vs親父
某ダメ熊似のトムさんが来店した数日後、配達途中にてスマホが鳴った。
「毎度ッ親父さん。どーしたんです?」
運転中の為、ヘッドセットにて通話をする。
「おぅ、ケン坊。最近なんか面白ぇ話はねぇんか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れてた。
ヤバイ。殺される。この世の終わりだ。このまま逃げるか?いや、追っかけて来そうだな。
「・・・・・・親父さん、今は配達中だから終わったら行きますよ」
こう返すのが精いっぱいだった。
「おぅ、そうか。んじゃ待ってるぜ」
どうやって切り抜けるかなーと考えてる間に配達は終わり、親父さんの店に着いた。
相変わらずゴチャゴチャした感じがするが、あんまり気にしてないんだろうな。
「どもー」
「おぅ来たな」
パイプ椅子を出されたのでそこに座る。
「さっきも言ったが、最近どうよ?あっち側からまだ来てないんか?ん?」
「・・・いやーあのー」
早速それかぁ・・・・。心の準備ってモンが・・・・。
「その言い方だと、来たんだな?」
ちょっと強めの口調になった。親父さん怖いってば。
「・・・・・・ええ、まぁ」
「この前言ったよな?俺も呼べと」
ちょっと青筋がコメカミに浮かんだのは気のせいであって欲しいんだけど。
「・・・すいません」
言い訳をすると更に悪化する可能性があるので、ひたすら謝るのみ。
「今回はどんなヤツが来たんだ?」
「テディベアみたいなのっすね」
「テディベアだぁ?ヌイグルミの?」
首を縦に振る。
「クマだけにハチミツを欲しがっていたので試食させたら興奮して『プーさん』になってましたよ」
「プーさんだぁ?」
また訝しげにこちらを見るが、事実には変わりないのでまた首を縦に振る。
「クマはどこの世界でもハチミツが大好物、か」
トムさんの事を説明して、出てきた感想がこんなのだった。
逆の立場なら、似たような事を思うだろうな。
他にも様々な話をし、分った事がいくつか。
毎日はやって来ない。
来る時は21時までに来る。
スタインの口コミで来る。
獣人もいる。
あんまり大した事ではないのだろうが、これ位しか分らない。
21時までってのは時差とか活動時間とかそんな感じだろうか。
おそらく中世っぽい生活環境に見えたから松明だとか、あっても魔法での明かりを用いていると思われるので、消耗やらそういった理由であまり遅くまで活動はしていない可能性が考えられる。
口コミだって誰にも話さなければスタインさんしか来ないワケだし。
獣人は・・・・・・そういうロマンあっても良いよね。
とりあえず、次回スタインさんが来た時に『あっち側の事を』もっと深く訊いてみようかと思ってはいる。
で、今回決まったと言うかムリくりと言うか親父さんが閉店後にうちの店に来るそうだ・・・。しかも当面の間。
「時間は気にすんな。どうせ古物商なんぞ多少早く閉めても問題ねぇよ」
・・・・・・こっちが気にするっちゅーの。
元々客足が多い訳ではない古物商が1時間閉店を早めようが影響は無い、との事だ。
まぁ、実際にそんなんでよく生活できるなーとは思ってはいたけどさ。
で、今日からなんだって。その早く閉めるのが。
聞いてないよーーーーー。
思わずそう突っ込んでしまった。しかし二人足りなかったな。
「閉めて飯食ってから行くから18時過ぎには行けるわ」
なんか勝手に話が進んでるしー。もう勘弁してー。
もういいや。諦めよう。今さら言ったってもうダメだな。
「・・・・・・・・・んじゃ後で待ってます」
かなりげんなりして帰宅する。
帰宅し店番をしていた親に伝えるも『あの人は言い出したら止まらないからねー』で済ませていた。
理解力があるんだか慣れっこなんだかよく分らんなぁ。
仕方ないのでレジ裏にある小部屋(4畳コタツ、ミニキッチン、金庫、TV、ノートPC有り)を整理整頓しておいた。
片付けが終わった頃、タイミングを見計らったように親父さんがやって来た。
「おぅ、邪魔するぜぇ」
言いながらレジ裏の小部屋に入る。
「相変わらず、ここは狭ぇなぁ」
「所詮は『小部屋』ですからねー」
事実なのだから仕方がない。
メインで使用している訳でもないのでサイズはあまり気にしていない。
これといってする事がないが営業中なので、あまり離れられないのでこういう部屋が必要だと。
住もうと思えば住めなくもないが、店と住居間の通路的な役割を担っているので厳しいかと思う。
月末など書類仕事が溜まった時はカンヅメ状態なる事もあるがそれ以外でここに篭るという選択肢はない・・・かなぁ多分。
「まだ営業中なんでTVでも見ててください」
そう言い残し、仕事に戻る。
とは言え時間的にもそろそろ閉店なので、その準備をする。
具体的には外に出してあるノボリや電飾看板の撤収及びシャッターの中柱を設置させ、入り口以外のシャッター下ろし施錠。
閉店時間を越えたので外の電飾を消し入口シャッターを下ろし施錠。
レジにて精算処理をしてドロアー(お金が入っている部分)のトレイを外し小部屋に持って行く。
小部屋では親父さんがクイズ番組を真剣になって観ていたが、俺の姿をみて『おーぅ、お疲れさん』とだけ言ったらまたTVを観ていた。
トレイと精算処理した紙をコタツのテーブルに置きカネ勘定を始める。
うちの店では夜間金庫などは使わず翌日に配達ついでに直接銀行で入金する。
オヤジ曰く『余計なカネを使いたくない』だそうで。
ですよねー。夜中にカネ持って銀行になんか怖くて行けやしない。
強盗にでも襲われたら目も当てられない。
それこそカモがネギ背負ってパーリナイッ・・・・あれ、違った?
とにかく、売上を別にしてレジ金を定額に揃えて金庫にしまう。
これで精算終了。
「親父さん、悪いが飯食ってくるから『誰か来たら』教えてね」
「おう、分った。『誰か』来たらだな」
ニヤっとした笑みを浮かべていた。
レジ裏の小部屋は『通路兼待機場所もしくはバックルーム』みたいな扱いです。
通常のコンビニであればただのバックルームなんですが、元々自宅兼酒屋を改装してコンビニにしたのでそういった構造にしてあります。