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今回は文章量が少ないです。申し訳ありません。
人目を避ける様に夜の廊下を渡る。
先頭に立つエルマが照らす蝋燭の灯りが、闇夜にぼんやりと浮かぶ。
その光が、大きな人影を作った。
私は今、護衛として数名の魔杖兵のみを連れている。
その間に会話は無い。
一切の無駄口を叩くことなく、ひっそりと歩き続ける。
暫くして、目的地に着いた。
私は木製の扉をトントンと軽く叩く。
「ダメ。」
「ゼッタイ。」
言葉短く遣り取りを交わすと、カタンと閂が外される音が響く。
そして、ギギッと微かに軋みながら木製の扉が開かれた。
「貴女たちはここで待ちなさい」
「はっ」
エルマたち魔杖兵を留め置いて、私は一人扉を通り抜ける。
すると、先程『ダメ。』と言葉を発したであろう男が、素早く木製の扉を閉じた。
そして、傍に置いていた蝋燭を取ると、先導して歩き出す。
扉を抜けた先は、すぐに下りの階段になっていた。
石造りのそれを踏みしめながら、螺旋状の階段に沿ってぐるぐると下っていく。
やがて開けた空間へと出る。
その部屋は、横に細長い造りとなっていた。
長手方向の両脇には、鉄格子で仕切られた個室がいくつも続く。
そう、ここは地下牢だ。
軍団の規模が大きくなると、それに比例して軍規を犯す者の数も増える。
軍団の物資や金に手を付けた者。
ただの喧嘩が度を越してしまい、味方の兵を殺してしまった者。
無辜の民を害した者。
そんな、特に悪辣な軍規違反者を収容しているのが、この地下牢である。
いくつかの鉄格子の中を覗きながら、コツコツと歩いていく。
「囚人たちの様子はどう?」
「はっ。魔女様の指示通り、例のモノに火を点けて出た煙を囚人たちに嗅がせたところ、皆一様に異常なまでの昂揚感や多幸感を覚えたようです」
「うん。それから?」
それだけではないでしょうと、話の続きを促す。
「はい。ただ、引き換えに思考力の低下などが見受けられます。特に、大量の煙を摂取した者は、痴呆かと疑うほど判断力が低下して……ああ、その者などがそうですな」
私を先導する男、この地下牢の看守が指し示した独房を覗く。
鉄格子を挟んで、すぐ傍から覗き込んでいるのに、こちらを一向に気にする様子を見せない。
あらぬ方向を見上げたまま、だらしない笑みを浮かべている。
うん、完全にラリッてるわね。
「それと、これも大量摂取者に顕著な症状ですが、煙の効果が薄れてくると苦しみ出し、再度煙を欲するようになります」
「ほうほう」
へー、ふーん。つまり禁断症状が激しいと。
高い中毒性を有するということだ。ふむ、少々予想外ね。
地球における大麻は、覚醒剤に比べてずっと、毒性や依存性は少なかったはずだけど……。
だからこそ、日本以外では合法化の動きがあったわけだしね。
極端なものでは、アルコールやたばこよりもずっと安全だとする研究報告もあったぐらいだ。
しかし、こちらでは随分とヤバげな症状が見られる。
どうもこちらの麻は、地球のそれと似て非なるものらしい。
うーん、別に高い中毒性を持たなくても良いとは思っていたのだけど……。
だって、そうでしょう?
吸えばハッピーになれる薬。
中毒性に頼らずとも売れる。実際、地球では大変売れていた。
……まあ、中毒性があったならあったで構わない。
むしろその方が、リピーターが増えて万々歳だ。
えっ? 廃人が増産される? 多くの人間の人生を狂わせる?
知らないわ、そんなこと。
ああでも、下手に逆恨みされないよう、秘密裏に売りさばく必要があるわね。
それと――。
私は首を横に向けると、看守の顔を見た。
「――? 何でしょう、魔女様?」
「いいえ、何でもないわ」
この男は多くを知り過ぎている。後でキチンと始末しないとね。
そう心のメモに書き留めると、私は目の前の廃人に向き直る。
そして、その様子を観察しながら笑みを浮かべた。
ふふふ、これは売れる。間違いない。
正に金の成る木だ。いや、それだけじゃあない。
軍資金確保とは別に、純軍事目的にも転用できるかもしれない。
古今東西、兵士らが戦場の恐怖心を和らげるため、麻薬の力に頼ったという例は多数見られる。
恐怖心こそが、戦における兵卒らの一番の足枷。
だが、この煙を少量摂取させれば、恐怖を感じぬ勇猛なる軍団が誕生する。
いやー、本当に魔法のお薬だ。素晴らしいこと尽くめだね。
これは勝ったな。
ガハハ、勝ったな。勝った。勝ったな、ガハハ。
私は内心で高笑いを繰り返す。
そうして、満足気に頷くや踵を返した。
「引き続き実験の観察をお願いするわ」
「はっ」
看守の返事を背に、螺旋階段へと向かう。
んー、しかし何か引っかかるのよね。
そうか! あのラリっていた男だ。
どうもあの男の顔に見覚えがあるような気がする……。
何だ? 何だろう? 何処で見知った顔だったかしら?
んんん? うーん……あっ! 思い出した!
そうそう、いつぞやの物資を横流しした男ではなかったか。
全く、けしからん輩だ。
手紙を食べちゃうぐらいなら可愛げもあるのに。物資の横流しとはね。
それでは、こんな末路も致し方ない。
ホント、困った山羊さんだこと。
私はコツコツと音を立てながら、螺旋階段を上っていった。




