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4-6:”使命”を求める者【Ⅱ】

 リバーセルは、鋭い視線を向ける。


「…どけ、邪魔だ」


 しかし、相手は臆さなかった。

 そして、守るアウニールに向けて、背を向けたまま語りかける。


「―――アウニール、大丈夫ッス」

「ウィル…」

「どんなことがあっても、何があっても、俺は全部受け入れるって約束したッスから」


 その言葉に、リバーセルは眉間のしわを深めた。


「軽々しく言うな。何も知らない分際で、俺たちの間に入るな」

「分からないッスよ。だから、これから覚悟を持って知っていくッス」

「きれいごとを。貴様に彼女が救えるはずがない」

「それを決めるのはあなたじゃないッス」


 その言葉に、リバーセルは、苛立ちを覚えた。

 かつての自分を見ているようだと。

 視線に戦意が宿る。


「なら仕方ない。力づくも覚悟しろ」


 リバーセルが、床を蹴った。



 エクスは、アウニールの部屋の扉を蹴り破った。

 そして、無人であることを確認。


「くそ、どこに…!?」


 その時、通信が入る。


『―――アウニールはウィルの部屋だ。早く向かいたまえ』

「ヴァールハイトか」

『すでに何者かと接触しているようだ』


 エクスはろくに返答せず、再び駆け出した。



 ウィルとクセ毛の少年の戦闘は、ほとんど一方的な展開になった。

 当然だ。

 そもそも戦闘経験が違いすぎるのだ。 

 初撃で受けたのは、


「がっ…!」


 瞬速のとび蹴りだった。

 身構えていたウィルの視界から、クセ毛の少年の姿が消失。

 次の瞬間には、靴底による打撃を受け、部屋の壁に叩きつけられていた。


 ……は、速い…!?


 両手を床につき、床に崩れ落ちた身体に力を込める。

 だが、立ち上がった瞬間。


「―――立て直す暇を与えるとでも?」


 連撃が襲ってくる。

 腹に食らった後、前のめりになったウィルの背中に、敵の踵が落ちる。

 今度は床に叩きつけられそうになって、


「ぐぅ…あっ!」


 しかし、踏ん張った。

 ウィルは、両手の平を支えに、無理やり沈められるのに抗った。

 だが、今度は、反対に下から蹴り上げられた。


「素人が!」


 強制的に直立させられたウィルに、拳撃の連打が襲う。

 腹に秒間数発の後、顔面に一撃。

 次には、襟首をつかまれ、壁に叩きつけられ、そのまま宙吊りにさせられていた。


「が、あ…はっ」


 ここまでされて、ようやく呼吸が追いつく。


「まだ、気を失わないのか。たいしたタフさだな」


 相手の発言はウィルには聞こえていない。

 感じていたのは、この少年の異質さ。


 ……なんだ。人間の力じゃ!?


 自分と同程度の体格だというのに、あまりに違いすぎる。

 戦闘経験の差だけではない。

 今、自分を締め上げている力が、どこから出てくるのか。


「いいかげんに諦めろ」

「それは―――お断りッス!」


 ウィルがひねり、クセ毛の顎を蹴り上げた。


「ぐっ」


 力が緩んだ隙を突き、逆に相手の腕を取ると、


「”東国武神”直伝! 侍ヘッドバット!」


 壁を蹴って、真っ向から、頭突きをかました。

 クセ毛の少年が、のけぞり、数歩後ずさる。


「小ざかしい抵抗を…!」


 相手は、思っている以上にダメージを受けたようだ。

 その証拠に、まだ視界がハッキリしていないように思える。


 ……よし! 今の内に!


 と駆け出そうとした時、ふと気づく。


 ……ユズカさん達が、いない?


 入り口にいた3人の姿がない。

 すると背後から、


「―――あ…」

 

 と、アウニールの声が聞こえた。

 振り向くと、シャッテンが彼女の首筋に手刀をいれ、昏倒させているところだった。


「アウニール!―――がっ!!?」


 駆け寄ろうとしたが、その瞬間、ウィルの身体を電撃が貫いた。

 脚力が麻痺し、強制的に膝が折れる。


電撃スタンロッド…ッ…?―――」


 体勢を立て直した少年が、持っていた武器を見て、ウィルはそう呟き、勢いよく床に倒れ臥した。

 起き上がろうにも、四肢が痙攣して、力が入らない。 


 ……前にくらった、やつより、強力に―――


 今にも途切れそうな意識の中に、アウニールが写った。

 気を失って、ユズカの腕の中で支えられている彼女が。

 そして、ユズカの視線を感じる。

 哀れんでいるみたいだ、と。


「ま、まだ―――」


 立ち上がろうと、渾身の力を込める。


 ……ここで意識を失ったら、アウニールは―――


 だが、


「―――タフな奴だ」


 再び電撃が身体を駆け抜けた。


「が、あっ…!」


 身体が反り返り、痙攣する。


「ア、アウ…ニ―――」


 数秒後、ウィルの意識が完全に沈黙した。

 失いたくないものに、懸命に伸ばした手は、そこに届くことは叶わなかった。



 静かになった格納庫で、ムソウは1人横になっていた。

 祭りは好きだが、今は待っているところだった。


「―――ん? 来たか」


 そう言って、懐から小型の通信機を取り出す。

 携帯するにはやや大きめだが、腕に巻くタイプよりも通信可能範囲が圧倒的に広い。

 どこにいても確実に連絡が取れるのが強みだ。

 ムソウは、通信してきた相手の名を見る。


 ”東雲―――【カヤリグサ】”


 フフン、と上機嫌に鼻を鳴らし、回線を開く。 


「はいはい。待ってたよん。ご苦労さん」


 といった瞬間、


『……一体どういうつもり?』


 鋭い少女の声が聞こえた。

 非常に不機嫌そうだった。

 しかし、ムソウはかまわず続ける。


「なにが?」


 その態度に、相手の少女はカチンときたようで、


『なにが?、じゃない! この”カヤリグサ”を、迎えに呼び出すなんてどういうつもりよ!』

「その通りの意味だって」

『ふざけるんじゃ―――』


 また怒鳴られそうになったとき、


「―――戦力は持ってきたか?」


 いつもと違う低い声と表情だった。

 相手も、察して、不満げながらも話の方向を変える。


『言われた通りに』

「上出来だ」


 そう言うと、ムソウは通信機をその場に置いた。

 もちろん電源はつけたまま。


『ちょっと、どこに行くつもり?』

「人助け。つけっぱなしにしていくから、逆探知して来いよ」

『待ちなさい! どういうことか説め―――』


 ムソウは少女の返答を聞かず、飛び起きる。

 刀の位置を確認し、倉庫の外へと歩いていく。


「―――久しぶりだったなぁ。こんな楽しい場所ところは。…だが、堕ちた武士に、これ以上は贅沢だ。あばよ、”カナリス”のみなさん」


 そう1人で、別れを告げ、通路への扉を開けた。  

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