4-1:”言葉”リサーチ【Ⅳ】 ●
ヴァールハイトは、ウインドウに答えた。
否、ウインドウは元々、通話状態であった。
『フフフ。やっぱりヴァッ君のところに来たか』
エンティだった。ウキウキしているのが伝わってくる。
「予想通りの結果になった、と思っているな?」
『まあね。あの純情メガネのあわてぶりはいつ見ても和むなぁ~』
「では、私は趣味の時間に戻るが、いいか?」
『あ、1つ…訊いていい?』
「なにかね?」
『あのまま、ヴィエルが止めなかったら……その…どうしてた?』
「…声が弱いぞ」
『そんなこと……ないよーだ!やっぱりいい!切る!』
「いつでも来ていいぞ」
『ふんだっ!』
一方的に通信が切られ、ウインドウが消える。
「……まったく。…本当に素直じゃない奴だ」
フッと微笑を浮かべつつ、ヴァールハイトは、趣味に戻った。
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通信をきった後、エンティは、
「あ~…なんであんなこと訊いちゃったんだよ…私ぃ…」
顔を真っ赤にしていた。
「本当…、ヴァッ君には勝てないよ…」
ブツブツ言いつつ、
「ああ、もうっ!考えるのやめっ!こんなの私らしくない!」
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最初のあてを外したヴィエルは、次の対象を考える。
思ったより面倒なことになった。まあ、社長の追撃はないだろうが…。
「もうちょっとムスっとしてる硬派な男はいないんでしょうかねぇ…」
と考える。
すると、
「候補がいます」
とアウニール。
「誰ですか?」
「エクスです」
ああ、と納得する。確かに硬派なイメージがある。
……一緒に遺跡に入ったときも、前だけ見てましたね。あまり手当たりしだいになびかないみたいですし。
合格だろう、と半ばよくわからない評価を下す。
「じゃあ、さっそく会いに行きたいところですけど…どこいるんでしょうね?」
エクスの部屋は割り振られているようだが、そこにいないことが多い。
話を聞くと、格納庫で立って寝ていた、とか普通にある。
「じゃあ、一応、部屋に行ってみます?」
「その必要はありません」
「どうしてですか?どこにいるか知ってるんですか?」
「いえ、ですが出現条件なら知ってます」
そう言って、アウニールは誰にでもなく。
「―――次の街、お買い物に行きたいですねー―――」
とやや大きめの声で言った。
「何をいっている。おとなしくしておけ」
「わおぁっ!?」
ヴィエルが突如背後から聞こえた声に飛び跳ねた。
いつの間にか、気配なきストーカーのごとく、エクスが立っていた。いつものムッツリ顔で。
「何を驚いている?」
理解できない、といわんばかりの表情で、エクスが首をかしげた。
「そ、そりゃ驚きますよ!いきなり背後に現れたら!」
「気配を消すのはクセでな」
「まったくもう…」
「それはそうと、アウニール。外出はさせんぞ。厄介事にするわけにはいかん」
「わかりました。冗談です」
「本当だな?」
「はい」
エクスは、フン、といいながらも、どこか難しい表情をしていた。
……なんか、前より…表情でてません?
まあ、何を考えているのかは読めないが。
すると、
「…それならいい。邪魔をしたな」
といって踵を返す。
「あ、ちょっと待ってください!」
「なんだ?」
「ちょっと、教えてもらいたいことがあって。前に女性とつきあったことがある、って言いましたよね?」
「そんなことも言ったな。それがどうかしたのか?」
なんだろう、エクス相手だと何故か途切れず話せる。
社長ほどプレッシャーを感じないからだろうか?
これなら、訊けるかもしれない。今度こそ、自分の口から―――
……がんばって! がんばるんだ! 私! 恥ずかしくなんかないぞ!
未成年の告白前と同じ心情になりつつ、周りに誰もいないのを確認して―――
「あの…”セックス”について詳しく教えてください」
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……言ってしまった!でも、よくやった私!
壁を1つ乗り越えた気がした。
「なに?」
エクスの表情が若干の不可思議を示す。
……おっと、いけない。後詰めもしなくては!
「アウニールにですよ?それも言葉だけで、詳しく!あまり深いところなしでひとつ!」
完璧だ。無茶振りだろうがなんだろうが、OK。
この条件なら、大丈夫だろう。
「お願いします。エクス」
アウニールも頼んでくる。
そして、エクスは顎に手をあて、言った。
「”セックス”とはなんだ?よくわからん言葉だ」
ヴィエルだけが脱力してズっこけた。
「し、知らないんですか!?」
「ああ。…常識なのか?」
「ある程度の子供でも知ってるんですけど!ええっ!?本当に知らないんですか!?」
詰め寄るヴィエルに押され、エクスが、何か悪いことでもしたか?、という表情になる。
「私…勇気を出したのに……こんな仕打ちを受けるなんて…」
「…よくわからんが、すまん―――」
エクスが、謝罪をしようとしたところ、何かを考え込む。
そして、
「―――責任を取ろう。可能な限りな」
「え?責任って…」
「俺も一緒に訊いて回ってやる」」
「…………へ?」
――ヴィエルの受難は、まだ、終わりそうになかった…。