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意識と無意識の境界線 〜 Aktuala mondo  作者: 神子島
第四章
34/43

34

 あれからどのくらいの時間が経ったのか全く見当がつかない。

 既に全身に力が入らず、今はただただ体が休息を欲している。まだ息が整わないくらい(こた)えたが、初めて経験する激しい痛みに耐え、ようやく一つになれた喜びはこの先も忘れられないと思う。けれども、その至福の時は、抗えないほどの甘美な睡魔の誘惑のせいで余韻に浸る暇もなく、眠りに取って代わられようとしている。

 青蓮からも優しくあやされ、わたしは早々に意識を手放した。



  ***



 体の隅々まで力が戻って来ているのを感じる。ふんわりと体が軽くなり、あれほど重たく感じていた四肢が自由に動く。目蓋を上げると濃淡のある青味を帯びた紗が揺らめいていた。

 わたしは、いえ、わたし達は絹に包まり心静かにそれらを眺めているようだ。紗に見とれていたら間近で声が聞こえた。


 「目覚めたか?」


 「ん・・・青蓮、ここはどこ?」


 「私の、いや、我らの(ぐう)だ、そして、ここは寝所だ」


 (ちゅう)を何かがキラキラと浮かんでいるのが見える。


 「あれは、何?」


 「ふむ。あれは“喜び”だ。幼い仙女達が舞っておるのだ」


 「どうして喜んでいるの?」


 「私と其方が契りを交わし夫婦(めおと)になったからだ」


 こちらから質問しているのだけれど、お伽噺でも聞いている感覚であったため青蓮の言った言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。


 「え? えっと・・・その、それってさっきまでのあの事? もう、みんな知っているの? あの子達は見ていたの?」


 ずっと青蓮に翻弄され続け時々記憶が飛んでいるが、その記憶が確かなら、わたしと青蓮は初めての睦事(むつみごと)を終えたばかりで誰にも会っていないはず。まさか見られていたのかと思い、羞恥でカッと全身が熱くなった。


 「見てはいない。あの時は私と其方だけの空間にいたのだから。それに他の者に瑠璃のあの姿を見せる筈が無かろう。・・・なぜ皆が知っているのかというと、父上がそう決められたからだとしか言いようが無いが、この場所に住まうもの達は全て父上や我らと繋がっている。特に生命を維持するには必要でな。私が半身である瑠璃を娶り完全となった事はその分の力が増したことになり自ずと皆が気付いたのだ。まぁそんなに気にすることではない。ここは我らの宮だ。仕える者たちも我らのこの時を待っておったのだ」


 青蓮が話している最中も、キラキラとまるで金の粉のようなものを四方にふりまき、仙女達がいよいよ楽しそうに舞い踊っている。見ているだけで彼女(彼?)達の喜びが伝わりこちらも嬉しくなるが、・・・とても可愛らしく綺麗なのだけれど、少々複雑でもある。


 「青蓮、今更なんだけど、その、大丈夫、だったのかしら。天帝とのお約束のこと・・・」


 結婚は青蓮の父親である天帝と青蓮の二人だけの約束が果たされたら、とだけ聞いている。一体何の約束だったのかは知らないけど、勝手にこんな事をして許されるとは思えない。

 

 「それについては、まだ父上とは話してはいない。だが、こうなった以上、私は其方を持てる全ての力で守る。父上にこの世界から追い出されようとも必ず其方だけは連れて行く」


 青蓮の気持ちがとても嬉しい。わたしにとっての“一番”は青蓮で、絶対に離れたりしたくない。けれど、まずは現状をきちんと双方の親に報告すべきで、問題があれば話合いで解決したいと思う。


