第二章 労働現場の視点
「なんなのコレ?」
「うん。「遅かれ早かれ、人を使うことになるから目を通しておけ。」って。」
ルミナリアの執務机には、ライテスの手製のマニュアルが、山積みにされていた。
「なになに・・・「部下の扱い方・育て方」?うへぇっ!」
フローラが、悲鳴をあげる。
「例えば、同じ失敗をする部下をしかるにも、コツがあるって。」
「どんな?」
「あんたは、まずどう切り出す?」
「「なんでまたやる!?」とか?」
「だめ。相手が、ただのバカならそれでもいい。でも、部下が全部そうとは限らない。中には、上司以上に真面目で、また同じ失敗を繰り返したくないと思っている人もいる。正解は「叱られることで、仕事に支障をきたしたくないなら、失敗をしないよう心掛けよ。」だそうよ。」
「ん?どうして?」
フローラは、頭をひねる。
「上司は間違いなく、部下に向上を求めている。しかし、叱り方によっては、「自分を潰そうとしている、いいかげんなやつ。」と誤解されかねない。」
「へぇ・・・」
「例えば・・・」
ルミナリアは、三つのインゴットを取りだす。
「鉄、銅、アルミニウム・・・コレで剣を造れと言われればどうする?」
「たたく?」
「だめ。」
ルミナリアは、否定する。
「鉄はそれでもいい。でも、銅は金や銀ほどではなくても、のびるだけ。アルミに限っては「電気精錬」だけでしか加工できない。」
だから、と前置きして続ける。
「銅は、型に流し込む。アルミは「電気精錬」で採りだしてから加工する。つまり・・・」
「相手によって、叱り方を変えろということ?」
「そう。1という相手は、1でしか動かない。2という相手は、1で動かそうとしても「不可能」相手がこちらに合わそうとするのを、期待してもだめ。こちらも相手に合わせる。」
フローラは、はたと手を打つ。
「そうか・・・それで、神聖騎士から「労働組合」の法案が出ていたのか・・・いくら待遇がよくても、上司の意図が伝わらなかったり、曲がって伝わったりしたら大変だ。」
「あんたも、いつかは神聖騎士になる。それは、黄金騎士を始めとする、トラルティールの全騎士を部下にすること。学んでおいて損はない。」
「む・・・難しい・・・」
「あんた、真面目だから、これは学んでおかないと後で困る。」
「う・・・うへえっ!」
同じことを同僚に言ったら、「うまい例えだ。」と言われました。