第一章 国王結婚の儀
狼を思わせる動きと、竜を思わせる力強さ。それが、彼女の体裁きを見た者の感想。
ポニーテールに結んだ長い髪と、首に巻いたバンダナが印象的な少女。
同年代の者に比較すると、高い魔法力を持つ彼女は、黄金騎士にして科学長官ライテス卿の娘である。
名は、ルミナリア・ライテス。
ルミナリアとは、父の前世の世界の言葉で「美しき夜景」を意味する。
騎士学校在学中の、彼女は、休日を利用して、王宮前通りに来ていた。
「ねえ、グレイ。今日は、両陛下の結婚式よね。」
ルミナリアは、肩に留まる灰色のカラスの使い魔に話しかける。
「はいお嬢様。父上様は、神聖騎士様方を差し置いての、直営護衛をご不満にお思いのご様子。」
ライテスは、仕事が滞ることを誰よりも嫌う。
前世が、仕事中毒・患者排出率が高かった「日本人」だけのことはある。
かと言って、暇になれば、おかしなものを作ることで有名である。
「かくいう、私の両親もその「作品」のうちですが・・・」
グレイの両親は、ダニエル・カラスと、マリア・カラスである。
「ま・・・いっか・・・」
ルミナリアは、呪文を唱え、同時に気配を消す。
ライテスから学んだ「武術」と「魔法」を応用した術だ。
最も、武術はあまり得意ではない。
そのまま、物影に移動する。
「まったく、ルミィってば、意固地なんだから!なんで、英雄になりたがらないのかしら。」
婚礼パレードを観ていた、レイスト・フローラ・ティアムルは隣にいた、バッグス、バブス、バスターに言った。
「変なところ、親父に似たんだよねえ・・・」
特に、自己顕示欲の欠如はほとんど遺伝である。
「父上が、好き勝手やったくせして、前に出ない人で、無理やり矢面に立たされていたから。」
「うんうん。」
そんなとき、新国王ユーフェルと新女王ミリエールを突然、火炎球が襲った。
しかし、それを受け止め、身一つで守りきった、小さな人影があった。
ルミナリアだった。
前に交差させた腕の、袖は焼け焦げていたが、皮膚には金色の鱗がびっしりと生えていた。
父方から受け継いだ、竜族の遺伝子を魔法で発現させたのだ。
その隙をつく形で、神聖騎士は、全員暗殺された。
が、逆に、ライテスたちが、実行犯を捕えたのだった。
この日をもって、トラルティアとウズドガルド両国は、第二期トラルティールの時代に突入する。