第三章 滝川クリスタル
「しかし・・・ライテス卿が、扉を開いたのは偶然じゃないでしょう。」
トラルティア城に来ていた、ノワール二世が言った。
「滝川クリスタル氏の情報提供から、ティアムル宗家、ヴァルシュタイン家のエルフ系の血筋が判明しました。」
それは・・・
「どうやら、大魔導師エリティア・・・この人は、「大帝アラン」の末裔の一族のようです。」
「つまり、私かティアムル宗家の誰かが、あの扉を開くのは「運命」だったと?」
「はい。状況からすると、「大帝アラン」は、「大帝都」から生き残った民を脱出させ、その子孫の一族が、最終的にティアムル宗家、イスカンダリア家となったようです。」
「妙なめぐり合わせですな・・・」
「ええ。かくいう私自身、もしかすると「先祖の主人」の仇を討つ格好になるのですから。」
「あ・・・あの・・・いいですか?」
クリスタルが、横から割って入る。
「お話を聞くと、ハルカ博士の助手・・・「実験用マウス一号」というネズミの所在が気になります・・・」
「ま・・・まさか・・・ヤツは生きているとか?」
ユーフェルが、そんなバカなと言わん限りにライテスを見た。
「ありえます。」
「なぜだ?超魔王の封印からどれだけ経っている!?」
そこが、疑問であった。
「もし・・・「施設」が生きているならば、自らの遺伝情報を複製し、そこに記憶を移植することで、言わば身体を新品に取り替えることで、「不老不死」を実現することは可能でしょう。もっとも、「地球」では、繰り返すたび遺伝情報が劣化してしまい、不可能だとされていましたが、「超万能細胞」をもってすれば、「原本情報」さえあれば、いくらでも可能でしょう。これは仮説ですが・・・」
ライテスは、前置きして言う。
「第一次デラル戦役における、人鼠襲撃は、「実験用マウス一号」による妨害作戦でしょう。」
「・・・そういう説も、当時からありました。信憑性がないので、「実行犯」が仮説段階でもわからなかったのですが。」
やはり、キティルハルムの民も気付いていたようである。
「あの・・・」
クリスタルが、意見を言う。
「遺伝情報って、「全部」消したら、どうなりますか?」
少し考えて、ライテスは応える。
「恐らく・・・「人間」どころか、肉片すら残らないでしょう。構成される成分だけとなり・・・一言でいえば「土に無理やり返されて」しまうと考えられます。まさか・・・!」
「はい。超魔王出現以前・・・行方不明となり、不穏な動きを見せていたハルカ博士を捜索していた騎士の一人が、「泥」そのものの姿で発見されたそうです。」
うーむ・・・とノワール二世は考えた。
「その記述は、初代女王の手記にもあります。捜索に加わった初代女王は、即座に「遺伝情報」を「抜かれた」と気付いたそうです。」