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雉子は鬼の夢をみる  作者: あら
第三章 鬼ノ城
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「着いたぞ」

 楽々森彦の言葉に、沙鳥はほっと息をついた。

 男の肩越しに見える立派な掘立柱の小屋では、鬼の長が待ち構えているはずだ。にもかかわらず、沙鳥は恐れや緊張より先に安堵していた。

(どこがまっすぐよ……)

 門で出くわした鬼に向かって胸の内で毒づく。

 西の門をくぐってすぐに、楽々森彦の腕から逃れて自ら歩き始めた沙鳥だったが、いくらも行かないうちに敷き詰められた石の畳に行き当たってしまった。雨による道の崩れを防ぐためなのか、ほかに意図があるのかはわからなかったが、いずれにしても、脚を怪我した沙鳥にとって歩きにくいことに変わりはない。

 結果、もたついていた沙鳥に楽々森彦が業を煮やし、抗いもむなしく彼の背で運ばれることとなった。

 それから人がひとり通れるぐらいの小道を、登ったり下りたりを繰り返すこと数知れず。ひとつの門と四つの谷を過ぎ、現れた東の門を前に少し開けた道を歩いて、ようやく目当ての小屋にたどり着いたのだった。

 想像の埒外の悪路だった。

 意地を張って歩き続けていたら、日暮れまでかかるどころか無事ににたどり着けたかどうかも怪しい。

 しかし、怪我をしていない足であっても手こずりそうな険しい道を、地に足もつけず、より不安定な人の背に乗って、まさしく身をゆだねた状態で運ばれるとなると、とても生きた心地がしなかった。

 始終体をこわばらせたままの沙鳥をよそに、楽々森彦はここまでの道すがら、沙鳥のことはもちろん、五十狭芹彦のこと、稚武彦のこと、しいては大王のことまで根掘り葉掘り尋ねてきた。もちろん訊かれるまま答える沙鳥ではなかったが、はぐらかすのに忙しく、鬼たちについて尋ねる間はなかった。

 もっともそれこそが楽々森彦の狙いだったのだろうが。

「下ろして」

 うまくあしらわれた気が拭えず、沙鳥は自ずとぶっきらぼうな口調になった。

 楽々森彦は気にする風でもなく、ただ首を回してにやりと笑いひと言。

「仰せのままに、巫女殿」

 そして明らかに度を越した恭しいしぐさで腰を落とす。

「礼を申しますわ、長殿」

 歯ぎしりしそうになるのを堪えたため、いくぶん歯切れの悪い声になったが、沙鳥は精一杯の厭味を籠めて応えた。

 しかしもちろんそれだけでは気が済まず、かがんだ楽々森彦の首を、ほんの一瞬、しかしかなりの力を入れてそれとなく絞め、くぐもった声が男の背を伝って響くのを聞いてほくそ笑んだ。

 熱を帯びた脚は地面につけるだけでも痛んだが、自分の足で立てることが何よりうれしかった。沙鳥は小さく伸びをして体をほぐし、それからゆっくりとした動きで辺りを見まわす。

(あれは?)

 ぐるりと見渡す限り、周りは木々に囲まれていたが、前方、ちょうど小屋の向こうの木々の間に何か炎のようなものが見えた気がした。

 と同時に、うなじのあたりがちりちりするのを感じる。

(見られてる)

 先ほど見た炎をもう一度確認したいのを堪え、一通り目を巡らせただけにとどめる。

「あまりきょろきょろするな」

 すでに先を行っていた楽々森彦が、小屋の戸口の前で首をさすりながら待っていた。

「わかってる」

 あまり興味を示しては警戒されてしまう。

 反抗するように小さくつぶやいて楽々森彦に並んだ。

 板張りの小屋は平地にそのまま建てられているようだった。

 戸口は沙鳥の背の丈よりわずかに高く、竹を編んだ薦で覆われていた。おそらく風通しのために粗く編まれているのであろうが、その粗さは小屋の中を窺い知ることができるほどではなかった。

 沙鳥は自らの息が速く浅くなっているのに気づき、落ち着こうと大きく息をつく。わずかに脚が震えているのは怪我のせいではないと、苦い気持ちで認めた。

「どうした? 入らんのか?」

 なかなか動こうとしない沙鳥の胸中を知ってか知らずか――おそらく前者であろうが――楽々森彦は沙鳥の心構えを待つことなく薦を上げた。

「入るぞ」

 そうひと声かけると、勝手知ったるといったようすでとひとりでさっさと入って行ってしまった。

「ちょっ……」

 慌てて後を追おうとした沙鳥は、うっかりと思いきり左の脚を踏みしめてしまい、脚に走る痛みに顔をしかめる。

(まずい……)

 慮るに城の中は悪路ばかりだろう。この脚ではただ歩くだけでもままならなそうだ。

 しかし楽々森彦も腕の傷でそうとう血を失ったはず。まるで怪我などなかったかのようにけろりとしているのが信じられない。

化け物(もののけ)だ)

 かろうじて口には出さず、沙鳥は楽々森彦の後に続いて小屋へと足を踏み入れた

遅いうえに短くてスミマセン。。

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