 「はい、勿論、わたしも一緒に行きます。でも、その前にきちんと正直にお話をしましょう。争い事は嫌だわ」


 「わかった。ちょうどあちらの界は夜だ。そなたの父も呼び我らが夫婦となった報告をしよう」


 「はい。お願いします」


 笑顔でそう答えると、青蓮が絹を剥いで覆い被さって来て、再び青蓮の腕に囚われてしまった。



  *



 『せいれんさまぁ、るりさまぁ、よきがきたぁ』


 『よきがきたよぉ』


 『きたきたぁ』


 『よきがまってるよぉ』


 可愛らしい、小さな声達が頭上から降って来て口々に来訪者がいる事を告げている。


 「ったく気が利かないやつだ。こういう時はもっとそっとしておくのではないのか」


 瑠璃の肌の上を滑っていた唇から、軽い溜め息とともに青蓮が面白くなさそうに零していると、間を置かずして余暉の声が聞こえた。


 「青蓮様、ちょっといいっすか?」


 「なんだ余暉(よき)。呼んだ覚えは無いが」


 声はするが余暉の姿は見えない。青蓮は慣れた様子で応対していたが、ふと瑠璃に目をやるとすっぽりと頭まで絹をかけた。


 「それはないでしょ青蓮様。お祝いくらい言わせてよ。みんな浮かれちゃってこの界全体がお祝いムードなんだから」


 「この界全体? 余暉サンどういうことですか?」


 ひょこっと顔を出すと再び頭まで絹を掛けられ、余暉が現れるから姿を見せるなと言われる。カーテンがあるから直接見えないと思うが、言われるがままに包まっておく。


 「あ、瑠璃ちゃん。おめでとう。天帝を筆頭に全体がね、そうなんだよ。で、僕は青蓮様の筆頭僕だしお祝いを言いにきたの。では、改めまして、青蓮様、瑠璃様、おめでとうございます」


 恭しく余暉さんは頭を垂れているのだろうか・・・。顔を出すなと言われているから姿を見られている訳ではないけど、気恥ずかしいような嬉しいような気持ちで、わたしの姿を遮るように上半身を起こしている青蓮をこっそり見上げると青蓮も嬉しそうだ。


 「ありがとう。ようやく、だな。お前には色々と面倒をかけた」


 「(あるじ)には幸せになっていただきませんと。青蓮様、ようやく実りましたね」


 「ああ。ところで・・・余暉、父上と母上は?」


 「本宮(ほんぐう)にお出でです。お二人に早く会いたいと仰せになっていらっしゃいます。特に神妃(しんぴ)様が」


 「そうか。わかった。ならば参ろう。余暉、瑠璃の父、理一郎を連れて来てくれ」


 「御意」


 余暉がそう答えた直後に、ふっと一人分の気配が消えたのを感じる。間を置かずしてふわりと絹がめくられ青蓮が顔をのぞかせた。


 「では瑠璃、準備をしようか」


 「はい」


 青蓮にゆっくりと起こされると絹が剥がれ落ち、あられもない姿が全て見えてしまった。あまりの恥ずかしさから絹を胸元まで引き上げて隠していると、どこからかふわりふわりと(ころも)が現れた。

 次々に現れる衣に袖を通す。わたしは立って袖を通すだけで、まるで衣に意思があるように順番に重ねられて行き、計算し尽くされた重ねの色合いがとても美しく映えている。


 「青蓮。見ていても何も面白くないわよ」


 「面白く無い訳が無いだろう。一日中見ていても飽きない。それに、着せるのも脱がすのも私だけの特権なのだからな」


 「・・・これは青蓮が着せてくれていたの?」


 「そうだ。瑠璃は何もしなくていい。私が全てするのでな」


 「甘やかさないで。わたしだって出来るようになりたいわ」


 「・・・そのうちな。そのうちに教えてやる」


 そのうちにって言っているが青蓮の様子を見ていると全然そんな気はなさそうに見える。特権とまで言っていたし、本人であるわたしですら除外されるのかもしれない。


 『きた』


 『またきたよ。よきがきた』


 『いっしょいっしょ』


 着付けが終わった頃、仙女達が再び声を発し余暉がやって来た事を教えてくれた。どうやら父も一緒のようだ。


 「青蓮様、瑠璃様のお父上をお連れしました」


 「そうか。入ってもらえ」


 余暉と父が一緒に入って来た。父は心無しか疲労の色が滲んでいるようだ。


 「瑠璃! 無事だったか」


 わたしの姿を認め父が開口一番無事の確認の言葉を口にした。


 「心配かけてごめんなさい。でもこのとおりよ」


 そう言ってくるりと回ってみせるとようやく安心したようだ。目を細めてこちらを見ている。そして父は初めて近くに青蓮がいた事に気がついたようで、慌てて挨拶をしている。だが青蓮はむしろ逆に頭を下げた。


