4-7:”爆”と”断”の撃翼【Ⅱ】
”カナリス”と”バディル団”の朝の抗争が繰り広げられている空域に向かう影があった。
シュテルンヒルトと同サイズの巨大艦だ。
しかし、その巡航速度は、シュテルンヒルトの最大船速をゆうに上回る。
そして、艦の側壁には、巨大な【東雲】の文字があった。
そのブリッジで少女は、、
「―――本っ当に、アイツはいつもいつも…!」
なんともご機嫌斜めであった。
その後ろで、
「―――我らが姫君は、ムソウさんのことになると不機嫌だな」
「―――あれは、こう、年頃特有の反抗期かなんかだろ?」
「―――そうなのか? 照れ隠しかなんかだと思ってたぜ」
黒を基調とした戦闘服を着た男達がヒソヒソ。
すると、
「―――”機羅童子”の出撃準備は?」
静かな怒り声が聞こえた。
半目で、こちらを睨むような形。
戦闘服を着た男達は、ほぼ同時に足をそろえて直立不動となり、
『いつでもいけます!』
と一斉に返答。
「…今回の出撃名分は、”カナリスの救援要請の受諾”。よって、これより戦場へと赴く。強き意思の元に己が刀を振るいなさい」
少女の号令に対し、
『―――御命のままに!』
男達が、そろって引き締まった面持ちで返答した。
●
「―――ここだな」
”特殊物資”の回収作戦の第一段階を終え、リバーセルをはじめとした4人は”0番格納庫”にたどり着いてた。
”賊の襲撃”の騒ぎのためか、格納庫は無人。
アウニールを背負ったリバーセルが見るのは―――巨大なコンテナだ。
すると、
「じゃあ約束どおり、ここから先は、それぞれ自由行動にしましょう。よかったわね、スムーズに回収できて」
ユズカが、笑顔でそう言ってきた。
だが、リバーセルは、
「腑に落ちんな…」
そう言い、疑念の視線をユズカ達へと向ける。
「ここまでスムーズに行くように協力したじゃない。なにかご不満でもあるのかしら?」
クスクスと笑うユズカに対して、リバーセルは警戒が解けない。
……この女、何が狙いだ?
作戦への協力を申し出てからここまで、特に怪しい行動もとっていない。
自分も常に、警戒は怠らなかった。
そして、トラブルに見舞われることなく、ここまで来た。
完璧だ。
何も言うことはない。
しかし、
「…貴様ら、この後、何をするつもりだ?」
「簡単なことよ。追っ手を遮るだけ」
「追っ手だと?」
「一応、艦のシステムにハッキングかけて、侵入もほぼごまかせたけど、完全ではなかったわ。ヴァールハイトの能力を甘く見たツケが来たみたいよ」
そういうと、ユズカは自分達が来た通路へと目をやった。
そして、1人男が、扉を蹴り破り突入してきた。
装甲つきのジャケットを着た、左目に火傷痕を持つナイフ使い。
全力で走ってきた割には、息も切れておらず、戦意だけを飛ばしてくる。
「―――さあ、行きなさい。背負ったものをまた落とす前にね」
と、ユズカが背中越しに告げた。
……現状では、この女を使うしかないか。
リバーセルは、”魔女”の言葉に舌打ちしつつも、提案を受け入れることが最適であると判断。
アウニールを背負ったまま、コンテナの方へと走り出した。
●
エクスは、
「貴様らが侵入者というわけか…」
静かにそう言って、敵を睨みつける。
腰の後ろからナイフを抜き、逆手にして正面に構える。
「アウニールを返してもらおうか」
威嚇を放ちつつ言うも、
「フフ、まあ、最初の口上としては常識ね。あえて返すわ。―――お断りよ」
当然の返答が来る。
その時、
「―――、エクスっ!」
新たな声が来た。
視線だけを一瞬やる。
ウィルだ。
息を切らさず、格納庫に走りこんできて、
「俺も協力、―――いや、俺に協力してほしいッス!」
そう言った。
エクスは、ウィルの目を見た。
これまでと同種ながら、その瞳に宿るものはこれまでよりさらに強くなっている。
……なるほど、何か吹っ切れたか。
「立ち直りも早かったな。アテにさせてもらうぞ」
そう言っている間も、エクスは視線をユズカ達に向け続ける。
不適に笑うユズカ。
その両側に、付き従うようにたっているリヒルとシャッテン。
そして、以前聞いた”魔女”と”両翼”という西国の通り名―――
「エクス、ユズカさん達は…!」
「分かっている」
エクスは頷く。
すでに答えは出ていた。
あえて問う必要も―――
「どうして”西”に協力してるんスか!?」
―――このバカにはあったようだ。
周囲が、えー、という感じになる。
ユズカだけは、変わらずに微笑を浮かべているが。
「……えっと、俺なんかまずいこと言ったッスか?」
「このバカは…」
「え? なんスかこの、うわこいつバカだ、みたいな空気!?」
敵のはずの2人まで、
「いや~、実在したんですね。見てる人を和ませてしまう魔法のおバカさんって。感動を覚えま~す」
「ちょ、リヒルまで!?」
「…殺す」
「シャッテンさん! その殺意は前の一件のせいですか!? それとも俺がバカやってるせいでしょうか!?」
その状況を楽しそうに見つめていたユズカが改めて口を開いた。
「フフフ、じゃあ私が教えてあげましょうか? ウィル」
そう言って、持っていた日傘を広げる。
前と違い、やや水色がかったデザインのものだ。
開いた傘の裏側を背に、柄を肩にかける。
「―――私は、ユズカ。西国の三大戦力の1人”魔女”よ。”王”の親愛なる忠臣であり、そして―――」
ユズカの視線で示されたのは、その前方に並び立つ2人。
ウェーブの入った金髪を持つ、笑顔の少女―――リヒル。
切り揃えられてた前髪と鋭い目つきをした少女―――シャッテン。
「―――彼女達は、私の忠実な”両翼”。親愛なる”妹”達よ」
その言葉に、ウィルは絶句する。
「そんな…まさか、ユズカさん達が、西国のすごい人達だったなんて…!」
対するエクスは、
……いまさら気づいたのか。
至極、最もなことを思っていた。
しかし、それを口に出さないのは、
「―――来るか…!」
相手の戦意を感じ取ったからだ。
リヒルは、どこから取り出したのか手榴弾を両手の指の間に挟む形で2個づつ持っている。
シャッテンは、どこにしまっていたのか、自身の身長並にある長刀を両手に1本づつ携える。
2人が口を開く。
「私はリヒル。”魔女”の片翼。そして、その障害を破砕する炎火―――”爆撃翼”」
「…私はシャッテン。”魔女”の片翼。障害を全て切り捨てる刃―――”断撃翼”」
自らの言葉で、その異名と誇りを口にする。
そして、異口同音に、
『―――覚悟をっ!』
その場を蹴り、”両翼”が襲い掛かってくる。
あたかも、翼で舞い飛ぶかのごとく。
「ウィル! 下がっていろ!」
エクスが声を張り上げ、”両翼”と激突する。