8話 平和と予兆
その頃、イタリア・ローマ。
そこに十字軍の本拠地があった。
「アルド将軍。日本が陥落一部の都市を残し、魔王によって占拠されました」
十字軍の兵がアルドという中年の魔法騎士に告げた。アルドは食事をしながら話を聞いている。
「十字軍・日本支部。今は魔法教団だっけ?奴らはどうした?ふざけた奴らだが、実力はある」
「魔法教団は壊滅したと報告が…」
アルドは舌打ちをした。
「奴らが全滅したのは嬉しいが、やはり厄介だな。魔王は…」
「そうですね。報告によると、魔王軍は朝鮮を通ってロシアに行こうとする動きがあります」
するとアルドは立ち上がった。
「出陣準備だ。シベリアには近づけるな。あそこには、巨人どもが封印されている。破られるともっと厄介になる」
「はっ!」
兵はすぐさま部屋を出て、出陣の命令を本拠地の全域に広め、準備を開始させた。アルドも自身も戦いの準備を始めた。
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東京・練馬。
魔王軍の練馬区襲撃から一週間が経とうとしていた。
優はセツナに魔法を教わっていた。
「優、もう一度おさらいするよ。魔法は7つは何?」
「火、水、風、土、陰、陽、無」
それを聞いてセツナは頷いた。
「正解。まあ基本は火、水、風、土だけどね。じゃあ、今日は陰、陽、無について教えようかな」
優は黙ってセツナの話を聞いている。セツナは人差し指を立てて話を続けた。
「まずは陰。自分の心を利用する魔法。自分の心が闇に染まっていれば闇の魔法が発動する。逆に光に染まってる場合は光の魔法が発動する。そしていいところは、気持ちが強いほど力は大きくなる。例えば…魔王の『漆黒の槍』とかだね。あれは下級魔法だけど、闇の心が強い魔王は下級魔法でも強い。」
セツナは「次に陽」と言って中指を立てた。
「他のエネルギー源を利用する魔法。一番利用されるエネルギー源は太陽だね。」
セツナは「最後に無」と言いながら、薬指を立てた。
「簡単に言うと、どの属性にも当てはまらない魔法。空間魔法とか、練金術とか、あと召喚魔法かな」
セツナの話は一通り終わった。そこで優はセツナに質問した。
「1人の人間が全ての属性を使えるのか?」
「無理だね。神様たちじゃなきゃ」
セツナは即答した。
「最高でも3つまでだよ。いや、2人いたな…まあ、噂程度だけど」
「えっ…誰?」
「かつて魔王を倒し、封印した賢者。レオハルト・ファン・ギルシュ・シュタイン。そして魔王」
優はそれを聞くと歯ぎしりをした。それほど、優と魔王の差は大きい。改めてそれを知った。
自分は魔王には勝てないんじゃないか?そう思ってしまってもおかしくはない。
「ちなみに神様では、導きの精霊王・ユズが代表だね」
ーーあのチビが?
優は少し驚いた。まさかそこまで実力があるとは思っていなかった。やはり、神でも見た目で判断しない方がいい。判断してしまった自分を恥じた。
「それよりさ。なんか最近静か過ぎないか?」
優は雨が今にも降り出しそうな空を見て言った。
「確かに…ちょっと嫌な予感がするね。この一週間の静けさは…」
理由は簡単だった。魔王軍のほとんどが日本を出て、シベリアへと向かっていたからだ。
だが、日本の生き残った国民たちはそれを知らなかった。
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ロシア・シベリア。
「来たか…」
アルドは東からやって来た魔王軍の大軍を見つめていた。
人類『十字軍』対魔王軍の史上最大の戦いが始まろうとしていた。
後にこの戦いは『シベリア会戦』と言われる。