 「義父上(ちちうえ)、この度は私の落ち度で大変なご心配をおかけしました。申し訳ありません」


 「・・・もういいのです。瑠璃が無事でありさえすれば、何も言いますまい」


 「この後、我らと一緒に本宮(ほんぐう)へ来ていただきたいのですが」


 「はい構いません。ぜひお願いします」


 「では参りましょう」


 青蓮の声とともに瞬く間に場所が移り変わり、今、わたしたちは大きな扉の前にいる。その前で青蓮が声をかけた。


 「父上、母上、御前(おんまえ)に参りました」


 「はいはーい。ちょっとまってねー。今開けるからねー。ささ、入った入った。あ、堅っ苦しい挨拶はいらないよさっきまで一緒にいたんだから」


 響き渡る声が聞こえたかと思うと、なんとも最初っからフランクな物言いが返って来た。恐らく天帝の声だろう。インターフォンから聞こえて来そうな感じだ。威厳はそこには全く感じられないが優しく包み込むような温かさは感じる。これから伝える事を考えると少し気が楽になった気がする。

 青蓮がこちらを見て頷いた。中へ入るぞ、ということだろう。わたしも父も同じように無言のまま頷いて返すと、青蓮が扉に手をかざしわたし達を伴って中へ入って行く。


 「やぁいらっしゃい。待っていたよ」


 やたらとはしゃいだ様子の天帝と、その隣で、くふふふと含み笑いをしている神妃・・・。こうして見ていると似た者夫婦という言葉がぴったりだ。あまり直視するのは良くないかなと思い慌てて顔を伏せた。ちらりと横目で父を垣間見れば同じように顔を伏せている。


 「あらやだ。顔をあげて頂戴な。せっかく一緒にいるのに顔も会わせないんじゃ寂しいわ」


 「ありがとうございます。では遠慮なく。お邪魔いたします」


 神妃の言葉にまず父が顔を上げ、わたしにもそうするように促し挨拶を交わした。

 最初に天帝から父に謝罪の言葉があった。


 「今回の件は理一郎にも色々心配かけてすまなかったね。ほんと、悪かった」


 「いいえもう済んだ事です。青蓮様からもお言葉をいただきましたが、本当にもう、私は娘が、瑠璃が無事でありさえしてくれればいいのです。このとおり娘も元気にしておりますからどうぞもう謝罪のお言葉は不要に願います」


 「もっと怒っても良いのに」


 「いいえ。済んでしまった事は仕方がありません。むやみやたらと怒りを表すのは愚の骨頂。そこからは何も発展せず、何も産まれません。むしろ(わだかま)りがくすぶり不調和の始まる原因になります。互いに許し歩み寄る心がなければ、より良い関係は望めません。ましてや過去に因縁があった相手だからと視線を会わせず挨拶もしないなど、幼稚の極みでございます。今の状況で、何をどう選択し、進む過程に於いて突き当たる問題をどう解決するか。最善の選択をし、過去の問題でなく、現在、これからの問題をどう解決して行くのかが大切だと思います。ですから、私は蒸し返してまで怒るような、そのようなことはしたくありません。呆れられ己の小ささを自ら露呈するだけですから」


 「その通りだな。では、もうこの事には触れぬ」


 「はい。是非とも」


 父と天帝、神妃との間でそのように話が落ち着いたところで青蓮が口を開いた。


 「お話がよろしければ、私から皆様に報告がございます」


 「お、待ってた待ってた。それそれ」


 「ふふふふふふふふ」


 「?」


 青蓮の言葉に対して三者三様の反応だ。やんややんやと楽しそうにしているのがひとり、ひたすら満面の笑顔がひとり、訳の分からないといった顔をしているのがひとり。そんな彼らを前に一呼吸おいて青蓮が話し始めた。

 

