1話 神殿
東京・浅草
「やっべ!遅刻する!」
佐藤 優。高校生。17歳だ。最近バイトがクビになり、彼女とも別れた男だ。そして現在、あと1分で遅刻となってしまう。
「なんか最近、不幸なこと起こり過ぎだろ!」
家から高校まで、自転車でも5分はかかる。もう、ゲームセットだ。
「いやいや!諦めなきゃ、なんとかなる!」
いや、ならない。なぜなら、たった今チャイムが鳴った。
「あっ…」
その瞬間、特別指導確定。年間5回の遅刻で特別指導となる。で、優は今回で5回目だ。
ーーあーあ…どうしよう…やっちまった…
優は汗を拭きながら考えた。
もう諦めた優はゆっくりと自転車を漕いで行くことにした。近くでビルの解体工事をしていて、とてもうるさい。
ーー早くビルの解体工事、終わらないかな~。うるさくてウザい…
その時だった。ゴゴゴ!!と大きな音を立てて解体中のビルが急に崩れ始めた。いや、解体中のビルだけではない。その周りのビルも崩れ始め、道路も沈み始めた。
「おいおい!冗談だろ!」
道の陥没はどんどん広がっていく。そして、優も巻き込まれた。
「うわっ!」
優は斜面をどんどん滑り落ちて行く。自転車からは振り落とされ、転がりながら。
「ヤバい!このままだと死ぬ!」
そう思った時にはすでに遅かった。コンクリートの破片が優の頭に直撃した。
「ぐはっ!」
どんどん目の前が真っ白になっていく。どんどん手足の感覚がなくなっていく。そして、優は気を失った。
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光が見える。だが、目の前がぼやけていてよく見えない。
「俺は死んだのか?」
優は立ち上がるが、体のあちこちが痛む。全身打ち身だ。特にひどいのは頭だ。ガンガンする。
「痛みがあるってことはまだ生きてるのか…」
運がいいのか悪いのか全然分からない。
「ふー。これからどうすっかなぁ~」
1つ目、その場に止まり救助を待つ。
2つ目、生存者がいないか歩き周りながら探検する。
もちろん優は2つ目にした。少しも悩まずにだ。人間は好奇心には勝てない。優は特に。
「おーい!誰かいますか!」
反響で声が響く。しかし返事はない。
そして優は、中心だと思う場所に足を引きずりながら向かって行く。
「ん?なんだ?あれ…」
建物だ。それも、石造りの古代ギリシャっぽい建物だ。
「まさか、神殿か?」
その時、優ははっとした。
「まさか…魔王の…」
小さい頃、よく母親に聞かせてもらっていたおとぎ話。だが、一つだけ母は気になることを言っていた。
それは始めて魔王と賢者のおとぎ話を聞かせてもらった時のこと。
『この話はおとぎ話じゃない。本当のお話なの』
「そして青年は激闘の末、魔王を地下深くの神殿に封印し、世界を救ったのです」
優は思わず、つぶやいた。そして神殿を見つめていた。
「いやいや、そんなわけないだろ!これはビルの残骸が集まって、そう見えるだけだ!」
優はそう自分に言い聞かせた。だが、もし本当ならということが頭から離れない。なぜなら、神殿みたいな残骸から、嫌なオーラを感じたからだ。