4-13:”決意”と”祈り”と ●
数時間後、城西都市”ウォールペイン”のミステルに、巨大な2隻の航空艦が停泊していた。
一方は、カナリスの”シュテルンヒルト”。
そして、もう一方は、東国で2番目に知名度の高い、戦闘型輸送巨大艦”カヤリグサ”だった。
東国で最も機動性に優れた戦艦で、搭載できる機体数も最大15機。
前線への迅速な機体搬送を目的としており、主に強襲仕様の色合いが強い。
「―――こんな田舎に”東”がなんか用事か?」
「―――この2隻が並ぶ光景なんてそう見られるもんじゃねぇな。もうそろそろ飛び立つらしいが」
「―――カナリスとどっかのバカがドンパチやったって聞いたが、貨物は無事らしいぞ」
そんな、様々な声が、町中に流れていた。
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”シュテルンヒルト”の書斎にて、その会見は開かれていた。
社長椅子に座ったヴァールハイトに、向き合っていたのは少女だった。
服装は”東”特有の礼服である”着物”。しかし、彼女の場合、戦闘も考慮した特殊仕様のものだ。
動きを阻害せず、柔軟な素材で出来ており、各部にスリットが見られる。
「―――この度の救援要請に対して、”東”の迅速な対応に感謝の意を述べる」
ヴァールハイトが、いつもの無表情で言った。
少女は、
「いえ、こちらとしても中立の代表たる”カナリス”の救援ができたこと、嬉しい限りです。…という、筋書きですか?」
少女の目がいぶかしむものに変わる。
「着いたときには、”賊”の方が悲惨な状態でしたので、私達が来た意味があったのかこちらとしても疑問です」
するとヴァールハイトは、ふっ、とため息をつき、
「私も驚いているところだ。この船に乗り込んだ元”東国武神”が、東の”カヤリグサ”を呼び寄せるとは思っていなかったからね。彼と”東雲”の縁はそう簡単に切れない、ということか」
その言葉に、少女は少し間を置きつつも、
「…そうですね」
少し、視線をそらしつつ答えた。
「まあ、他人の家の事情にこれ以上深入りする気はないとも。私もそこまで優れた人間ではないからね」
そんな流れで話していると、
「―――おーっす、お邪魔するぜ。社長さんよ」
ノックなしで扉が開け放たれ、隻腕の武士が入り込んできた。
それを見て、
「……ムソウ」
そう言い、少女は睨みつけた。
視線を受けたムソウは、ん?、と視線を交わし、
「なんだ、スズ。相変わらず胸が成長しねーな。おい」
プチっと、何かが切れる音がした。
「あなたは―――」
と、何かを言われそうになった時、
「おっと、待った。先にこっちの用件済ませてからだ」
ムソウが、遮った
そして、
「いつまでかかってんだ。入ってこいよ」
ムソウに招かれる声に従い、その人物が恐る恐る入ってきた
「―――ど、どうもッス。社長…」
ウィルだった。
やや、腰が低い。
だが、次の瞬間には意を決して、背筋を伸ばし、
「社長! 言いたいことがあるッス!」
そう言った。
すると、
「―――ちょうどいい。私も貴様に言うことがあった」
「へ?」
「貴様は解雇だ」
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格納庫内。
「―――あ~、あれ持っていっちゃうんですか…」
ヴィエルがさびしそうに呟いた。
その視線の先には、機羅童子によって運び出されていく、中破状態のブレイハイドの姿があった。
「持ってきたと思ったら、買い取ったので持っていきます、か。”東”の動きも早いな」
と、近くにいた作業員じいさんが言う。
「買い取ったって…”東”が?」
「そうだ。あの状態じゃ、スクラップにした方が早いってもんだがな」
「それもまたやるせないですが…」
「なんせ、武装は完全になくなってるし、OSとか制御系の電子機器までやられてる。人間で言うなら、骨格だけの脳なしって状態だ。あれじゃ、復元も解析もできんさ。どうなるかって、結果は見えてる」