 「私と瑠璃は契りをいたし、瑠璃を正式に妻といたしました。あいにくと父上との約束は、まだ完全に解けてはおりませぬが」


 「ああ、いいよいいよそんなこと」


 青蓮の言葉に天帝が軽い口調で被せてくる。青蓮もわたしも本意が分からずに天帝の顔を見上げると天帝はポリポリと頬を掻いて罰の悪そうな顔をしている。


 「ってか、それ反故にしていいかな。ちょっとさ、番狂わせな事が起きちゃったし」


 「反故に? 何故でございますか?」


 「何故ってそりゃ、瑠璃ちゃん、危うく死んじゃうとこだったし。それにお前達の気持ちも固いようだしね。あんまり邪魔するのも、ほら、何て言うかアレだし」


 「馬に蹴られて地獄への超特急」


 「そうそう、それそれ。い? 地獄? 僕、地獄なんて作った覚えないんだけど!? マグマなら作ったけど、地獄ってありゃヒトの空想の産物だろうよ」


 天帝は、ポソリと言った神妃の補足につられてウンウンと頷いたのはいいけれど、直後にクワッと目を見開いて慌てて否定をしている姿は何とも微笑ましい。


 「そんな事はどうでもいいのですよ」


 と神妃が天帝を軽く()なした後、天帝は打ち拉がれながらも言葉を続ける。


 「そもそもの話になっちゃうんだけど、その約束は少しでも青蓮が興味を持つようにと仕向けたことだからね、正直言ってあってもなくても良かった事なんだ。でないと、あの時のお前じゃ、飽きたら簡単にポイって投げ出しそうだったしね。イレギュラーな事が起きなきゃ最後まで解いてもらおうかと思ってたけど、もういいよ」


 「・・・では、私が・・・」


 「ああ、言っておくが意味が無かったなんてことは無いからね。お前は未完成ながらも、瑠璃ちゃんの為に一生懸命に取り組んだ、その姿勢が大事だ。まぁ確かに最初は、瑠璃ちゃんしか見てなかったようだけど、瑠璃ちゃんの言葉に耳を傾け、立ち止まって考え調和を測る事を覚えただろう? 僕はね、今回は結果じゃなくてプロセス重視だったんだ。心の無い状態のお前だったら手前勝手な自己顕示欲の塊になっていただろうけど、そうはならなかった。相手の立場、自分の立場、周囲との関係を大切にした。僕はそれでいい、それで満足だよ」


 天帝が語る内容は一見するとひどく当たり前のようではあるけれど、ひどく難しい事でもある。自分の心に一生懸命になり過ぎて、見栄や体裁、メンツ等と言った事にばかり執着すればどことも誰とも上手く行かないのは当然で、一歩引いて冷静に謙虚にならなければ出来ないことだろうし、本当の意味で周囲に認めてもらうにはそういった姿勢が大事なのだろう。ということは、青蓮が言っていた「父上に認めてもらいたい」というのは、既に達成していたということになるのではないだろうか。


 「青蓮、良かったわね」


 青蓮の袖を少し引いてそう声を掛けると、どうやら天帝の言葉を聞いて固まっていたらしくビクリと体を震わせ慌ててこちらを振り向いた。その様子が何とも新鮮でクスリと笑うと、つられて青蓮もふっと息をこぼした。


 「ま、そういうことで、僕らは君たちの結婚は認めてるよ。あ、忘れてた。理一郎、理一郎は異論ある?」


 天帝に声をかけられるまで気付かなかったが、父もまた固まっていた。「え?」という顔をしたままでわたしたちの顔を順番に見ている。


 「お父さん、おとーさーん。おーい」


 わたしの呼びかけにようやく我を取り戻したようだ。ハッと顔を引き締めたかと思うと、がしっと肩を掴まれ軽く揺さぶられた。


 「お、おとう、ささん?」


 「瑠璃! お前、まさか・・・無理矢理じゃなかっただろうな?」


 最後は消え入りそうな声だったがわたしを心配する父の言葉に、首を振って答えた。


 「違うわ。わたしが望んだの。真っ暗な闇にいたわたしを青蓮が見つけて救い出してくれた。その時改めて確信したの。わたしの居場所はココだって」


 父はじっとわたしの言葉に耳を傾けてくれている。わたしの気持ちを理解してくれたのか強く握っていたわたしの肩から手を離した。その直後、背後から青蓮がわたしに腕を回し、今度は青蓮に包み込まれた。


 「それに、青蓮はずっとわたしの気持ちを大切にしてくれていたの。いくら現世で婚約をしたといっても、どこかやっぱりまだ心が決まっていなかった。どこかで全てを青蓮に委ねることを怖がってた気がする。それが分かっていたから、青蓮はわたしを抱きしめる事以上のことはしないで待っていてくれた。今はね青蓮のことは全て信じているわ。彼がいてくれればわたしには怖いモノは無いって分かる」


