4-1:”言葉”リサーチ【Ⅴ】 ●
エクスも加わり、【”セックス”調査隊】は3名に増加。
果たして彼らはその意味を知ることはできるのだうか?
ぶっちゃけ、1人は知ってるけど気にしてはいけないのだ。
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「―――って、なんですかこの状況はーっ!」
天を仰ぎ、叫ぶヴィエル。
「どうした、憎い敵のことでも思い出したか?」
と、人の気も知らずそんなことを言うエクス。
「どうしたもこうしたもないです!なんでこんな状況にぃ~…」
今度は、壁に手をついてうなだれてしまう。
「一体どうしたのですか?」
アウニールも、わけわからん、と思った。
エクスは内心、
……ライネの奴も妙に機嫌が悪い日があったな。たしか、”女特有の不機嫌日(個人差あり!)”とか言っていたが…
と、少しばかりの思い出に浸っていた。
「あ~、もう、どうしたら…、ていうか、なんでこんな目に?」
そんなことを1人ブツブツで言っていると、その場に新しい人物が現れた。
「お、どうしたんだい?こんなところに、若者が集まってさ?」
飄々とした口調で、羽織服を纏った男がやってきた。
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「ムソウか…」
エクスが敵意の視線を向ける。
「なんだよ。相変わらず不機嫌そうな奴だな。おい」
対するムソウは、余裕の笑みを崩さない。
「何をしにきた?」
「いや、ちょいと爺さん達と飲み比べしてたんだよ。俺様の勝利だったがな。で、帰り際にこの場に遭遇ってわけ」
ヘっ、と自慢げに胸を反らして語る。
「あのおじいさん共と飲み比べた割には、顔も赤くないですし、それほど酔ってもいない様子ですね?」
「まあな。”東”は度数の強い酒が多いからな。結構自信あるぜ?」
ムソウが、指を傾け、酒を煽るしぐさをとる。
「どうでもいい。さっさとどこかへ行け」
「なんだよ。ツンツンな奴だな。俺様は自由な”落ち武者”なんだぜ? なあ、巨乳メガネちゃんよ、エクスの奴ひどいと思わねぇ?」
「巨にゅ…! また、そんなことを! このセクハラ侍!」
「だはは! 褒め言葉だって。そう怒らないでちょーだい」
ムソウが、ニヤリ顔で笑っていると、
「待ってください。その呼び方はおかしいと思います」
アウニールが割って入った。
おお!、とヴィエルが感嘆の声をあげる。
「アウニールさん! そうです! この女性の敵に言ってやってください!」
予想外の位置から助け舟が来た。これで2体1にもちこめれば、がぜん有利だ。期待が高まる。
そして、アウニールは強気に言った。
「この人は”メガネさん”です。”巨乳メガネ”なんて浸透したら、語呂が悪くなって、舌を噛む人が出ます。危険です。だから、”メガネさん”と訂正を」
ヴィエルがコケかけた、…が、もちなおした。
「なんて予想外かつ的外れな方向に飛んでるんですかっ!? っていうか本名で呼べば済むことですよね!? ねぇっ!?」
「悪い悪い。じゃあ、噛みにくいようにしましょうかね。”お胸ちゃん”で」
「ねぇってば! 聞いてますぅ!? なんですか”お胸ちゃん”って!?」
「いい響きです。”メガネさん”がメガネを外した状態は”お胸ちゃん”を採用で」
「交渉成立だな。いいセンスだ。感服したぜ、嬢ちゃん」
ムソウとアウニールが、友情の握手を交わす。
「よく分からない握手しないでくださいよぉーっ!」
ヴィエルは無視された。
「―――そういえばムソウ。あなたに尋ねたいことがあります」
「なにかね? 俺様、なんでも答えちゃうぜ」
と、ムソウは、刀の柄を指先で小突きながら応じた。
ヴィエルが感づく。
「あ、ちょっとまってください。この人は、やめときましょう」
すると、エクスも続いて、
「…信用ならん」
「なんですか、おい?人を見た目で判断しなさんなっての。こう見えて俺様、年下の悩み相談とか結構経験あるんだぜ?」
どうだ、とムソウは自慢げだった。
怪訝な表情を崩さない2人だったが、アウニールはかまわず続けた。
「では、お尋ねします」
「はいはい。なんでも訊いちゃってちょーだいっ」
「―――”セックス”という言葉をご存知ですか?」
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「ん?”セックス”っていうと……」
ムソウが、首をかしげた。
ヴィエルは反対に、あ~言っちゃいましたよ…、と頭を抱える。
「…言っときますけど、その子に”実践”とか言って、手出さないでくださいよ?」
「手を出すって…あ、なるほど”夜伽”のことか。”西”の言葉はどうにもピンとこないねぇ。まったく」
ハハハ、とムソウは頭をかきながら笑った。
そして、続ける。
「よし、承った。要は言葉で教えればいいんだろ?」
「あまり過激な表現しないでくださいよ?」
「安心しろ。嬢ちゃんはわかってなくても、相手は知ってるからその時教えてくれるだろ。だから、前座だけは知っとくべきだな」
「前座って…なんか不安ですね」
「まあ、暴走させたいところなんだが、ここはグっとこらえて」
「不安倍増ですよっ!?」
「大丈夫だーって。じゃあ、そうだな―――まず、好きな男と一緒に風呂に入ることから始めようか」
「ストォォォーップゥ! やっぱり中止! なに吹き込んでるんですか!?」
「だっから、前座だって。なんにしても、仲良くなるには裸の付き合いが一番なんだよ。常識だろ?」
「そーんな常識聞いたことないですよ!?」
「”東”じゃそうなんだよ。俺様の知ってるご夫婦は、まず風呂に一緒に入って、奥さんから”お背中流しますよ~”とか言って、夜のテンションへ突入して、そのまま仲良く部屋にこもって朝帰り、ってのが一般的だ」
「非常識につき、却下で!」
ヴィエルが、叫ぶ。
『ほう…それは知らなかった』
エクスとアウニールが同時にうなずく。
「そこの2人! 今のは忘れるように! いいですか!?」
……とにかくこの場から逃げます!そうします!
ヴィエルは、興味深々に聞いている(ように見える)アウニールの手を引き、スタコラとその場をから遠ざかるように去る。
エクスも後に続いた。
「新婚初夜とかはまた別格でな…。まさにあれは―――って、まだ話終わってねぇぞー?」