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世界は再び魔王によって滅ぼされる  作者: 桐生 深夜
一章 滅びゆく世界
8/9

7話 討論会

「ああ、もう呼び捨てさせてもらうね。看護士の演技も疲れたし…」


セツナは欠伸をしながら伸びをした。優を含め周りの人たちは状況が全く読めていない。


理由は次の通りだ。

その一。今まで丁寧な口調だった看護士が急に荒っぽくなったから。

その二。謎の力(魔法)で、魔王軍を瞬殺したから。

その三。セツナは看護士ではなく、宗教組織の1人だったから。

以上のことから周りの人たちは状況が読めていない。


一番最初に我に返ったのは優だ。


「魔法教団の人…やっと見つけた」


「ん?やっと見つけた?どういうこと?」


優は無意識につぶやいた言葉にセツナは質問する。優は喋ったつもりはなかったから自分でも驚いた。

優は仕方がないので、ありのままを話そうとしたその時。


「おい。ちょっと待て」


この付近に住んでいる男の住人が立ち上がり、怒りを込めた声で優を制した。優は思わず黙り込んだ。セツナは別に気にしていない様子だ。

男は話を続けた。


「お前…魔王軍なのか?」


そう聞かれるのも仕方がないと優は思った。この時代、魔法の存在を知っている一般人はいない。それに、魔法を使えるのは魔王軍しか表向きにはいない。


「いえ、私は魔法教団ですが。魔王軍と一緒にしないでください」


セツナは丁寧な口調に戻った。


「いや、信じられないね。そもそも魔法教団は『ただの宗教組織』だ。そんな特別な力が使えるわけがない。それにその謎の力は魔王軍の力だろ?」


セツナは常識知らずの男に対して笑いがこみ上げてきた。だがとりあえず我慢する。優はただそのやりとりを見ている。


「元々魔法教団は、魔王とその軍に対抗するための組織です。昔は…十字軍とか言われてたらしいですよ。神のために戦う軍。魔王は神の敵だったからね」


セツナの話を聞いて男が笑った。他の人たちも笑っている様子が分かる。


「冗談は顔だけにしてくれる?」


男は一息を入れ、話を続けた。


「そもそも魔王って存在するのか?おとぎ話じゃないのか?魔王軍って、どこかのテロ組織じゃないのか?もしくはお前ら魔法教団とか…」


セツナは笑って男の話を遮った。男は「黙れ!」と大声を出した。


「何がおかしい?」


男はセツナに尋ねた。


「あまりにも常識の無さに、ですよ」


「何!?」


「もし、テロ組織なら自衛隊だけで対処ができますよ。もちろん私の魔法教団でもです。だが魔王軍は格が違う」


セツナの口調が急に荒々しくなった。男は黙ってセツナの話を聞いている。


「じゃあ、これを見てこれはテロ組織や魔法教団。いや、人間の仕業だと思えますか?」


セツナは魔王軍の1人の兵の死体を掲げた。顔を見ても完全に人間の顔だ。


「ほら見ろ。魔王軍も人間じゃないか」


男はそう言って笑った。その時、セツナはいきなりその人間の顔の皮をはいだ。悲鳴が上がった。しかし、すぐに収まった。なぜなら、はいだ皮は、皮ではなかったからだ。


魔王軍の兵の顔。それは、ライオンの様な顔だった。


「こいつは獣人だ。魔王が生み出した種族の1人だ」


静寂が訪れた。この瞬間、この避難所にいた人々は魔王軍の存在を知った。


「さて、さっきまで喚いていた男。これを見ても人間の仕業だと言うのか?」


男はしばらく黙り込み、口を開いた。


「ああ。分かったよ。しかしだ」


男の話はまだ続くようだ。


「お前はなぜ、魔王軍を倒せる力を持っているのに今まで戦っていなかったんだ?」


セツナは質問に答える。


「戦っていたよ。東京スカイツリーで…」


その言葉を聞いて優ははっとした。


「おいセツナ。まさかとは思うが…」


セツナは悲しそうな顔をした。


「東京スカイツリーにいた住人たちを救うのと引き換えに、魔法教団は数名を残して全滅したよ」


全滅…その言葉を聞いて優は絶句した。


「魔法教団は全国に散らばっている。だけど、おそらく全滅しただろうね。東京スカイツリーの地下には魔法教団の『本当の本拠地』がある。本拠地の魔法使いは、世界トップクラスのメンバーばかりだ。それが全滅したんだよ。つまり…」


生存は絶望的。セツナはそう言いたいのだが、言いたくない。仲間を死なせたのを認めたくない。その気持ちがセツナにあったから…


あまりにも衝撃な事実を知って、場は静寂に包まれた。だがそれを破ったのは、やはりさっきの男だ。


「それはすまない…辛い思いをさせてしまった…」


男は頭を下げ、座った。


「いえ、私たちの実力不足のせいです」


セツナは言った。そして再び静寂が訪れた。


ーー魔法教団は壊滅…つまり、詰み、か?


優はそう思うしかなかった。ユズに賢者になってくれと言われた。しかし、もう無理だ。魔法を覚えられないのなら、魔王を倒すなんて夢のまた夢だ。

セツナに教えてもらう、という考えが思いついたが無理だろう。今のセツナじゃあ、魔法は仲間を思い出させ、悲しみで苦しませてしまう。


ーー何か考えろ…ツルッツルの脳みそで考えろ!


優は自分に言い聞かせ、よーく考えた。ユズにもう一度会って、魔法を教えてもらう。不可能に近いだろう。教えるのが無理だから僕の組織を訪ねろと言ったのだ。

やっぱりセツナに教えてもらう。それが手っ取り早いが、そんなに都合よくいくのか?と優は不安になる。

なら、自力でなんとかする。おそらく一番バカな考えだ。


優の考え事は、アナウンスが流れたことによって中断された。


「魔王軍の撤退を確認。第一次戦闘態勢を解除します。繰り返します。魔王軍の…(以下略)」


人々は次々に避難所から出た。残されたのは優とセツナだけだ。


優は覚悟を決めた。セツナに魔法を教えてもらおう。


「なあ、セツナ…」


と優が言い出した途端、セツナが優の言葉を遮った。


「私に魔法を教えて欲しいんでしょ。ユズに選ばれた者よ」


セツナはそう言って微笑んだ。


「ありがとう。セツナ」


優もそう言って微笑んだ。


「いや、これが私の最後の使命だから…」


セツナはつぶやいた。優はそれに気づかず、青い空を見ていた。

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