4-8:二振りの”刃”【Ⅱ】
「エクス! 無事っスか!?」
そう言ってウィルが、吹き飛ばされるように下がってきたエクスに駆け寄った。
エクスは、瞬時にダガーを放ち、爆発寸前のグレネードを出来るだけ外側に弾いていた。
それでもダメージは相当なものだった。
……油断していたつもりはない、が…!
まんまと”爆撃翼”の、仕草に踊らされた。
最初に投げたものは囮。
上に気をとられた隙に、本命は床に放っていたのだ。
「くっ…!」
足元がふらつく、爆発の中にあったせいで、音も聞こえづらい。
……ここで終われるか…!
倒れることはできない。
今、対抗できるのは自分だけだ。
その時だ。奥から何かの駆動音が聞こえたのは。
「なに!?」「うお!?」
コンテナだ。
奥に置かれていた、異常に巨大なコンテナの上部が展開していくのが見えた。
そして、影を背負って現れたのは、黒い巨躯。
その姿を見て、エクスは目を見開いた。
「”絶対強者”…だと!?」
かつて畏怖したものがそこにいた。
だが、よく見て、気づく。
……違う…?
黒い機体は、絶対強者に似ていた。だが、違っている。
頭部も、胸部も、脚部も、そしてなにより殲滅兵器であるプラズマ砲を内蔵した肩部も。
禍々しいものではなく、精巧な人型兵器として理想的な形であり、機体サイズも一回り小さい。
『―――ハッチを開けろ』
声がした。人が乗っている。
しかも聞いたことのある声だ。
その声を聞くと、ユズカが近くの端末に、”日傘”の先端をかざした。
すると、”日傘”のラインが光を帯びて、それは流れ込むように流動し、
「―――はい、どうぞ。隊長さん」
ハッチがゆっくりと開放していく。
黒い巨躯が、コンテナから重い一歩を進める。
機体が床を踏みしめた瞬間、軽い振動が伝わってきた。
「エクス、たぶん…!」
「ああ…そうだ」
アウニールはあの中だと、確信があった。
そう言っている間に、完全に開放されたハッチから、背面のスラスターを光らせ、機体が飛び出していった 。
ウィルが言った。
「エクス、俺、あいつを追いかけるッス。だから協力して欲しいッス」
エクスは、ウィルの視線が示すものを見る。
ハンガーに固定された”ブレイハイド”。それは、こちらから見て”両翼”のいる位置から、かなり右奥にある。
エクスが思考する。
……任せるしかないか。
”両翼”に睨まれた状況で、自分にブレイハイドに乗る余裕はない。
なら、このバカに賭けるしかない。
曲がりなりにも、機体性能を引き出しているのだ。可能性はある。
「―――必ず勝って取り戻せ。それが誓えるなら、協力してやる」
「当然ッス!」
「行けっ…!」
エクスの合図と同時に、ウィルが駆け出した。
一直線に、”ブレイハイド”の元へと。
その距離、約30メートル。
無論、
「―――行かせませんよ~」
「…とめる」
”両翼”が見過ごすはずがない。
シャッテンが、鉤爪を構え、床すれすれを飛んでいくかのような俊足を見せる。
「やば…!?」
い、とウィルが言うのと同時に、
「!」
エクスがシャッテンと切り結び、突進を止める。金属がぶつかる音が周囲に響く。
「エクス!?」
「止まるなっ!!」
声が飛ぶ。
ウィルは、後ろを気にしながらも走るのを止めない。
あと、20メートル。
「テンちゃん、そのまま抑えてて~」
リヒルが横スイングで、複数のグレネードを投擲。安全ピンなど、とうに外されている。
「どわあぁあ!?」
ウィルは、走る速度を上げた。
その後方に遅れて爆発が来る。爆風に押されて、若干加速。
だが、同時にバランスも崩していた。
「は~い。お次で~す」
今度はその倍の数が飛来する。
……避けきれない!?
