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4-7:”爆”と”断”の撃翼【Ⅱ】

 ”カナリス”と”バディル団”の朝の抗争が繰り広げられている空域に向かう影があった。

 シュテルンヒルトと同サイズの巨大艦だ。

 しかし、その巡航速度は、シュテルンヒルトの最大船速をゆうに上回る。

 そして、艦の側壁には、巨大な【東雲】の文字があった。

 そのブリッジで少女は、、


「―――本っ当に、アイツはいつもいつも…!」


 なんともご機嫌斜めであった。

 その後ろで、


「―――我らが姫君は、ムソウさんのことになると不機嫌だな」

「―――あれは、こう、年頃特有の反抗期かなんかだろ?」

「―――そうなのか? 照れ隠しかなんかだと思ってたぜ」


 黒を基調とした戦闘服を着た男達がヒソヒソ。

 すると、


「―――”機羅童子”の出撃準備は?」


 静かな怒り声が聞こえた。

 半目で、こちらを睨むような形。

 戦闘服を着た男達は、ほぼ同時に足をそろえて直立不動となり、


『いつでもいけます!』


 と一斉に返答。


「…今回の出撃名分は、”カナリスの救援要請の受諾”。よって、これより戦場へと赴く。強き意思の元に己が刀を振るいなさい」


 少女の号令に対し、


『―――御命のままに!』


 男達が、そろって引き締まった面持ちで返答した。



「―――ここだな」


 ”特殊物資”の回収作戦の第一段階を終え、リバーセルをはじめとした4人は”0番格納庫”にたどり着いてた。 

 

 ”賊の襲撃”の騒ぎのためか、格納庫は無人。

 アウニールを背負ったリバーセルが見るのは―――巨大なコンテナだ。

 すると、


「じゃあ約束どおり、ここから先は、それぞれ自由行動にしましょう。よかったわね、スムーズに回収できて」


 ユズカが、笑顔でそう言ってきた。

 だが、リバーセルは、


「腑に落ちんな…」


 そう言い、疑念の視線をユズカ達へと向ける。


「ここまでスムーズに行くように協力したじゃない。なにかご不満でもあるのかしら?」


 クスクスと笑うユズカに対して、リバーセルは警戒が解けない。


 ……この女、何が狙いだ?


 作戦への協力を申し出てからここまで、特に怪しい行動もとっていない。

 自分も常に、警戒は怠らなかった。

 そして、トラブルに見舞われることなく、ここまで来た。

 完璧だ。

 何も言うことはない。

 しかし、


「…貴様ら、この後、何をするつもりだ?」

「簡単なことよ。追っ手を遮るだけ」

「追っ手だと?」

「一応、艦のシステムにハッキングかけて、侵入もほぼごまかせたけど、完全ではなかったわ。ヴァールハイトの能力を甘く見たツケが来たみたいよ」


 そういうと、ユズカは自分達が来た通路へと目をやった。

 そして、1人男が、扉を蹴り破り突入してきた。

 装甲つきのジャケットを着た、左目に火傷痕を持つナイフ使い。

 全力で走ってきた割には、息も切れておらず、戦意だけを飛ばしてくる。


「―――さあ、行きなさい。背負ったものをまた落とす前にね」


 と、ユズカが背中越しに告げた。


 ……現状では、この女を使うしかないか。


 リバーセルは、”魔女”の言葉に舌打ちしつつも、提案を受け入れることが最適であると判断。

 アウニールを背負ったまま、コンテナの方へと走り出した。



 エクスは、


「貴様らが侵入者というわけか…」


 静かにそう言って、敵を睨みつける。

 腰の後ろからナイフを抜き、逆手にして正面に構える。


「アウニールを返してもらおうか」


 威嚇を放ちつつ言うも、


「フフ、まあ、最初の口上としては常識ね。あえて返すわ。―――お断りよ」


 当然の返答が来る。

 その時、


「―――、エクスっ!」


 新たな声が来た。

 視線だけを一瞬やる。

 ウィルだ。

 息を切らさず、格納庫に走りこんできて、


「俺も協力、―――いや、俺に協力してほしいッス!」


 そう言った。

 エクスは、ウィルの目を見た。

 これまでと同種ながら、その瞳に宿るものはこれまでよりさらに強くなっている。


 ……なるほど、何か吹っ切れたか。

「立ち直りも早かったな。アテにさせてもらうぞ」


 そう言っている間も、エクスは視線をユズカ達に向け続ける。

 不適に笑うユズカ。

 その両側に、付き従うようにたっているリヒルとシャッテン。

 そして、以前聞いた”魔女”と”両翼”という西国の通り名―――


「エクス、ユズカさん達は…!」

「分かっている」


 エクスは頷く。

 すでに答えは出ていた。

 あえて問う必要も―――


「どうして”西”に協力してるんスか!?」


 ―――このバカにはあったようだ。 

 周囲が、えー、という感じになる。

 ユズカだけは、変わらずに微笑を浮かべているが。


「……えっと、俺なんかまずいこと言ったッスか?」

「このバカは…」

「え? なんスかこの、うわこいつバカだ、みたいな空気!?」


 敵のはずの2人まで、 


「いや~、実在したんですね。見てる人を和ませてしまう魔法のおバカさんって。感動を覚えま~す」

「ちょ、リヒルまで!?」

「…殺す」

「シャッテンさん! その殺意は前の一件のせいですか!? それとも俺がバカやってるせいでしょうか!?」


 その状況を楽しそうに見つめていたユズカが改めて口を開いた。


「フフフ、じゃあ私が教えてあげましょうか? ウィル」


 そう言って、持っていた日傘を広げる。

 前と違い、やや水色がかったデザインのものだ。

 開いた傘の裏側を背に、柄を肩にかける。


「―――私は、ユズカ。西国の三大戦力の1人”魔女”よ。”王”の親愛なる忠臣であり、そして―――」


 ユズカの視線で示されたのは、その前方に並び立つ2人。

 ウェーブの入った金髪を持つ、笑顔の少女―――リヒル。

 切り揃えられてた前髪と鋭い目つきをした少女―――シャッテン。


「―――彼女達は、私の忠実な”両翼”。親愛なる”妹”達よ」


 その言葉に、ウィルは絶句する。


「そんな…まさか、ユズカさん達が、西国のすごい人達だったなんて…!」


 対するエクスは、


 ……いまさら気づいたのか。


 至極、最もなことを思っていた。

 しかし、それを口に出さないのは、


「―――来るか…!」


 相手の戦意を感じ取ったからだ。

 リヒルは、どこから取り出したのか手榴弾を両手の指の間に挟む形で2個づつ持っている。

 シャッテンは、どこにしまっていたのか、自身の身長並にある長刀を両手に1本づつ携える。

 2人が口を開く。


「私はリヒル。”魔女”の片翼。そして、その障害を破砕する炎火―――”爆撃翼”」

「…私はシャッテン。”魔女”の片翼。障害を全て切り捨てる刃―――”断撃翼”」


 自らの言葉で、その異名と誇りを口にする。

 そして、異口同音に、


『―――覚悟をっ!』


 その場を蹴り、”両翼”が襲い掛かってくる。

 あたかも、翼で舞い飛ぶかのごとく。


「ウィル! 下がっていろ!」


 エクスが声を張り上げ、”両翼”と激突する。

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