第5回:北京
1週間後、『冒険マガジン』の編集部で桜野は梅園に会った。
「頼まれていた件、いろいろなルートを通じて調べたら、こういうことがわかった」と梅園は資料を見せながら話した。
「わかっているだけで8件、世界各地で有名な格闘家が何者かに襲われた事件が起こっている。このいずれの事件でもグローブナイトの姿が目撃されている」
「そうでしたか」
「ところで、君はなぜこんなことを知りたかったのかね」
「ライバルについてよく知りたいと思いまして」
「なんか、君、自分がサクラサムライのようなことを言うね」
「いいえ、俺のライバルという意味ではなくて、俺の好きなスーパーヒーローのライバルというのはどういうものかと」と桜野は少しあわてた様子で言った。
その日の夕方桜野が自分のマンションにもどると、左手首のブレスレットから老師の声が聞こえてきた。
「剛、北京で事件だ」
「変身」
桜野はサクラサムライに変身した。
「テレポーテーション」
サクラサムライの姿が消えた。
数秒後、サクラサムライは北京の天安門広場にテレポートした。彼は辺りを見渡し、空を見上げたが、特に変わった点はないように思われた。ブレスレットから、「サクラサムライ、見えるものだけがすべてではない」と老師の声が聞こえた。
そして、サクラサムライは左の方にただならぬ気配を感じて、とっさに2メートルくらい右に跳んだ。さきほどいた場所を見ると、敷石に何かがひっかいたような傷がついていた。
「何かいる」とサクラサムライはつぶやいた。
そして、今度は後方から気配を感じて、約10メートル飛び上がり、両手から下に向けて水を発射した。すると、轟くような鳴き声がして、体長約8メートルの白い虎が姿を現した。虎視眈々とサクラサムライをねらっている。
「虎の尾を踏むなよ」と老師の声。
「気を付けます」
サクラサムライは地上に降りて、虎の顔をめがけて両手から火を出した。虎は素早く脇によけた。サクラサムライはまた虎に向かって火を放った。虎はまた素早くよけた。
「早い」とサクラサムライはつぶやいた。すると、今度は虎がジャンプして前足の鋭い爪で攻撃してきた。サクラサムライは後方に跳んで攻撃をかわした。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と老師の声。
「わかりました。テレポーテーション」
サクラサムライは虎の腹の下に潜り込んだ。そして、「凍れ」と叫び、虎の体全体を凍らせた。虎の腹の下から出ると、彼は左腕を挙げてブレスレットに月光を当てると、ブレスレットから黄金の光が出て、虎の方に向かう。すると、虎の体全体が黄金の光に包まれ、その光の中から白い光の玉が飛び出した。その光の玉はブレスレットの近くで破裂して、白い光がブレスレットに吸い込まれた。そして、虎を覆っていた黄金の光が消えると、虎の姿はなかった。
「これで金属の力も手に入れたな」
サクラサムライが声のした方向を見ると、グローブナイトがいた。
「さあ、ここで僕と戦え」とグローブナイトが強い口調で言う。
「お前と戦う理由がない」とサクラサムライは答えた。
「自分の限界に挑戦する気はないか」
「何!」とサクラサムライは驚いた様子で言った。
サクラサムライとグローブナイトがにらみ合っていると、警備兵が近づいてきた。
「邪魔が入ったか」と言うと、グローブナイトは警備兵のほうを向いて、「僕が相手になる」と言う。警備兵はグローブナイトに向けて発砲するが、グローブナイトに弾は当たらない。この隙にサクラサムライはテレポートした。