ジェットコースター・降下&下車
三途の川のあとも、かなり悲惨な状況が待ち受けていた。まだ幼い子供の叫び声や成人していたであろう人たちの助けを求める声。正直、目をつぶりたくて仕方だない光景が、そこにはあった。
声や音だけでなく、においまでもがリアルな情報としてミクのもとへと届く。
(もういやだ・・・帰りたい・・・)
それでも、あの子を助けるためと自分に言い聞かせるしかなかった。その思いはまるで、呪いのようにミクに勇気をくれた。
【助け・・・】
【何をしている!さっさと動け!】
こうして、幼い子供が一人、また死んでいった。
『次は、阿鼻地獄でございます。地獄最大にして最下層の恐怖を、どうぞお楽しみくださいませ』
阿鼻地獄は、本当にひどい場所だった。人の皮をはぎ、肉をちぎられ、丸められる。
この悪臭の中だったら、仏や悪魔でさえも鼻をつまんで逃げだすのであろう。次々と人が団子にされる。そこに寄って来る鳥や動物たち。
【どうした?腹が減ったか。そこにある団子をくってもいいぞ】
そういって、餌を与える感覚で丸めていた鬼が言う。その言葉を聞いて嬉々として団子を食べる動物たち。
(くるってる・・・いったい、いつになれば終わるっていうの・・・)
『そろそろ、次へまいります。ここで降りることも可能でございます。お降りの方は、ボタンを押してお知らせください』
今まで、各場所で繰り返された言葉。きっと、早々と降りてしまった人もいるのだろう。でも、ここはジェットコースターなのだ。そんな状態で降りたら、落ちるに決まっている。
『次は~終点、天界でございます。これまで地獄を潜り抜けて来た方にだけ待っている”ご褒美”でございます。これまで様々な恐怖を乗り越えてきたものは、ここで永遠に暮らしていくこととなります。
ですが、ここで悪い行いをしてしまえば、再び地獄へと戻っていただくこととなっております。
お降りの方はボタンを押して、お知らせください』
天界。ここが終点といっても、少しずつだが、まだ動いている。ここまで来れても、冷静な判断力が低下しているため、降りる人がほとんどだろう。ミクも例外ではなく、ボタンを押そうとしていた。
『ミク・・・そ・・・だ・・・』
『ちょ・・・カ・・・やって・・・』
カイトとモナカの声がした気がして、ミクははっとした。
そして冷静になって周りを見渡してみると、まだ動いていることに気が付いた。
『・・・ッチ』
後ろで舌打ちが聞こえ、完全にジェットコースターは止まった。
『お疲れ様でした。これで、ジェットコースターはクリアでございます。お降りの際は、足元にお気を付けくださいませ』
_調整室_
「ちょっとカイト!何考えててんのよ!」
「だって・・・ミク・・・危険・・・いや」
「そうだとしても、他人の領域に干渉することは禁止でしょ?彼女は彼にぞっこんだから、気に入られるためだったら何でもやりそう」
「失礼デスよ。わたしをいったいなんダと思っテルんですか?」
カイト、モナカ、グレイしかいなかったはずの調整室に、女性が入ってきた。
「だって、フォンはなんでもしそうで怖いのよ。フウカだったら心配ないけど」
フォンと呼ばれた女性は、かなり怪しく笑ったあと、
「フウカは私の中にいるデスよ?もともとハこの体のアルジでしたが、わたしと交代シテくれたデス」
そういって、どこかに消えていった。去っていく前に、〝まぁ、オモシロイもの見れたデスから、内緒にしててやるデス”そう言い残していった。
「ほんと、つかめないやつね。次は・・・カイトの出番よ。ある程度は自由にできるけど、何かしなさいよ」
「分かった・・・行って・・・来ます・・・」
「行ってらっしゃい。アナウンスは私がやっておくよ」