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4-4:愉快、豪快、”お先暗い?”【Ⅱ】



 突如として、現れた金髪ウェーブの少女に、男ばかりの酒場全体から口笛や歓声がなる。


「―――ひゅー、なんだい、こんなところに子猫ちゃんか?」

「―――俺の隣においで、かわいがってやるぜ」


 そんな声を無視して、店内を見回している少女は、


「”バディル団”の方々~。いらっしゃいませんか~?」


 そう大声で呼び続けた。

 すると、近くにいた無関係の男が、ヘヘヘ、とうすく笑いながら近づいてくる。

 男は少女の目の前に立ち、


「ここは危ないところだぜ、お嬢さん。たとえば―――」


 その髪先をつまんだ。


「このきれいな髪が明日にはボロボロになっちまうかもしれないぜ?」


 周囲の男達は成り行きを見るか、我関われかんせずを決め込んでいる。

 まるで、この場に踏み込んだ少女の方が悪いのだ、と言わんばかりに。

 少女の笑顔は若干、薄くなっていた。



 ……メンドクサイですね~…


 リヒルはそう思う。

 こういうことになりそうな気はしていたが、実際に直面してみると、けっこう処理に気を使う。


 ……いっそ、吹き飛ばしてもいいんですけどね~。


 それだと、この後の行動に支障をきたすような気もする。


 ……とりあえず、1発、急所に蹴りいれて周囲もまとめて黙らせておこうかな。


 とか考えていると、


「―――おい、その手を離しな、小物野郎」


 その大男は、唐突に現れたかと思うと、リヒルの髪に触れていた腕を横からねじ上げた。



「いててて! なにしやがんだ!!」


 ねじ上げられた腕を振りほどこうとするが、


「くそ! いだだだだ! は、離しやがれ!?」


 その力は圧倒的。

 少女に絡みかかった男も、決して非力なわけではないが、それでも単純に腕力差が違いすぎるのだ。

 ボスは言う。


「いいか、女の髪ってのはな、てめぇのような小物のチンピラが気安く触れていいもんじゃぁねぇ。どんなレディにだって同じだ。覚えとけ」

「けっ! なんだ!? 紳士ぶりやがって、ってあだだだだだだ!?」

「どうやら、この癖の悪い腕を叩き折らなきゃぁ。わからんらしい!」


 締め上げる力が、一気に強まる。

 まるで、人間のものでないかのような怪力に、締め上げられた男は根をあげた。


「がぁ!? わかった…あ、謝る! 謝るから許して、くれ…!」

「謝るのは俺じゃなく、そこのお嬢さんだ。それぐらい分かりな小物野郎」


 ボスは床に叩きつけるように、腕を放した。

 ひねられた男は、荒く息をつきながら、腕が折れていないかを確認し、ひとまず安堵する。


「…おい、謝罪はまだか。お嬢ちゃんが待ちくたびれちまうだろぉ?」


 巨大な威圧感に、ひっ、と上ずった声をあげた男は、少女に向き直り、


「す、すまねぇ…」


 そう言って頭を下げた。

 すると少女がスッと、音もなく近づいて耳打ちした。


「―――さっさとどこかへ消えてください。私に消されないうちに」


 威圧とは違う。

 寒気を感じさせる冷徹な声だった。

 相手は、笑っているというのに、殺気を放っている。


「―――ひ、ひいいいいいいっ!!?」


 未知の恐怖に打ちのめされた男は、一目散に入り口へと走って逃げていった。

 周りの目も気にせず、一目散に。

 一体何が起こったのか、といぶかしむ視線ばかりだった。

 しばらくの沈黙後、


「―――お嬢さん、あいつになんて言ったんだい? やぁけに怯えてたが?」


 ボスがそう尋ね、


「いえいえ、反省してくださいね~、って言ってあげただけですよ~?」


 少女はそういい、ペコリと頭を下げ、


「私はリヒルと言います。危ないところを助けていただき、ありがとうございました~」


 礼儀正しい少女に対し、ボスもつられて頭を下げた。

 そして互いに頭をあげる。


「リヒル、気をつけな。ここいらは無法地帯に近い。この”ウォールペイン”は、別名”無法都市”っても言われてるから危ないぞ?」

「でも、私探している人達がいるので、簡単には帰れないんですよ~?」

「探してる人達ぃ? 誰だ、そいつらは? ……ん? リヒルって言ったか?お前さんの名前、どこかで訊いたことがあるような―――」


 ボスが顎髭をさすりながら、酔いがさめきらない思考をひねっていると、


「―――”両翼”ですよ、ボス」


 会計が現れた。



「”両翼”ぅ…?」


 ボスはさらに頭をひねった。


「有名ですよ。西国の3大戦力に”魔女”がいることは知っていますね?」

「ああ、映像みたことあるぞ。目がスラリとしていて、いい女だった」

「その直属の1人です」

「そうかそうか、……て、なんだとぅ!? そんなのがなんでここにぃ!?」


 ボスは、自分より頭3つも小柄な少女を見て、戦慄し、すばやく後ずさる。


「今言ったじゃないですか。人を探してると」

「そ、そうだったなぁ…」


 やれやれ、と会計が呟き、リヒルに向き直る。


「”両翼”のリヒルさん。他と比べると小規模とはいえ、この”ウォールペイン”は広い。なにかとお困りでしょう。人を探してるなら、私達”バディル団”にお手伝いさせていただけませんか?その代わり、成功のあかつきには、多少の報酬をいただきたい」

「おめぇ、女から金取る気か?」

「さっき決めたでしょう。新しい仕事の開業です。とりあえず、地道にこういうところから始めていくんですよ」

「う~む……」


 そんな問答の最中、リヒルが呟いた。


「―――”バディル団”…?」


 そして、パッと笑顔が灯り、両手を顔の横であわせて、


「見つけました! あなた方を探していたんですよ~!」


 え?、とボスと会計が仲良く顔を見合わせた。



 シュテルンヒルトの格納庫内―――

 爺さん達が、休憩がてら貨物を眺めていた。


「…しかし、まぁ今回の荷物の目玉はあれだな。確か、作業用ライド・ギアの部品じゃったか?」

「だなぁ、ブレイハイドがなけりゃ、大型重機レンタルせんにゃならなかったな」

「次の”ウォールペイン”で、持ち主がじきじきに取りに来るそうで、送りの料金はふんだくれなかった、とエンティ嬢も舌打ちしておったわい」

「ガハハ! らしいのぉ」


 今は、ただ笑い声だけがこだましていた。

 2人の作業員が見る先にあるのは、

 ―――異質なまでに大きいコンテナだった。     

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