4-6:”使命”を求める者【Ⅱ】
リバーセルは、鋭い視線を向ける。
「…どけ、邪魔だ」
しかし、相手は臆さなかった。
そして、守るアウニールに向けて、背を向けたまま語りかける。
「―――アウニール、大丈夫ッス」
「ウィル…」
「どんなことがあっても、何があっても、俺は全部受け入れるって約束したッスから」
その言葉に、リバーセルは眉間のしわを深めた。
「軽々しく言うな。何も知らない分際で、俺たちの間に入るな」
「分からないッスよ。だから、これから覚悟を持って知っていくッス」
「きれいごとを。貴様に彼女が救えるはずがない」
「それを決めるのはあなたじゃないッス」
その言葉に、リバーセルは、苛立ちを覚えた。
かつての自分を見ているようだと。
視線に戦意が宿る。
「なら仕方ない。力づくも覚悟しろ」
リバーセルが、床を蹴った。
●
エクスは、アウニールの部屋の扉を蹴り破った。
そして、無人であることを確認。
「くそ、どこに…!?」
その時、通信が入る。
『―――アウニールはウィルの部屋だ。早く向かいたまえ』
「ヴァールハイトか」
『すでに何者かと接触しているようだ』
エクスはろくに返答せず、再び駆け出した。
●
ウィルとクセ毛の少年の戦闘は、ほとんど一方的な展開になった。
当然だ。
そもそも戦闘経験が違いすぎるのだ。
初撃で受けたのは、
「がっ…!」
瞬速のとび蹴りだった。
身構えていたウィルの視界から、クセ毛の少年の姿が消失。
次の瞬間には、靴底による打撃を受け、部屋の壁に叩きつけられていた。
……は、速い…!?
両手を床につき、床に崩れ落ちた身体に力を込める。
だが、立ち上がった瞬間。
「―――立て直す暇を与えるとでも?」
連撃が襲ってくる。
腹に食らった後、前のめりになったウィルの背中に、敵の踵が落ちる。
今度は床に叩きつけられそうになって、
「ぐぅ…あっ!」
しかし、踏ん張った。
ウィルは、両手の平を支えに、無理やり沈められるのに抗った。
だが、今度は、反対に下から蹴り上げられた。
「素人が!」
強制的に直立させられたウィルに、拳撃の連打が襲う。
腹に秒間数発の後、顔面に一撃。
次には、襟首をつかまれ、壁に叩きつけられ、そのまま宙吊りにさせられていた。
「が、あ…はっ」
ここまでされて、ようやく呼吸が追いつく。
「まだ、気を失わないのか。たいしたタフさだな」
相手の発言はウィルには聞こえていない。
感じていたのは、この少年の異質さ。
……なんだ。人間の力じゃ!?
自分と同程度の体格だというのに、あまりに違いすぎる。
戦闘経験の差だけではない。
今、自分を締め上げている力が、どこから出てくるのか。
「いいかげんに諦めろ」
「それは―――お断りッス!」
ウィルがひねり、クセ毛の顎を蹴り上げた。
「ぐっ」
力が緩んだ隙を突き、逆に相手の腕を取ると、
「”東国武神”直伝! 侍ヘッドバット!」
壁を蹴って、真っ向から、頭突きをかました。
クセ毛の少年が、のけぞり、数歩後ずさる。
「小ざかしい抵抗を…!」
相手は、思っている以上にダメージを受けたようだ。
その証拠に、まだ視界がハッキリしていないように思える。
……よし! 今の内に!
と駆け出そうとした時、ふと気づく。
……ユズカさん達が、いない?
入り口にいた3人の姿がない。
すると背後から、
「―――あ…」
と、アウニールの声が聞こえた。
振り向くと、シャッテンが彼女の首筋に手刀をいれ、昏倒させているところだった。
「アウニール!―――がっ!!?」
駆け寄ろうとしたが、その瞬間、ウィルの身体を電撃が貫いた。
脚力が麻痺し、強制的に膝が折れる。
「電撃…棒…ッ…?―――」
体勢を立て直した少年が、持っていた武器を見て、ウィルはそう呟き、勢いよく床に倒れ臥した。
起き上がろうにも、四肢が痙攣して、力が入らない。
……前にくらった、やつより、強力に―――
今にも途切れそうな意識の中に、アウニールが写った。
気を失って、ユズカの腕の中で支えられている彼女が。
そして、ユズカの視線を感じる。
哀れんでいるみたいだ、と。
「ま、まだ―――」
立ち上がろうと、渾身の力を込める。
……ここで意識を失ったら、アウニールは―――
だが、
「―――タフな奴だ」
再び電撃が身体を駆け抜けた。
「が、あっ…!」
身体が反り返り、痙攣する。
「ア、アウ…ニ―――」
数秒後、ウィルの意識が完全に沈黙した。
失いたくないものに、懸命に伸ばした手は、そこに届くことは叶わなかった。
●
静かになった格納庫で、ムソウは1人横になっていた。
祭りは好きだが、今は待っているところだった。
「―――ん? 来たか」
そう言って、懐から小型の通信機を取り出す。
携帯するにはやや大きめだが、腕に巻くタイプよりも通信可能範囲が圧倒的に広い。
どこにいても確実に連絡が取れるのが強みだ。
ムソウは、通信してきた相手の名を見る。
”東雲―――【カヤリグサ】”
フフン、と上機嫌に鼻を鳴らし、回線を開く。
「はいはい。待ってたよん。ご苦労さん」
といった瞬間、
『……一体どういうつもり?』
鋭い少女の声が聞こえた。
非常に不機嫌そうだった。
しかし、ムソウはかまわず続ける。
「なにが?」
その態度に、相手の少女はカチンときたようで、
『なにが?、じゃない! この”カヤリグサ”を、迎えに呼び出すなんてどういうつもりよ!』
「その通りの意味だって」
『ふざけるんじゃ―――』
また怒鳴られそうになったとき、
「―――戦力は持ってきたか?」
いつもと違う低い声と表情だった。
相手も、察して、不満げながらも話の方向を変える。
『言われた通りに』
「上出来だ」
そう言うと、ムソウは通信機をその場に置いた。
もちろん電源はつけたまま。
『ちょっと、どこに行くつもり?』
「人助け。つけっぱなしにしていくから、逆探知して来いよ」
『待ちなさい! どういうことか説め―――』
ムソウは少女の返答を聞かず、飛び起きる。
刀の位置を確認し、倉庫の外へと歩いていく。
「―――久しぶりだったなぁ。こんな楽しい場所は。…だが、堕ちた武士に、これ以上は贅沢だ。あばよ、”カナリス”のみなさん」
そう1人で、別れを告げ、通路への扉を開けた。