第四章 第二話 ノワール二世
大通りを歩くと、職人街に出る。
そこを通ると、必ず、がしゃーんだのぱりーんだのという音と共に、「こんなんじゃないにゃ!」とか、「究極にはほど遠いにゃ!」だのという絶叫が聞こえる。
「な・・・なにあれ・・・?」
「ミケランジェロ一族の工房の一つだよ。代々、妥協を許さない陶芸家がいる。座右の銘は「万全を心掛けると、必ず欠陥品になる。常に完全を目指せ。さすれば必ず、万全の品となろう。」だ。」
知り合いだろう。寄っていかなくていいのか。
結婚して以来、僕の口調は砕けたものになっている。
その分、エリーは僕と話しやすくなっているようだ。
「あ。見えた。あれが、キティルハルム城。その隣にあるのが王立図書館と王立学校。」
「な・・・なにあの紋章・・・」
城門にでかでかと描かれた紋章・・・
それは、黒髪の司書らしき可愛らしい人猫の二頭身デフォルメイラストである。
「この紋章を見て、他国の方はみな、このお嬢さんのような反応をしますね。」
城門から、紋章によく似た女性が現れた。
「お久しぶりです。ノワール・キティルハルム二世陛下。」
「こちらこそお久しぶりですね。ライテス・ヴァルシュタイン卿。」
「いえ。結婚いたしまして、ライテスを名乗っております。」
「まあ。では、この方がエリーさん?」
「は・・・初めまして・・・!」
どこか、文学少女のような印象と、若い母親のような印象を同時に受ける人物である。
「若いですね。」
エリーが言った。
「そうですか?でも、私には、夫も娘もいますよ。」
「えっ!?」
「人猫は、早婚なんです。それに、一度致してしまうと止められなくて・・・初代もそうでしたが、あきらめて「法悦」の修行に切り替えています。」
ノワール二世は、にっこりと微笑んだ。
「「法悦」って?」
「えっちして、悟りを開く修行のこと。」
ぼっ!
僕に尋ねたエリーだったが、答えを聞き、頭から湯気を出した。
「そういえばエリーさんも、「地球」という世界から、転生された方だとか。「深遠の図書館」の番人である「カイロス」という方が、あなたのいた世界の偉人のことを話されていたと聞きました。」
「誰ですか!?」
「詳しいお話は、城内で・・・」
キティルハルム城応接間・・・
そこには、なぜかオーバーオールの少女に、塩をぶっかける女彫刻師の絵が飾られていた。
「よっこいしょ。」
ノワール二世は、テーブルに杖を立てかける。
ずるっ・・・
どすんっ!
鈍い音を立てて、杖は倒れてしまう。
「イヤだわ・・・もう。」
そう言うと、再び立てかける。
まるで、木の杖を立てかけるように。
「そ・・・その杖・・・何でできているんですか?」
「ん?オリハルコン。重量十キロ。」
「「「え・・・ェえええええええええええええええっ!?」」」
エリー・ダニエル・マリアが、絶叫した。
「銘は「悠久の図書館」女王の勺だ。これをいつも持ち歩いているからこそ、もともと高い人猫の身体能力を更に鍛えていると言えるんだろう。」
「つまり、魔導師然としているのは見せ掛けで、実は格闘もいけるってことですか!?」
エリーは、びっくりしている。
「そうねぇ・・・ノワールオオウナギや古代鮫をよく釣り上げるわ。人食い熊を仕留めて、国中のみんなと熊なべをしたこともありましたね。」
とんでもない女傑である。
「しかも、祝い事になると、「闇鍋」ときたもんだ!」
「でも、クラーケンはさすがに入れんでしょう・・・」
ノワール二世は、渋い顔をする。
「猫だからねえ・・・」
いいつつ、彼女は、一冊の手記を取り出した。
女王様、バカ力!