4-5:朝霧の”開戦”【Ⅳ】
ウィルは、まだ夢の中だった。
シュテルンヒルトの居住区画は、防音壁完備。
外の砲撃音すらも通路に出ない限り、完全シャットアウトであった。
そのため、
「―――アウニールの髪に包んでもらえて幸せ…」
などという寝言も言えちゃうのである。
すると、
「―――ウィル、さっさと起きてください」
「ぐボはぁっ!?」
突如、腹部に叩きつけられた衝撃が、ウィルを覚醒させた。
「ア、アウニールッスか…?」
ベッドから転げ落ちたウィル。
すかさずアウニールが、馬乗りになり、マウントをとってくる。
「夢の中で私の髪がなんですか? 返答しだいでは、もう一撃プレゼントします」
ウィルは、自身の鼓動が波打つのを感じた。
9割ぐらい、命の危機方面に。
「い、いえ! 決して、怪しいマネをしたわけでは!?」
「何かしたことは確定なのですね?」
「許してください! 土下座しますから!」
「では、罰ゲームを」
「な、なんでしょうか?」
どのような無茶振りをさせられるのかと、ドギマギする。
百叩きは勘弁してもらいたいところだ。
そして、アウニールが静かな声で内容を告げた。
「―――今度、私の髪をクシですいてください」
「…へ?」
あまりに意外な内容だった。
銀髪の先端、金メッシュの入った先端部分が、ウィルの顔に降りてくる。
彼女特有のほのかな香りが鼻腔をくすぐる。
アウニールは、呟くように言った。
向きあわなければ聞き取れないほどに、小さな声で。
「…正直に言うと、この髪の色は、あまり好きではありません」
本当の色がどちらなのか、分からない。
「元は銀であったようにも、金であったようにも見えます。なにか、底知れないものが、自分の中にあるようだと、この髪を見るたびに思ってしまう…」
ウィルは、その顔を見上げる形で、見つめていた。
その表情は、今、自分しか知りえない。
写るのは、先への”不安”と自らの正体が分からないことへの”恐怖”。
おそらく、ずっと心の内に溜め込んできて、誰にも明かせなかった本心だった。
「あなたは、この髪をきれいだと言ってくれました。本当に、そう思ってくれているのですか?」
アウニールは、自分が人間離れしているという意識を持っていた。
故に、普通と”違う”自身が”カナリス”の中に混ざっていていいのかと、迷うことも多かった。
これは問いではない。
肯定を望む”願い”だ。
人は1人では生きていけない。
誰かに傍らにいてほしい。
「―――当たり前じゃないッスか」
ウィルの表情には、普段の気さくな笑顔と、決意が宿っていた。
すでに決めていることだった。
「他の人と違うなんて、当たり前のことッス。いや、違わないとダメッス。誰もが同じだったら、きっと好きになんてなれない」
違うから、好きになりたいと思う。
「みんなと違うからって気にすることない。だって、違うのが当たり前なんだから。俺、もっと一緒にいて、アウニールのこと知りたいと思ってる」
違う部分も含めて肯定できるなら、
「―――俺は君の味方ッス。この先、何があっても受け入れる。だから、怖がらないで。大丈夫だから」
その言葉を送った後、ウィルが見つけたのは、泣きだしそうで、それでも嬉しさを含んだ小さな笑顔だった。
「ウィル……」
気づけば、2人の顔の距離は、かなり接近している状況だった。
……こ、この距離は!?
アウニールが体勢を下げるか、自分が背中を上げるかで、唇が触れ合うほどの距離。
エロ本では、たいていこの後、ラヴラヴする展開。
雰囲気は充分。
ならば、
……こいつは千載一遇のキスチャンス!?
今度こそ、と思っていると、
「―――邪念感知。成敗」
「ぐえぁぁっ!!?」
流れるような鉄拳が顔面に炸裂した。
「すいません! すいません! 邪なこと考えてました! 駄々漏れでした! マジすいません!」
「…まったく、油断ならないですね」
追撃の拳の構えが解かれる。
ていうか今の雰囲気は、OK以外にどうとれというのか。
……あぁ、女の子って分からないッス。
落胆しながら落涙する。
その時、
「―――お邪魔するわ」
部屋の扉が開け放たれ、招かれざる客は現れる。
定められた運命が、佳境へと動き始めていく。




