4-9:真実の”守り人”【Ⅱ】
ムソウが参戦した格納庫での戦闘は、かなり騒がしかった。
と、言うのも、
「―――きゃあっ! また、胸を触りましたね!?」
「殺す殺す殺す…!」
「フハハハハ! ガキの割にはいい体つきしてるから、ついな! ついだよ、つい。悪気込みでな!」
ムソウのセクハラ攻撃に、”両翼”が完全に翻弄されていた。
「まだ、彼氏にも触らせたことないんですよ!? 謝ってください! ”東国武神”さん!」
そう言って、放られたグレネードが時間差で、起爆。
ムソウの回避路を塞いだ。
「おっと、やるねぇ! なら次に踏み込んでくるのは―――」
シャッテンが、爆発で生じた煙幕を突きぬけて、奇襲をかけた。
位置は、ムソウの死角にあたる、右側から。
……いける…!
相手は、こちらが見えていないはずだ。
だが、
「―――やっぱりそこからだよな! おい!」
ムソウは神速の抜刀で、ククリ刀を防いでいた。
「…く!」
「自分の死角ぐらい承知だって。死角から攻めるは基本戦術だが、逆に読まれると攻撃が来るのがバレバレってことだぜ?」
「…リヒルの胸をさわった罪は重い…!」
「ほぅ、それはそれは―――っと!」
ムソウが刀を回転させた。
受け流すと読んだシャッテンだったが、
「!?」
違った。
相手は刀を放していた。自ら武器を手放した。
同時に、前方に傾けていた重心がそのままになり、
「ほい、捕まえた」
気がつけば、うつぶせの状態でマウントをとられていた。
「この―――ひゃっ!?」
シャッテンの声が上ずった。というのも、
「そーら背中が弱いんだろう? ほれほれほれほれ~」
ムソウが背中を触りまくっていたからだ。
「ひっ、やあっ…!? やだ…! ああッ…! ひゃあんっ!?」
シャッテンの手が脱力し、ククリ刀がこぼれおちる。
逃れらない状態から必死に逃れようと、ジタバタもがいた。
頬を紅潮させたシャッテンは、震える拳を握り締めて、身体がのけ反るのに耐える。
そこへ、
「―――そこまでです! このセクハラ侍!」
リヒルの蹴りが飛んできた。
ムソウはすばやく飛び退いて回避。その過程で、落とした刀を回収していった。
解放されたシャッテンの吐息は、少しエロかったり。
「はあ…はあ…ふぅあ……」
「大丈夫、テンちゃん!?」
「…触られたあんなに……リヒルぅー! 触られちゃったよぉ!」
泣きながら、シャッテンはリヒルにすがりついた。
「ちょ、ちょっとテンちゃん、落ち着いて! 引っ張りすぎ! スカート取れちゃう!」
「いいぞー。もっとやれやれー」
”両翼”が、キッと同時ににらみつけた先で、刀を肩にかけたセクハラ野郎がスキップしていた。
「リヒル…あいつがなにか分かった」
「奇遇だね。私もテンちゃんと同じこと思ってるよ」
すなわち、
「「女の敵だ!」」
先ほどとは違う種類の闘志を感じ取り、ムソウが笑う。
「はっはー! いいねぇ”両翼”! もっと俺様を楽しませてくれ! 次はどこを触ってやろうかね!グヘヘ」
高笑いするセクハラ侍に、”両翼”が恨みつらみも含めて襲い掛かった。
●
「―――凄い抑え方ね。セクハラ込みなのはいただけないけど、”両翼”が冷静さを失ってる」
と、ユズカは、ムソウと配下の2人の戦闘(?)を見ながら感想を述べた。
「余裕だな」
そう言う、エクスはユズカへ向けた視線を外さない。
「知っているなら隠す気はない。俺の”ソウル・ロウガ”を回収してどうする気だ?」
「質問ばかりね。こちらの質問に答えたことはないくせに」
「前とは違う。言わない気なら―――」
エクスは、ナイフを逆手に構え、
「―――強制的に吐かせるまでだ」
敵意を放った。
常人なら、それだけですくみ上がるほどの威嚇力がある。
「いいわ。ならこうしましょう。勝った方が、負けたほうを言いなりに出来る、とね」
ユズカは微塵も動じていない。
「いいだろう…後悔させてやる!」
エクスは先制を取るべく、床を蹴った。
ナイフの間合いまで、距離を詰めるために。
だが、
「―――”花弁”…展開」
ユズカの小さな呟きが、持っていた”日傘”を変貌させた。
「なに!?」
”傘”が、分解した。
柄の部分を一本の、ブレードをして残して、残りが空中へと拡散、展開していく。
そのひとつひとつに刻まれた赤いラインが発光し、それらは大が4枚、中が8枚、小が16枚の計28枚の金属片に分かれる。
……いや違う。これは…!
エクスは知っていた。
かつて、命を救われたものと同じだった。
特殊浮遊装甲。
ライネの義眼”アフマル”によって制御されていた、防御システム。
まったく同じだった。
「やはり貴様、ライネのことを…!」
「答えて欲しければ、私に勝つことね。未来から来た、一人ぼっちの男―――エクス=シグザール」
ユズカが、ブレードを指揮棒のように天に掲げ、
「―――勝てれば、だけど」
振りぬいた。
浮遊装甲は、一斉に鋭利な金属の豪雨となって、エクスに襲いかかった。