第二章 第二話 ユーフェルの恋
旅に出かけては、帰る。それを繰り返し、ライテスとにいさまは逞しくなっていく。
それは素直に喜ばしい。
しかし、ある日、ライテスは元気なのににいさまだけが、なぜかぐったりしていた。
「どうしたの?」
「少々ヤバいことになりました。」
こういう時のにいさまは、ひとりにしておくに限る。
私は、とうさまに出かける旨を伝え、ライテス邸に足を運んだ。
ライテスは、私との婚約が決まったときこの家を建てた。
「さて・・・今回は、エルフの都・イグドラシルシティやファルスト一族が居を構える魔導師の塔等を廻りました。」
ファルスト一族とは、昔レイスト一族の内で反逆した一派の末裔だ。
ここしばらく、事があると頼みもしないのに勝手に勇者たちに協力する謎の集団と化している。
ルーンマシンガンやルーンランチャーを撃ちまくりつつ呪文を詠唱し、大破壊の魔法をぶちかます歩く破壊兵器のような人たちだ。ランボーかよ!
「帰りに、ウズドガルドの国境付近で女の子に逢ったんですよ。」
「まさか・・・にいさま・・・その人に惚れちゃったとか・・・」
嫌な予感がする。
「ええ。種族拘らずただの地元の一般人なら問題ありません。」
特に「国境付近」という言葉がアヤシイ。
「まさか・・・」
「そのまさかです。彼女・・・ウズドガルドの次期女王のお姫様だったんですよ。」
どわああああっ!
じょ・・・冗談じゃない!
「た・・・確か・・・あの国って・・・鎖国状態じゃ・・・」
「ええ。彼女、エルフやこの国の人と仲良くやって、それで自国が「ヘン」であるとわかっていたようです。」
「でも、この問題・・・にいさま一人じゃどうにもならないわ。」
「そうです。現在は王家も主流派と保守派に別れ、争っています。主流派は、姫を他国に嫁がせてでも関係を築き、開国すべしと言っていますが、保守派は封印を守るため現状を維持すべしと言っています。」
ん?
「封印ってなに?」
「エルフの文明の時代に騎士兄弟が大魔王たちを倒す前に、「誰か」がその「王」を倒したことはご存知でしょう。」
「うん。歴史のミア先生が言ってた。」
「どうも、その「王」・・・「超魔王」の封印のことのようです。詳細はわかりかねますが。」
「ちょっとまてええっ!もしかして、「トラルティール分裂戦争」の原因って・・・」
「無関係ではないでしょう。」
どういうことだ・・・
「その誰かとは、「光」「闇」「炎」「水」「地」「風」の勇者たちで、その血筋がどうなったかはわかりません。ただ、現在それに該当する家系がいないのも問題ですが。」
「ティアムル宗家って、モロ光よね。「神魔斬刀」を見せてもらったとき、そう思ったもん。」
ありゃ、光の斬馬刀だ。
斬馬刀とは、戦国時代にマッチョな武将が騎馬を叩き斬るために使った刀だといわれていて、江戸時代にはすでにレジェンドな武器となっていたと聞く。
「推測ですが、イスカンダリア家は「闇」でしょうか。」
「暗黒大重圧は、笑ったわ。アナコンダ(?)がボディプレスして対象物が潰されるんだもん。」
「まあ、勇者と名乗ってはいませんが、該当する家系に説明は不要でしょう。ただ、「風」の勇者が問題なのです。」
「風・・・」
だが、国民を犠牲にしてまでやることなんだろうか・・・
「そもそも、エルフの文明の時代に私たちが知ってる社会問題があったとはね・・・」
「ええ。大魔王ダイアレート・・・いや、ウォルスト・ダイアレートが復活したならば、真っ先に僕が相手になるべきでしょう。義姉上には荷が重い。」
「実力では上だって、ライテス《あなた》だってそう言ってるけど。」
「違います。義姉上はその点では素直すぎます。」
そう言うと、ライテスはためいきをついた。