前向くわね」
頼るってなんだろう。テレアは疑問に思ったが、入室して来た教諭が成績表を渡すために名前を呼びあげていき、考えている余裕はなかった。
成績表を受け取った者達は、皆一喜一憂している。進学が危ぶまれていた生徒も何とか首の皮一枚繋がったようで、雄叫びをあげていた。
いつもは教授の眠たくなりそうな声が響くだけの教室だが、成績表が配布される時ばかりは騒がしい。
そんな中で、漸くテレアの名前が呼ばれる。
「テレア・アドレーゼ」
「は、はいっ」
名前を呼ばれ、慌てて席を立つ。
途中こけそうになりながらも、何とか成績表を配布する教諭の前に立ち、成績表を受け取った。
そのまま配布された場所で突っ立って成績表を見ていると、後から来る人の邪魔になる。
テレアはそこでは成績表を広げず、気になりながらもそれを視界に入れないようにしながら座席に戻る。
荷物を奥の席に置いてしまったのが悔やまれた。もっと手前の席を取っておけば、少しでも早く見られたのに。
すれ違う人とぶつからないように気を付けながら、何とか荷物を置いた席にたどり着き、一度テレアは息を落ち着けた。
目を閉じて、深呼吸。それからゆっくりと瞼を上げて、テレアは成績表に目を通した。
すると、そこにあった成績表には、なんと、△も×もなかった。
○ばかりで、◎さえもいくつか書かれている。
テレアは信じられない思いでその成績表をもう一度しっかり見るが、何度見ても同じだ。
名前欄にもしっかりテレアの名前が記入されており、他の人の成績表と入れ替わったなんてこともない。
特に、苦手だったダナン語が◎になっていることが信じられない。ダナン語だけは一生◎なんて取れないと思っていたのに。
つまり、今回の成績は、胸を張って今までで、一番良い成績と言えるだろう。
テレアは思わずガッツポーズをする。努力が報われたのだ、嬉しくないわけがない。
あぁ、やった、これで、これで・・・?
そこでテレアはふと思い至る。
そうだ、告白だ。
成績が今まで一番良かったら、ヴァニッドに告白すると宣言した。
ミスリラでは、平日、平日、平日、休日、の4日を2回繰り返して一週間とする。
昨日と一昨日が試験日で、もちろん平日だ。
そして、今日ももちろん、平日だ。
では、次、彼に会うのはいつなのか。
テレアはようやく自分の置かれた状況を理解した。
想いを伝えると言ったはいいが、どんな風に伝えればいいのか。
試験のことで頭がいっぱいだったテレアは、どうやって伝えるのかなんてまともに考えていない。
テレアには、上手い告白の方法など、さっぱり、全くもって、欠片も、分からない。メリザに相談したところで、そんなの自分で考えなさいとでも言われるのがオチだ。
明日彼に会うのに。ヴァニッドに出会ってから初めて、テレアは彼に会いたくないと思ってしまった。
誰か、誰かいいアドバイスをくれないだろうか。出来れば事情を知っていて、親身になってくれる友人は。
「ね?テレア。やっぱり頼ることになったでしょ?」
頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、ウィンクを送っているのは栗色の少女。
悲壮な顔を浮かべるテレアには、お転婆な目の前の少女が女神のように思えた。




