第一話 中編
再び更新が遅くなってしまい申し訳ございません。
遅ればせながら次話投稿させていただきました。
・3/4、一部修正しました。
”彼女”――鳥居千佳は、俺の幼馴染みだ。
彼女とは、互いの家が近所で親同士の仲が良かったこともあり、ずっと幼い頃からよく一緒に遊んでいた。
同じ保育園、小学校に通い、そのままの流れで中学も同じになって。
その頃には俺と彼女は性差を超えて、親友とも呼べるほどの間柄になっていた。
もっとも、とある事情から通う高校まで同じになると知ったときには、「これじゃ幼馴染みっていうより腐れ縁だな」と互いに呆れて笑い合ったりもしたのだが。
それでも、何だかんだいっても昔からの癖はなかなか直らないようで、気付けば俺達は毎朝待ち合わせて一緒に学校へと向かうようになっていた。
それはどちらが言い出したことでもなかったが、こうして高校入学から一年が経ち、共に二年生となった今でも、その日常は変わることがなかった。
ただ、しょっちゅう勘違いされがちなのだが、こうして普段よく一緒に行動しているからといって、俺達は別段付き合っているわけではない。
普通ならこれだけ近しい距離にいればそういう関係性に発展するのかもしれないが、生憎というか何というか、俺達の場合は逆に互いに近過ぎたのか、そういった感情とは全くもって無縁だった。
また、その点については千佳の方も、以前彼女の友人から俺達の関係性を問われた際にきっぱりと否定していたのを見たことがある。
曰く、彼女の好きなタイプは年上の人らしい。
まぁそれはさておき、恐らくそのような目で互いを見れないのには、ただ単に好みの問題や、また親友同士であるからというだけでなく、俺達が一時期生活を共にしていたことも関係しているのだろう。
そう、俺は以前、彼女の家に居候させてもらっていた。
それは中学二年生の夏から高校に進学するまでの間のことだったが、そんな事態に至った理由は、俺の両親がとある事件に巻き込まれて唐突に帰らぬ人となってしまったからであった。
……あの日のことは、忘れもしない。
それは、まさに青天の霹靂と言わんばかりの、本当に突然の出来事で。
二人連れ立って外出した両親は、そのまま揃って俺の手が届かないような遠い場所へと逝ってしまったのだ。
正直、当時の俺が受けたショックはかなり酷いものであったし、情けない話だが、事実を知った直後は精神的に非常に不安定になったりもした。
けれど、それでも俺が「両親はもういない」というその事実を受け入れ、そして時間こそ掛かってしまったものの何とかそのショックから立ち直ることが出来たのは、偏に千佳達のおかげであると言えるだろう。
一人きりで遺され、親戚に預けられるか施設行きかの運命にあった俺を、千佳の母親である美鶴さんはなんと、自分が引き取ると申し出てくれたのだ。
勿論色々と問題もあったが、美鶴さんの必死の説得もあり、最終的にはそれまでほとんど関わりもなく疎遠だった親戚の元や施設に入ってまるきり新しい環境下に置かれるよりは、昔から互いに馴れ親しんだ人の元にいる方が、いっそう心の安定も望めるだろうということで決着がついたらしい。
そうして彼女達の家に居候させてもらうこととなった俺に、千佳と美鶴さんは、まるで本当の家族のように接してくれた。
千佳の父親である敬次さんは彼女がずっと幼い頃に亡くなってしまっていたけれど、それでも二人は常に明るく振る舞ってくれたし、かといって変に俺を哀れむでもなく親身になって支えてくれた。
だからこそ、少しずつではあったが俺も現実と向き合うことが出来たのだと思う。
本当に、もしも彼女達がいてくれなかったら、俺は途方に暮れるばかりだっただろう。
……また、俺が二人に助けてもらったことは、実はそれ以外にもある。
俺の人生に非常に深い影響を与えた、という点において、それは両親の死と同じくらいに重大な出来事だったのだが、あの時も千佳や美鶴さんの支えがあったからこそ、自棄を起こしたりせずにいられたのだ。
ただ、以前にそのようなことがあったせいか、やはり俺はどうしても千佳に対して、一線を越えた気持ちを持つことが出来なかった。
いや、間違っても持つわけにはいかなかった、という方が正しいだろうか。
何故なら、言うなれば彼女は俺にとって『姉』のような存在であり、また、時として『母』代わりの存在でもあったのだから。
ちなみにその後、俺は先の事情もあって、結局は高校入学を機に学校が管理する学生向けのアパートへの入居を決めて二人の下を離れることにしたのだが、それでも二人は一緒に暮らしていたときと変わらず、ずっと俺のことを気にかけてくれているのだった。
時には先ほどのように夕飯に誘ってもらったり、休日には千佳に、日用品の買い出しに付き合ってもらうこともある。
けれど彼女達には彼女達の生活があるし、それにやはり申し訳ないので、俺とてこれでも極力甘えないようには気をつけているつもりだ。
しかし、そう思って誘いを断ったりすると、必ずと言っていいほど二人は先ほど千佳がしてみせたような、どこか寂しげな顔をするのだった。
正直に言えば俺は、彼女達のそんな表情がどうにも苦手で仕方がない。
……出来ることなら二人には俺のことなど気にしないで、もっと自分達の生活を大事にしてもらいたいのだが――。
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