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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-4:”集結”のきざし【Ⅱ】

 日が沈み始め、夜が訪れようとしていた。

 夕刻のときは終わりを告げ、周囲が暗くなり始める。

 そんな中、スズとウィルは再び対峙していた。

 夕食後、再度決着をつけるため、とここに連れて来られたのだ。

 場所も、立ち位置も昼間と全く同じ。

 異なるのは、時間とウィルの蓄積ダメージ量のみ。

 とはいえ、ウィルもダメージが回復しきらないことを承知でこの場に来ることを了承した。

 しかし、1つ気になることがあった。


「スズさん。なんか、焦ってないッスか?」

「どういう意味よ」


 スズの構えは若干違う。

 昼間こそ真っ向から試合でするような流れだったが、今度は片手で木刀を握り、足の幅を狭く、身体の向きを右肩を先にして直線にしている。

 雰囲気も、昼間と違い弱いものを見る目ではなくなっている。


「本気ッスよね? なんとなくそう感じるッス」

「ええ、本気よ。あんたをさっさと倒さないと、ムソウと戦えない」


 対象を確実に仕留める気概を感じる。

 ウィルは表情を引き締める。


「ムソウさんと約束があるんスか?」

「あんたには関係ないわ。さっさとやるわよ。強くなるためにきたんでしょう?」


 その言葉に、ウィルは詮索を打ち切ることにした。


 ……そうだ、俺は強くなるためにきたんだ。


 相手が全力で来てくれるなら嬉しいことだ。

 十中八九負けるだろう。

 だが、そこから何かを掴み取る。

 無論、勝とうとする気概も捨てない。

 常に全力でぶつかるのだ。


「「……」」


 2人は、距離を開けたまま開始の機会を図りあう。


 ……昼間は見逃した初動、今度こそ―――


 ウィルは一時も目を放さず、わずかな動きすら捉えようと可能な限り神経を研ぎ澄ませる。

 その時、その場に新たな人物が来た。


「―――あ、いたいた。あれ? 稽古中ですか?」


 ウィルは一瞬目を奪われた。


 ……あ、かわいい女の―――


 気づいたときには、スズの木刀が頭部にぶち当たっていた。

 


「まじめにやりなさい」

「いってぇ~…」


 ウィルが地面にあぐらをかいた状態で、頭をさすっていた。


「まさか昼間と同じ部分打つとは…、うお!? また血が!?」


 対するスズは、フンと鼻をならす。


「集中乱すほうが悪いのよ。それにせっかく弱点が分かってるんだから攻めない手はないでしょ?」

「そういうものッスか」

「常識よ。覚えときなさい。…って、なんで私が先生みたいな真似しないといけないのよ」

「スズさんいい人だからじゃないッスか? 俺、好きッスよそういう人」


 ウィルがそういうと、スズは若干頬を朱に染めてそっぽを向いた。


「ば、ばか…! なに言ってるのよ。それよりも、さっさと負けを認めなさいよ!」

「あれ? 俺が認めるとか必要なんスか? 俺、軽く100回以上負けたつもりでいたんスけど」

「当たり前でしょ。相手に敗北を認めさせてこそ真の勝利なのよ」

 ……律儀なんだなぁ。


 と、負けを認めようとしたところで、あることを思いつく。


「そうだ。認めるのはいいんスけど、1つお願いがあるッス」

「なによ」

「今後も俺に稽古つけてくれないッスか? スズさんの剣を受けるたびに、何かつかめそうな気がしてくるッス」


 スズは、ふぅ、とため息をつき、


「そう簡単にできないに決まってるでしょ。私、これでも忙しいの」

「そうッスか…」


 しょんぼりとするウィルを見て、スズはムソウの昼間の言葉を思い出した。

 ウィルをどうして”弟子”として連れて来たのか。


 ――己の命を賭して”東雲”を背負おうとしてるお前と同じだ。あいつも命を賭けて背負おうとしているものがある――――


「―――教えてくれる? あんたは、どうして強くなりたいの?」


 スズの問いかけてきたことに、ウィルは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに決意を宿した表情となり、言う。


「助けたい人達がいるッス。自ら、不幸な道しかないと思い込んで、迷い込もうとしている。その人達に伝えたい。それ以外の道があることを。だから、その人たちの前に立つために強くなりたい」


 スズは、理解した。

 とり戻したいものは失われていない。

 だから、彼は取り戻すために力を欲している。

 ”力”だけではなく、”心”も共に学び得るために。


「…まあ、毎日は無理だけど、たまになら稽古の時間をつくってあげてもいいわ」


 木刀を地面につきたて、その場に置く。

 スズは歩み寄ると、地面に座り込んだままのウィルに手を差し伸べた。


「客人は、丁重におもてなししないと東雲家の恥になるから、ね」

 ウィルが、笑ってその手をとり立ち上がる。

 スズは、握られた手の感触に少し、照れくさい気持ちになる。


 ……大きくて、温かい手をしてる。


 よくよく考えると、あんまり男と手をつないだことはなかった。

 ウィルがいると何か今までと違うことが起こるような気がした。


「ところで、あのかわいい子は誰ッスか?」


 ひとしきり友情が深まったところで、ウィルは、自分の集中を途切れさせ、今空気を読んで待ってくれている人物へと目を向けた。


 ……これは、レベル高いッス。


 きらびやかな装飾の織り込まれた、淡い白色の着物。

 短めの髪をかんざしで結わえ、顔にも程よく主張しすぎない薄い化粧。

 身長低めの童顔で、幼さを残しつつも大人びるかのような気品と美しさ。

 まさしく着物美少女であった。


「……はぁ」


 とため息をついたのは、着物美少女。


「え? なんでがっかりしてるんすかか?」


 褒めたのに。


「そんなに似合いますか? この衣装…? うわぁ…ショックです…」

「ウィル、あんたランケアを傷つけたわね」

「え? なんでッスか!? 俺、ランケアさんになんか悪いこと言ったんスか!?」

 ……まあ、会うの初めてだろうし、分からなくても無理ないか。


 スズは、ランケアに視線をやる。


「お疲れ様。わざわざ来てくれなくてもよかったのに」

「本当は、こんな格好で来る予定じゃなかったんだけど…」


 と、そこで気づいた。

 やけにランケアがモジモジしていることに。


「まさか、あんたとうとう下着まで女物にされて…」

「わッ! なんで分かったの!? あ、いや、言わないでよ!?」


 顔を真っ赤に染め身をよじるランケアの姿は、乙女の恥じらいそのもの。

 それを見てスズは、


 ……ちッ、かわいいじゃない。

「スズちゃん!? い、今心の中で舌打ちしなかった!? ボク男の子なんだよ!? なんで女の子から嫉妬されるのー!?」


 その言葉を聞いて、別のが反応した。


「え? えぇ!? ランケアさん男なんスか!?」

「えっと、初めまして。えっと、どなたか存じませんが、ボク男の子です…」

「うっそだぁ~」

「本当ですってばぁ~!?」


 必死に訴え、腕を縦に振るランケア。

 いまだ信じられぬ、というウィル。

 あんた最近また可愛くなってきてない?、と妙に張り合うスズ。

 そんな3人の下に、声が振ってきた。


「―――ふはははは! この未熟者共め!」

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