とウィルが思った瞬間、
「―――頭を下げろ!」
また声が来た。
同時に、到達前のグレネードが全て、空中で炸裂した。
エクスの投げたダガーが、空中でグレネードに命中し、誘縛が残りを巻き込んだのだ。
オレンジ色の閃光は、かなり遠かったが、爆風に煽られウィルが転倒する。
「エクス、たすか―――」
ウィルが、体勢を立て直して見たのは、
「!?」
背面に、鉤爪をつきたてられ、苦悶の表情を浮かべるエクスの姿だった。
こちらの援護と引き換えに、シャッテンに背中をさらしてしまったからだ。
「かまうな! 走れっ!」
頷き、ウィルが駆ける。
残り10メートル。
「いい援護ですね。でも次は避けられませんよ~?」
そう言って、ウィルを見据えるリヒルだったが、
「!?」
衝撃がきた。
気づくと、シャッテンが飛ばされてきて、自分が強制的に受け止める形を取らされていた。
”両翼”は、互いを巻き込んで転倒した。
「あいた~…」
「…ごめん、リヒル」
「いいのいいの。気にしないでテンちゃん」
残り、0メートル。
ウィルは、ブレイハイドに到達した。
●
「―――く…!」
エクスが、片膝をつくと同時に、ブレイハイドが起動した。
そこで、ようやくウィルがブレイハイドに到達したことを知る。
……一応は成功した、か。
綱渡りだったが、まずは第一目標をクリアした。
だが、
「ぐ…」
代償もあった。
背中に突き刺さっていた鉤爪を、強引に引き抜き、床に捨てた。
金属が軽い音をたてる。転がった後に、血液が散る。
……深くはないが、受けすぎたか。
エクスが顔を上げる。
ブレイハイドが、ハンガー設備を無理やり引きちぎり、開放されたままのハッチから、外に飛び降りるのが見えた。
しかし、”両翼”も”魔女”も、それを止めようとはしていない。
止められないと分かっているのか、とも思った。
だが、
……違う…!?
そう直感した。
3人の視線は、こちらに向けられていた。
”ブレイハイド”になど、興味がないかのように。
……こいつら、なぜ離脱しない…?
ユズカが、目を細めた。
「知りたがっているわね。私達の目的を」
「どういうつもりだ…!」
「じゃあ、答えてあげる。私が欲しいのは、―――あの先にあるものよ」
そう言って、指が指し示したのは、壁。
いや、違う。その位置は、
……”ソウルロウガ”の隠してある格納庫…!
「まさか、貴様!?」
険しい表情を浮かべるエクスに対して、ユズカは愉快そうに微笑む。
「未来からきた機体、ここで貰い受けるわ。―――私の目的のためにね」
「目的、だと? なんのだ!」
「前に言った筈よ。私の前に膝を折るなら教えてあげる、って」
エクスは、歯噛みする。
手がかりどころか、
……俺とライネの繋がりまで奪う気か!
「させるか…!」
エクスは、立ち上がる。
……2度と、失ってたまるか…!
満身創痍であろうと、この女の好き勝手にさせる気はない。
やはり、目の前の”魔女”は知っている。
未来から来たものの存在を。
「貴様の知っていることを徹底的に吐きださせてやる!」
エクスは、最期の武器であるナイフを、握り締め、戦意を高める。
対するユズカは、余裕の笑みを崩さない。
「いいわ。その折れない心が、あなたの魅力よ? ―――いきなさい、私の”両翼”」
その指示で、リヒルとシャッテンが、再び戦闘態勢をとる。
リヒルの手には、またもグレネード。
シャッテンの手には、新たな武器であるククリ刀。
両者が、激突しようという一触即発の空気。
その時、
「―――こいつはいくらなんでも、多勢に無勢だな」
新たな声が聞こえた
「!?」
”両翼”が、声をした方向―――コンテナの上を見る。そこに立っていたのは、
「…貴様か」
隻腕にして隻眼の武者―――ムソウだった。
相変わらずのイラつくニヤケ顔を浮かべながら、コンテナから飛び降りてくる。
「こりゃまた、西国の”魔女”に”両翼”までいるたあねぇ。…拠点でも落としに来たのか? え、おい?」
「俺に訊くな。…何をしに来た?」
「何って、お前さんを助けにきたんだよ。エクス君」
「どういう風の吹き回しだ?」
「思い気の向くままに風が吹いた結果、ここに来たわけ。お分かりかい?」
「分からん」
「ようは、気分だよ。気分。俺様という風が吹く場所は、今ここってわけだ。つまり、お前さんの背中を守る場所な」
「信用できるか」
「それなら、その信用とやらを得るために俺様が”両翼”を引き受けてやるよ。お前さんは、あの鋭くも麗しい”魔女”の相手をするといいさ」
「話がうますぎるな。本当の狙いはなんだ?」
「まあ、ぶっちゃけ言うと、うら若い乙女達と戯れたいんだよ。わかるか? おい」
「……」
エクスは、舌打ちしながらも、共闘の申し出を、沈黙で受諾した。




