闘病の日々
診察室で恵美は、ある事を考えていた。
「私は、どうしてこうなってしまったのだろう…幸せな家庭を築いて、子供を産んで夫と、ゆっくり老いて行きたかっただけなのに…」
ぽろり、ぽろりと涙が零れてく…
悔しい?悲しい?
どんな言葉を連ねても表すことの出来ない心の叫びが恵美を支配していく
医者の話しなんて耳に入らない……というより、拒絶に近いものだった。
恵美の隣で悠子が真剣に医者と向き合っていたが、恵美の表情が優れないのが気掛かりだったのか医者に休憩を申し入れた。
悠子は屋上に恵美の手を引き、連れていった。
外は快晴で雲もなく、心地好い風が吹き抜けていく・・・
色とりどりの洗濯物が、パタパタと風に舞っていた。
「恵美、どうしたの?苦しいの?」
悠子が心配そうに顔を覗きこむ
恵美「ううん。今日は、苦しくないよ…ただ、考え事をしてたの」
恵美は力強くではないが囁くように答えた。
そんな二人を大都会が隠し太陽が、見つめていた。
その後、診察室に戻り、再び話し合いが始まった。
医者からの薬による治療を始めましょうと提案
気休めにしかならないと分かっていたが、悠子と恵美は、承諾した。
その頃、翔汰は……
恵美のためにできる事、悠子のためにできる事、自分のためにできる事を考えつつ、与えられた仕事を淡々とこなしていた。
休憩に入ると悠子から、病院へ行った事・恵美の様子が思わしくない事などが書かれたメールが着いていた…
珈琲を口に運び、ゴクッと飲むと深く深呼吸をした
煙草に火をつけ、煙を眺めながら「どうすれば良い…」などと考え込んでは頭を掻きむしる…
全く先が見えない…
一秒一秒が長く感じながら、わずかな光を掴みたいと、翔汰は願うのだった…
結局、翔汰は一日中、恵美のことで頭がいっぱいで仕事が手付かずのまま終わって閉店後
店長「翔汰くん、どうしたの?何かあったんでしょ…今まで、今日みたいな事なかったし…」
翔汰「…本当に申し訳ありません…今は、これしか言えません。話せる時が来たら、ちゃんと、お話しします…」
店長「………。分かったわ。それまで、待つけど今日みたいな事がないように気をつけてよね?じゃなきゃ、お客様に失礼でしょ?翔汰くんの作るデザートと接客が、うち自慢なんだから…」
翔汰「はい。肝に命じます」
店長からの期待を裏切れない……けれど、恵美のことも気になるし大切で、更には悠子のことも心配という…
この複雑な胸の内をどう整理していいのか翔汰には、まだ、分からなかった。
お店を後にした翔汰は、自宅へは足を向けずに恵美宅へと足を進めたのだった。
途中で、悠子へと「今から、顔だします」とメールを送信
恵美宅へと着くと悠子が、出迎えてくれた。
恵美は、翌朝から退職届を提出しに会社へと行かなければならないし、病院疲れで早くに寝たらしい。
悠子「ごめんなさいね…私が恵美のことメールしちゃったから…」
翔汰「気にしないで大丈夫ですよ。僕に出来る事はしたいですし、仕事終わったら寄るつもりでした。悠子さんも疲れたでしょう?大丈夫ですか?」
悠子は、どことなく気持ちが張りつめていたのだろう…
翔汰が話し終えるとホッとしたような表情を見せた。
悠子「ありがとうね。翔くん、お腹空いたでしょう?ちょっと、待っててね♪」
悠子は、そう言うと食材とビールを冷蔵庫から取り出し、翔汰にビールを注いであげると、ささっと炒飯とスープを作ってくれた。
翔汰は、お腹ペコペコだったので、ぺろりと食べ終えた。
悠子「翔くん、今日は泊まってくんでしょ?」
翔汰「いや、もう少し居たら帰ろうかなと思ってたんですけど…」
悠子「泊まって仕事行きなさいよ♪その方が、あの子も喜ぶし、私もそうして欲しいわ」
翔汰は迷ったが泊まることにした。
翔汰「分かりました。じゃぁ、お言葉に甘えさせていただきます」
悠子「そうと決まれば、私の飲もうかな♪翔くん、付き合ってね♪」
翔汰「いいですよ♪飲みましょう」
二人は、恵美の話しに花を咲かせ遅くまで飲んだ後、悠子は先に眠りに就いた