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4-9:真実の”守り人” ●

挿絵(By みてみん)

 降下したブレイハイドは、直下の森林へと近づいていた。

 機体が自動で脚部のバーニアを吹かし、落下速度を軽減。 

 小さな木々を踏みつけ、折り進みながら、脚部を軽く折り、思ったほどの衝撃もなくブレイハイドは地上に降り立った。

 空は、曇天になりかけていた。

 しかし、ウィルはすでに別のものを見据えている。

 そこにいたのは、先ほどの黒い機体だった。



『―――待っていた』


 そう相手から言ってきた。

 ブレイハイドは、戦闘の構えをとるが、相手は特に変わることなく、ただ直立状態だった。

 腰部に取り付けられているブレードを手に取ろうともしない。


『待っていたって…どういうことッスか?』

『追ってくるのが見えていた、と言っているんだ』


 黒い機体は、続けていった。


『さっきも言ったはずだ。貴様に、彼女を救うのは無理だ』

『さっきも言ったはずッス。それはそっちが決めることじゃない』

『俺は、彼女を守って行かなければならない。それが、己に課した使命だからだ』

『アウニールが拒んでも…ッスか』

『そうだ』

『どうしてそこまで! 彼女は西国の貴族か何かだからッスか!?』

『違う』


 黒い機体が、頭部を少しだけ、下方に傾け、


『彼女は、―――俺の、妹だからだ』


 そう言った。

 リバーセルは思う。

 目の前のコイツは、こうでも言わないと、諦めたりしないだろう、と。



 ジャバルベルクの航空船の落下事故で、俺達は死んだ。

 いや、正確には俺は生きていた。

 死にかけてはいたが、それでも息がまだ続いていた。

 その時、ある男がその場に現れた。

 そいつは、感情のない目をしていた。。

 そして言った。


 ――― 私の言うとおりにするなら、お前の命を救い、妹の命を永らえさせてやろう ―――


 俺は、口からかすかな声で返答した。

 たのむ、と。

 四肢を失くした妹の姿を視界に見た。

 あいつが生き返るなら、悪魔にでもなんでもなってやる。

 そう誓った。

 次に気がつくと、数ヶ月が過ぎていた。

 俺の身体は、傷ひとつなく、むしろ前より強靭になっていた。


 そして、―――妹は生き返った。


 また、五体満足に、近くにある花を見ている姿を見つけた。

 俺は喜び、駆け寄り、涙も流して妹にすがりついた。

 取り戻せたのだと。

 また以前のように戻れると。

 だが、妹は首をかしげ、


 ――― あなたは、誰ですか? ――― 


 そう問いかけてきた。

 妹は、過去の全て失っていた。

 男は、脳細胞の破壊が著しく、完全な復元ができなかった、と言った。

 しばらく悩みはした。だが、それでいいという結論に至った。

 あの恐怖を思い出させずに済むなら、このままがいいと。

 男が使った技術は、誰もが知らない未知のものだった。


 ”ナノマシン”―――と言っていた。


 俺と、妹の身体に組み込まれたそれは、決して喜べるものではなかった。


 ――― 私の役に立ってもらうぞ。契約の通りにな ―――


 俺の体内にあるナノマシンは、かなり不安定らしい。

 強靭な肉体を行使できる代わりに、感情の制御が乱れやすく、肉体の損傷による不調が起こりやすい。

 時々、調整が必要らしく。怠れば、数年生きられないと言われた。

 反面、妹の適合率は高く、放っておいても平気らしかった。

 細胞治癒力も並外れており、即死しない限りまず死なない。

 俺達は、”兵器”として作り変えられていた。

 これから、どこに行き着くのか、それはわからない。

 だが、それでも俺は妹を守り続ける。

 そのために、ここにいると決めたのだから…。



『―――妹…? ジャバルベルクの事故…?』

『そうだ』

『でも、彼女は!?』

『覚えてない』

『じゃあ、あなたがうそをついている可能性もあるじゃないッスか!?』

『そうだな。確かに証明する手はない。だが、俺はイヴの―――お前のいう”アウニール”の全てを知っている』


 そう言うと、黒い機体はマニュピレーターの指先を向け、


『お前の乗るその機体”ブレイハイド”についてもな』

『ブレイハイドのことを?』

『その機体は、アウニールが同調する予定の、あるシステムを擬似再現したものだ。本来は戦闘用ではない』

『擬似再現…? システムって…』

『詳しくは俺も知らん。だが、その機体の”解放”については。お前も知っているはずだ』


 ウィルは、思い返した。

 機体の過剰な出力上昇。

 圧倒的な機動力と運動性能。

 プラズマ兵装。

 どれもが見たことのないものばかりだった。


 ……あれが、”解放”…?

『”ブレイハイド”のリミッターは、イヴの意志によって解除される。無論、彼女も全ては知らない。ただ、感覚的な根拠のないものに過ぎないはずだからな』

『アウニールの意思…』

『だがその機体も、もう必要なくなった。今後のためにも、これ以上好きにさせるわけにはいかない。おとなしくその機体から降りろ。拒否すれば―――』


 黒い機体の腰部から、2本の銃剣が外れ、滑り込むように両手に装備される。


『―――破壊する。貴様ごとな…』


 脅しではない。本気だ。

 だが、ウィルの心は落ち着いていた。

 自分でも、どうしてか分からない。

 次の瞬間には、言葉を放っていた。


『…アウニールは、連れていかれたらどうなるんスか?』

『今までどおりだ。生きていく』

『兵器として…ッスか?』

『それしかない。だが、俺が守り続ける。兵器となってしまった彼女を受け入れられるのは、同じ境遇にある俺以外にはいない。これから、未来永劫、それは変わらない』


 半分諦めているかのようにも聞こえた。

 しかし、


『そんなことはない!』


 ウィルが、ブレイハイドが、身をのりだし、叫びを飛ばした。

 銀の機体が一歩踏み出し、駆動音を立て、大地を踏みしめた。


『そんなこと、あっちゃいけない!』

『どうしてそう言える。貴様が言える立場か?』

『逆に言う! そっちこそ、アウニールの何を知っているんスか!?』

『全てだと言った』

『違う! あなたが知っているのは”イヴ”だ! ずっと前に亡くしてしまった人だ! 守れなかった自分が許せなくて、変わってしまった人を受け入れることを拒んでいるだけだ!』

『…貴様』

『彼女は、あなたが知っている人とは違う! 普段は冷たそうにしていても、求めれば答えてくれる彼女の優しさを、あなたは知らないんだ!』


 自分は知っている。

 ”カナリス”で見た彼女は、決して”兵器”などではなかった。

 巣から落ちた雛を、親鳥の元に返したいと。

 機械の兵士にも心があると。

 一緒になって、悪ノリして、結局はどんな人とも打ち解けてしまうのだと。


『だまれ―――』

『お兄さんだというなら、家族だというなら、受け入れるべきなんだ! 彼女は”イヴ”さんとは違う。生まれ変わった人なんだって!』


 そうだ、彼女はやさしい、ただの女の子だ。

 だから、自分は、そんな彼女を好きになったのだと。


『だまれっ!!』


 今度は、黒い機体から叫びが響いた。


『よく分かった…これ以上は、何も言う必要はない…』


 その声は深く沈んでいた。

 殺気を押し殺し、静かな怒りを秘めているようだった。

 そして、


『―――”ブレイハイド”はこの場で、破壊する。任務通りにだ…!』


 武装の銃口が、一瞬で跳ね上がった。

 それは、ブレイハイドをロックし、


『ッ!?』


 激発した。 


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