 「義父上(ちちうえ)。もう二度とあのような事をおこしたりしません。瑠璃は私が全霊をかけて守ります。ですから、瑠璃を私に下さい」


 青蓮の言葉に父がわずかに涙ぐんだ。その涙を見てわたしも込み上げてくるものがあったが、青蓮の腕に縋り付きぐっと我慢した。


 「・・・もとより、もとよりそのつもりでしたから。だが・・・、ははっ、いけませんな男親は。いざとなったら急に・・・。失礼」


 慌てて父は目元を拭った。


 「もう、もう瑠璃には会えないのでしょうか?」


 力なく話している父に青蓮は首を振った。


 「いや。そんな事はありません。瑠璃が望めばこれまで通りの生活を送ります」


 「本当? 青蓮、そんな事ができるの? というか、許されるの?」


 「何を驚いている。父上に放逐されぬ限りは、私も父上のこの世界に留まれる。・・・それに、瑠璃がいなくなれば野田家は途絶えるぞ」


 忘れていたけど父もわたしも一人っ子だ。だからわたしが子どもを産まなければわたしの代でうちの家は終わる。父の顔を見ればどこか諦めた顔をしているようだ。


 「瑠璃に兄弟を作ってあげられなかったのは僕らの責任だからね、仕方ないよ。それよりも、瑠璃が幸せになってくれる方が良い」


 「・・・お父さん」


 父娘で落ち込んでいると、すぐ近くから呆れた声が聞こえて来た。


 「だから、瑠璃、義父上聞いていますか。これまで通りに生活をし、私と瑠璃が子を()せば良いのです。その子はヒトとして次代へ担う者として現世に留め置きます。それで万事解決でしょう」


 青蓮の提案に父が喜色を滲ませ驚いている。


 「青蓮様、その様な事は可能なのでしょうか。仮にもあなた様は・・・」


 だがまだ父は半信半疑でもあるようだ。震える声で問いかけると、全然トーンを落とさない天帝の軽い声に遮られる。


 「それなら本当に心配ないよ。僕が保証するから。一応、僕が作ったからねこの世界、なんとでもなる。すごいだろ」


 胸を反らしてニパッと笑う天帝はまるで・・・なるで・・・。一応、見目麗しい人なのにどこか残念なにおいがする。


 「はい、凄いです! まるで創造主のようです天帝様」


 「えっへん。だからそう言ってるでしょ、凄いの僕。あ、天帝じゃなくてお義父様って呼んでね」


 「はい! お義父様!」


 「むふふ、いいねぇ」


 わたしがお義父様と呼ぶのがとてもお気に召したようで、とても満足そうに頷いていらっしゃる。


 「父上。そのようなコントロールは私がやります。無闇矢鱈と瑠璃に干渉しないでいただきたい」


 キッパリズッパリ青蓮がお断りをした。


 「あーやだねー。こういうの嫉妬っていうんだよねー。醜いぞ青蓮」


 「あなた、いい加減になさいませ。青蓮にも十分統べる力はあるのですよ、別の世界の創造主になれる程の。あなただってお義父様の下で十分修行なさっていたではありませんか」


 修行? 神妃様から見てお義父様ということは、青蓮のお爺様ということかしらと、思っていると情けない声を発する天帝がいた。


 「あー! それをここで言っちゃだめでしょ。僕の威信がー・・・」


 「威信? 何ですかそれは。すっかり好好爺(こうこうや)ではありませんか」


 「失礼だなー。見た目は全然若いぞ」


 「見た目はね」


 「・・・と、とにかくだな、理一郎そういうことだ。その辺りは心配せんでもいい。君は普通に、ヒトとしての人生を送れ。細君とともにな」


 「はい。ありがとうございます」


 深々と父が頭を下げた。

 父には母とともに幸せな一生を送って欲しい。子どもであるわたしが両親の最期を看取れればきっと父も母も安心するだろう。だけど、そんなことはまだまだ先の事だと思っていたい。それに孫も見せてあげたいと真剣に考え始めていた。


 「ところで父上。石の“瑠璃”のことなのですが・・・」


 青蓮が答え合わせを求めるように天帝に真相を問う。


 「ふむ。覚えておったか。ま、話さねばならないとは思っておったけどな」


 そういうことで、天帝の話が始まった。


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