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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-1:竹林の”槍撃者達” ●

挿絵(By みてみん)

 南武家。

 それは東国における白兵の第一戦力としての血筋を意味していた。

 戦場での白兵戦力の9割は、ここ南武家を始まりとしている。

 前当主、南武・フォルサは、下の者達を鼓舞した。

 

 ―――我らは常に先陣をきりて、いかなる敵をも打ち破る屈強なる者となれ。そして支えよ。東という故郷を。永久に支え続けよ! それが出来る手始めが我々の武にかかっているのだ―――


 しかし、勇将たる彼女もまた、”朽ち果ての戦役”という大戦の渦に飲み込まれ、命を散らした。

 だが、その意思は次代へと希望を託していった。

 南武・ランケア。

 それが新たな光となり”南武”を継承する者の名であった。



「―――さすがです。いつもながら…!」


 竹林の中、南武・ランケアは、息も切らさずに走り続けていた。

 すると、来た。

 竹の合間をぬい、自分と同じ武器を持った敵が、こちらに突きかかってくる。

 ランケアは、、一瞬視線を鋭くし、見る。

 武器の先端ではない。

 微妙なフェイントが入っていれば、そこに惑わされかねない。

 判断するには、相手の腕の動き。そこからの延長。

 軌道を予測する。


「はぁっ!」


 ランケアが武器である槍を、下から打ち上げた。

 敵は、初撃を潰されるが、慌てた様子はない。

 逆に打ち上げられた勢いを利用し、先端とは逆、石突を下方から走らせる。

 ランケアは、槍を振った反動で身動きが取れない。

 そのまま顎を打つ。そう思われた。


「それは前に一度受けてます!」


 ランケアは、反応していた。

 その手は、武器を握る力を弱め、すでに手放している。

 槍が空中に飛んで行き、自由になった両手は相手の石突による攻撃を挟み込んでいた。

 無論、白刃取りのような力技に持ち込むわけではない。

 そのまま、勢いに乗った。つまり、相手に持ち上げてもらう形となった。

 ランケアはまだ子供。体型も小柄で相対する敵と比較してもその差は大きい。それだけ軽業が可能な年齢であるということだ。


「なんと…!」


 敵は、その予測不能な動きに一瞬の動揺した。だが、すぐに自分が優勢であることには違いないと思い直す。

 相手はすでに武器がない。

 行動の先にある動作の制御権もこちらにある。

 そのまま地に槍をたたきつけようとした瞬間、


「えいあッ!」


 ランケアが、空中で手を離すと同時に縦になっている槍の先端を蹴り払った。


「む!?」


 敵は手の甲を上にして槍を持っている。石突きを持ち上げた際、手首の回転のため握力も弱まっている状態だ。

 その状態で、槍に回転の力が加えられたため、与えられた勢いに対抗しきれず、手から武器が放された。

 同時に、


「ぐおッ!?」


 回転した槍の先端が、敵の頭を強打した。


「あ、す、すいません!?」


 敵の頭に当たって跳ね返った武器を空中でつかまえたランケアは、軽く膝を曲げてすでに着地している。

 そして、謝罪を向けた相手は、すでに昏倒していた。


「ご、ゴメンなさい…、後で介抱…しなくても大丈夫ですよね?」


 と、口に手を当てて迷っていると、


「余所見はなりませんぞ!」


 上から声がした。

 頭上を見ると、同じく槍を持った新たな敵が来た。

 数は―――


 ……3ッ!


 竹林という地形を利用した上空からの一斉攻撃だ。


「くっ!」


 ランケアは、槍を風車プロペラのように回転させ、3連の刺突への対抗を試みる。

 だが、


「それは我らの予測の範疇ですぞ!」


 敵は、槍を抱きかかえるようにし、全体重をかける体勢をとった。


 ……あれじゃ、弾かれた後の体勢にたてなおしの時間が余計にかか―――、いや違う!?


 軌道が違う。


 ……あの刺突は、こちらに向かってきてない!?


 敵の狙いを読みきったときには、すでに刺突が突き立っていた。

 地面にだ。

 突き立った槍は、即席の柱と檻としての役割を同時に生みだす。

 ランケアは、槍と自身の動きが同時に封じられたことを知る。

 隙間はある。制限は一瞬だ。

 だが、それが致命的なのだ。

 この敵達を前にすれば、それは無防備をさらすに等しい。


「次陣、仕留めよ!」


 さらに地上からの攻撃が来た。

 またも3方向から。”檻”の隙間を塞ぐような形で刺突をかける。


「”槍檻”! どう避けますかな!?」


 6人を用いて、敵1人を確実に仕留める必殺の陣”槍檻”。

 武器と本人の動きを制限した上での同時攻撃をしかける。

 いまだに、自分はこれを破ったことがない。

 だが、ランケアは、


 ……幾度も重ねた敗北は―――


 次の一手を、


「今、破るための力にする!」


 跳ね上げた。


『!?』


 ランケアが、槍を勢いよく地面に突き立てた。

 それにより発生した風にも似た衝撃によって、多量の竹の葉が一気に舞い上がり、ランケアの姿を見えなくする。

 敵が、何事かと思いつつも、攻撃の速度は落ちない。

 隠れようと、そこにいることに変わりはないのだ。

 刺突が、檻の中へと突きこまれた。

 だが、


「いない…!?」


 数秒の出来事だ。

 舞い上がっていた葉が落ちる。

 ”檻”の中にあったのは―――、突き立った槍のみ。


「どこへ…、ッ!?」


 全員が一度に頭上を見上げた。

 ランケアがいた。

 空中にある先端に、腕一本で逆立ちしていた。

 いや、すでに身を返している。

 呆気にとられたことで今度は敵6人が隙をさらした。

 ランケアが、着地と同時に槍を振るった。

 旋回させ、敵6人の足を同時に薙いだ。


「ぬおお!?」


 まとめて尻餅をつかされる。

 体勢が完全に崩された。後は終わりだ。

 ランケアが、とりあえず起き上がりそうな者から的確に神速の槍を打ち込んでいった。


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