イオン
「イオンはどこだー!」
少年が血眼になって何かを探している。
"イオン"と呼ばれるそれは学校の授業で聞いたことがあるようなないような・・・世間ではそのように認識されている何かである。
しかしこの少年は違った。"イオン"というものに酷く執着しているのだ。
「馬鹿馬鹿しい」と一蹴されそうな事柄に少年は情熱を注いで挑んでいるのである。
「イオンは一体どこにあるんだー!」
庭の草を掻き分けたり、雨の日には雨水を採取してはビンに入れて観察する。
どこかに"イオン"があるかもしれない! その希望を胸に少年は探している。
「ねえあんた。そんなにイオン? って奴を探してどうしたいの?」
母が最近の息子を見て少し心配そうに尋ねる。
「どうもしないよ! ただ楽しいからだよ!」
屈託のない笑顔で"イオン"を探している息子を見て母は「ま、楽しいならいっか」とそれ以上深くは聞かなかった。
翌朝、少年が家中あちこち駆け巡ってで「ついに見つけた!」と近所にも聞こえる声で何回も叫んだ。
「なによ。朝から・・・もー!」
少し寝ぼけている母は嗜めるように息子に注意した。
「やったよ母さん! ついに見つけたんだよ! マイナスイオン!」
万歳を繰り返して少年はジャンプして喜びを表現している。コノ年くらいの子どもはこれぐらいテンションが高いんだなぁと思っていた母は少年の次の言葉で少し止まってしまった。
「ところでイオンってなんだろう?」