6-14
人払いした、私の執務室。
その室内に設置された執務机の上には、何枚もの羊皮紙が置かれている。
私は、一枚、一枚、しっかりと目を通していく。
その羊皮紙には、一枚に付き、一個人の詳細な情報が記されていた。
日本人が見たら、履歴書みたいだ。という、感想を抱くかもしれない。
だがそれは、履歴書というよりも、指名手配書、いやいや、粛清リストの方が、実態に近いかもしれない。
さーて、犯人は誰にしようかな。神様の言う通り。なんてね。
カールに下らないことを吹き込んだ下手人を見つけ出す。
そんなことを思っていた時期もありました。
でも、やめ、やめ。
探偵の真似事なんて、面倒だ。
そう簡単に尻尾を掴まえられる保証もなし。
仮に、上手くいっても、調査に時間がかかり過ぎる。
ならば、冴えたやり方は一つ。
疑わしきは罰せず。そんな、お上品なことはしない。
そう、疑わしきは、即粛清なのだ。
おそロシアならぬ、ソ連の、アカのやり方をお手本に。
取り敢えず、私に敵対的な奴、私をよく思ってなさそうな奴。
全員纏めて一掃だ。
どうせ、私にとって、目障りな存在だもの。
冤罪だったとしても、何の問題もない。
と、いうことで、処罰? 失脚? あるいは、閑職送り?
どれでもいいけど、その為の材料を集めないとね。
まずは、徹底的な情報収集。
脇の甘い奴、つまり不正に手を染めている奴は、これだけでお終いだ。
その事実を明るみにし、処罰すればいい。
逆に、その辺抜け目ない連中。あるいは、清廉な連中。
こいつらは罠にかける。
処罰に値する罪の捏造、失脚に値するスキャンダルの捏造。
そんなところかしら?
噂を流すのもいいかもね。
○○卿は、普段紳士然としている癖に、実は色情魔。
市井の娘をかどわかしては、乱暴を働く。
そして、貴族の権威と、金の力で、無理やり黙らせているとか。
うん、悪くない。
そうね、正義感が強く、私を目の敵にしている法務局のクラッセン卿、彼には色情魔の噂を、実しやかに流しておこう。
信憑性が出る様に、自称被害者を雇っておくか。
くくく、白い目で見られるがいいぜ。
そして、周囲の信用がガタ落ちしたクラッセン卿に、私が促すのだ。
職を辞してはどうかね、と。
税務局のレヴィン卿、彼は農村から徴税した小麦、その横流しの冤罪だ。
それを示す証拠の捏造が急務ね。
王都の大商会、エーレンベルク商会に協力を仰ぎましょう。
あそことは、今まで、良い関係を築けているしね。
それに、エーレンベルク商会は、最近台頭してきたブレーメ商会に脅威を覚えている筈。
このブレーメ商会と、レヴィン卿が結託していることにしましょう。
まず、エーレンベルク商会が、ブレーメ商会を告発する。
私は、その後に、レヴィン卿が横流しに関わった証拠、勿論捏造した証拠だ、これを見事発見するわけ。
そして、レヴィン卿と、ブレーメ商会の悪事を罰する。
気分は水戸黄門。
越後屋、お前も悪よの、そんな台詞を吐く悪代官役が、レヴィン卿だ。
後は、首都近衛軍のトスパン少将。
あの野郎、私がカールの警護関係に口出しするのに、良い顔しないのよね。
自らの職分が不当に侵害されている。
どうせ、そんな風に思っているのだろう。
奴は、反社会組織との交際疑惑だ。
こっちまで出張っている闇商人、ワイズ商会の支部を動かそう。
誰ぞ、適当な構成員に、トスパン少将に近づけさせる。
奴が拒もうが関係ない。
二人顔を合わせている現場を無理矢理でも作り、そこを押える。
ふむ。ここ王都にある支部と、ラティオ共和国にある本部。
この両方に、協力を要請する手紙を出そう。
久々に、ワトソン君にも、私の為に働いてもらいましょうか。
残るは……レグーラ大将。
大本命と言っていい、一番排除すべき人間。だが……。
相手は、七将家の当主。
下手に手を出せば、火傷を負いかねない。面倒ね。
七将家の権威はかなりのもの。
下手なスキャンダルでは、失脚することもない。
あからさまに、私が動くのも不味い。
七将家と、その影響下にある家臣団が、まとめて敵に回る。
これは、いただけない。
ならば……。
七将家の人間は、七将家の人間に始末させる。
とはいえ、レグーラ家だけでも手一杯なのに、他の七将家まで謀略に巻き込むのは、上策とは言えない。
だったら、同じレグーラ家の人間を動かす。内紛の芽を萌芽させるのだ。
幸い、丁度良い人間がいる。
それは、レグーラ大将の腹違いの弟、エメリヒ・レグーラ准将だ。
ひょろっとした兄と違い、がっちりと体格の良い、軍人然とした弟。
性格も、あの粘着的な兄と違い、軍人らしい闊達な人柄とか。
その為、当主である兄よりも、家中の、そして第六軍内の人気も高い。
が、弟という理由で、兄に一歩譲らねばならない。
何でもない風を装っているらしいが、内心面白くないだろう。
そして、レグーラ准将の実母。先代レグーラ大将の後妻である、アデーレ夫人。彼女は、あからさまに、面白くない感情を隠しもしていないそうな。
くくく、利用できる。お誂え向きじゃないか。
この母息子を嗾ける。レグーラ家当主の座を奪わせるのだ。
二人も、摂政である私が後ろ盾となれば、さぞかし心強かろう。
ふむ、レグーラ大将もこれで良し!
主だった連中は、そんなところ。
それ以外の小者は……ハッ、如何様にも調理してやる。
適当に冤罪被せて、悉く処罰してやる。
よーし、作戦タイム終了!
さあ、めくるめく、雫ちゃんのハイパー謀略タイムが、はっじまるよー!
後の歴史家が語るかもしれない。その日、歴史が動いたと。
陰惨たる粛清劇の始まりだと。
ふふーん、悪辣政治家と呼びたければ、呼ぶがいい。
私が死んだ後の名声なんぞ、どうでもいいわ。だから……。
だから、この王都を、私の色で真っ赤に染め上げてやろう。
私は、手に持つ羊皮紙を数枚、宙に放り投げる。
ひらひらと、羊皮紙は揺れる様に舞いながら、やがて床の上へと落ちていった。




