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【書籍化】魔女軍師シズク  作者: 入月英一@書籍化
五章

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5-6

 今回は文章量が少ないです。申し訳ありません。

 人目を避ける様に夜の廊下を渡る。

 先頭に立つエルマが照らす蝋燭の灯りが、闇夜にぼんやりと浮かぶ。

 その光が、大きな人影を作った。


 私は今、護衛として数名の魔杖兵のみを連れている。

 その間に会話は無い。

 一切の無駄口を叩くことなく、ひっそりと歩き続ける。



 暫くして、目的地に着いた。

 私は木製の扉をトントンと軽く叩く。


「ダメ。」

「ゼッタイ。」


 言葉短く遣り取りを交わすと、カタンと閂が外される音が響く。

 そして、ギギッと微かに軋みながら木製の扉が開かれた。


「貴女たちはここで待ちなさい」

「はっ」


 エルマたち魔杖兵を留め置いて、私は一人扉を通り抜ける。

 すると、先程『ダメ。』と言葉を発したであろう男が、素早く木製の扉を閉じた。

 そして、傍に置いていた蝋燭を取ると、先導して歩き出す。


 扉を抜けた先は、すぐに下りの階段になっていた。

 石造りのそれを踏みしめながら、螺旋状の階段に沿ってぐるぐると下っていく。


 やがて開けた空間へと出る。

 その部屋は、横に細長い造りとなっていた。


 長手方向の両脇には、鉄格子で仕切られた個室がいくつも続く。

 そう、ここは地下牢だ。



 軍団の規模が大きくなると、それに比例して軍規を犯す者の数も増える。


 軍団の物資や金に手を付けた者。

 ただの喧嘩が度を越してしまい、味方の兵を殺してしまった者。

 無辜の民を害した者。


 そんな、特に悪辣な軍規違反者を収容しているのが、この地下牢である。


 いくつかの鉄格子の中を覗きながら、コツコツと歩いていく。


「囚人たちの様子はどう?」

「はっ。魔女様の指示通り、例のモノに火を点けて出た煙を囚人たちに嗅がせたところ、皆一様に異常なまでの昂揚感や多幸感を覚えたようです」

「うん。それから?」


 それだけではないでしょうと、話の続きを促す。


「はい。ただ、引き換えに思考力の低下などが見受けられます。特に、大量の煙を摂取した者は、痴呆かと疑うほど判断力が低下して……ああ、その者などがそうですな」


 私を先導する男、この地下牢の看守が指し示した独房を覗く。


 鉄格子を挟んで、すぐ傍から覗き込んでいるのに、こちらを一向に気にする様子を見せない。

 あらぬ方向を見上げたまま、だらしない笑みを浮かべている。


 うん、完全にラリッてるわね。


「それと、これも大量摂取者に顕著な症状ですが、煙の効果が薄れてくると苦しみ出し、再度煙を欲するようになります」

「ほうほう」


 へー、ふーん。つまり禁断症状が激しいと。

 高い中毒性を有するということだ。ふむ、少々予想外ね。


 地球における大麻は、覚醒剤に比べてずっと、毒性や依存性は少なかったはずだけど……。

 だからこそ、日本以外では合法化の動きがあったわけだしね。

 極端なものでは、アルコールやたばこよりもずっと安全だとする研究報告もあったぐらいだ。

 しかし、こちらでは随分とヤバげな症状が見られる。


 どうもこちらの麻は、地球のそれと似て非なるものらしい。


 うーん、別に高い中毒性を持たなくても良いとは思っていたのだけど……。


 だって、そうでしょう?


 吸えばハッピーになれる薬。

 中毒性に頼らずとも売れる。実際、地球では大変売れていた。


 ……まあ、中毒性があったならあったで構わない。

 むしろその方が、リピーターが増えて万々歳だ。


 えっ? 廃人が増産される? 多くの人間の人生を狂わせる?


 知らないわ、そんなこと。

 ああでも、下手に逆恨みされないよう、秘密裏に売りさばく必要があるわね。

 それと――。


 私は首を横に向けると、看守の顔を見た。


「――? 何でしょう、魔女様?」

「いいえ、何でもないわ」


 この男は多くを知り過ぎている。後でキチンと始末しないとね。


 そう心のメモに書き留めると、私は目の前の廃人に向き直る。

 そして、その様子を観察しながら笑みを浮かべた。


 ふふふ、これは売れる。間違いない。


 正に金の成る木だ。いや、それだけじゃあない。

 軍資金確保とは別に、純軍事目的にも転用できるかもしれない。


 古今東西、兵士らが戦場の恐怖心を和らげるため、麻薬の力に頼ったという例は多数見られる。


 恐怖心こそが、戦における兵卒らの一番の足枷。

 だが、この煙を少量摂取させれば、恐怖を感じぬ勇猛なる軍団が誕生する。


 いやー、本当に魔法のお薬だ。素晴らしいこと尽くめだね。


 これは勝ったな。

 ガハハ、勝ったな。勝った。勝ったな、ガハハ。


 私は内心で高笑いを繰り返す。


 そうして、満足気に頷くや踵を返した。


「引き続き実験の観察をお願いするわ」

「はっ」


 看守の返事を背に、螺旋階段へと向かう。


 んー、しかし何か引っかかるのよね。


 そうか! あのラリっていた男だ。

 どうもあの男の顔に見覚えがあるような気がする……。


 何だ? 何だろう? 何処で見知った顔だったかしら?


 んんん? うーん……あっ! 思い出した!

 そうそう、いつぞやの物資を横流しした男ではなかったか。


 全く、けしからん輩だ。


 手紙を食べちゃうぐらいなら可愛げもあるのに。物資の横流しとはね。

 それでは、こんな末路も致し方ない。

 ホント、困った山羊さんだこと。



 私はコツコツと音を立てながら、螺旋階段を上っていった。


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