「まあ、パイロットのウィル君が無事だったんだから、それは嬉しいことですね。早いところ元気になって、また働いてもらいたいところです」
「そうだな」
そう言っていたとき、
「おい! 大変だぞい!」
と、別のじいさんが走ってきた。
「どうしたよ。また騒動でもあったのか?」
「違うわい! ウィル坊が―――解雇になっちまった!?」
ヴィエルと作業じいさんは、顔を合わせ、
「「なにーーーーーーーーッ!?」」
同時に叫んだ。
●
ウィルとムソウは、スズについていく形でミステル内を歩き、今、”東国”への道を着々と歩いていた。
ヴァールハイトの書斎から出て数十分。
目の前には、”カヤリグサ”の電光文字が浮かぶ搭乗口。
そのゲートを通れば、後は一直線に”東国”だ。
そんな状況で、ウィルはというと、
「はあ……」
ため息ついて、肩まで落としていた。
「なーに辛気臭い顔してんだよ。仕事やめるって、自分からいうつもりだったんだろ? 結果的に同じじゃねぇか」
ムソウは、カッカと笑って、その背を叩いた。
「いや、それはそうなんスけど。もうちょっと、かっこよく宣言していきたかったッス」
「読まれてたんじゃねぇの?」
「え?」
ウィルは、ムソウを見た。
キセルから、フゥっと煙を吹いたムソウもやや横目でウィルを見る。
「あいつは、お前が働くことを許してたんだろ? カナリスってのは、結構入るの難しいって聞くぜ? 採用条件がまずあの鉄面社長の、こわ~い面接だからな」
「いや、俺の場合、エンティさんが仲介してくれたからだと思うッス」
「そうなのか?」
「そうじゃないと、俺みたいなのが、カナリスに入れるわけないッスから」
「本当にそうかねぇ」
また煙を吐きだす。
「少なくとも、ヴァールハイトはそんな男じゃないと思うぜ? まあ、俺様の考えだがな」
「俺の顔見るたびに”借金返せ”としか言わないし、エンティさんとグルになって無理難題押しつけるし、あまつさえベッド下の―――いや、とにかく、扱いがひどかったのはよく覚えてるッス」
その言葉にムソウが、ヘッ、と笑う。
「それが、あいつらなりの”愛”ってもんなんだよ」
「そうッスか?」
「そうだよ。お前さん、ヴァールハイトが嫌いか?」
「いや、嫌いってわけじゃないッス。苦手ではあったけど」
「だろ? お前が”カナリス”で楽しくやれてたのは、まず最初にヴァールハイトに認められてたからだ。あそこは、そういう”家”なんだろ?」
ウィルは、思い出した。
エンティに拾われて、初めて”シュテルンヒルト”に乗った日のことを。
……あの時のエンティさんの表情、真剣だったな。
ずぶ濡れになってやってきた自分に、作業員のおじいさん達が、温かいバスタオルを持ってきてくれたことを。
……集まりすぎて、軽くタオルに埋められたな。
仕事の後、温かい食事をみんな集まって大鍋で分け合ったことを。
……おいしかったな。食堂のおばあさんの料理。
”メガネさん”と初めて会った時のこ―――
……あれ? いつだったっけ?
思い出しきれないくらい、たくさんの思い出がある場所―――”カナリス”。
だが自分は、そこに背を向けて、新しい道を進むと決めた。
だが、
「―――あれ…?」
視界がぼやけた。
目じりを拭う。
涙だった。
「どうして…」
決めたはずなのに。
覚悟も持っていくはずなのに。
どうして涙がでてくるのか。
「―――どうする? 今なら引き返せるぞ?」
そうムソウが言った。
「ち、ちがうッスよ!? これはそういうのじゃなくて―――」
ウィルが、必死に手を振って否定した。
その時、
「―――まったく、男の子がそんな簡単に泣かないって教えたでしょ。 忘れたの、ウィル君?」
声がした。
え?、と振り返ると、その人を見つけた。
「エンティ…さん?」
エントランスのソファに、小柄なその人は座っていた。
こちらが気づくと、立ち上がり歩み寄ってくる。
「なんで…、誰にも言わずに出てきたはずなのに…」
戸惑うウィルに、エンティは腰に手をあて、
「バーカ」
笑顔でそう言い放った。




