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1-1:”新世界”へ【Ⅱ】

 いつから機械が人類を”採取”し始めたのかは、エクスは知らない。

 機械の軍勢は生まれたときから『敵』で、『災害』の一種とも教えられた。

 ライネなど、学識に通じる者は、歴史を紐解こうと文献を解読していたようだが、兵士として戦場にいたエクスは、そういった知識にあまりに疎い。というより、ほとんど無知に近い。

 今理解できたこと。

 この時代では、世界の支配者はまだ『人間』だ。

 『機械』の支配は、まだ影も形も見えない・・・ 

 


 年数と日時を聞いてから、急に黙りこむエクス。

 すると、エンティが切り出す。


「―――そろそろいいかな?」

「なにがだ?」

「先にそっちの質問には答えた。ひと段落着いたんなら、今度はこっちの質問に答えてもらえる?」


 両手で頬杖をしながら、笑顔でそういってくる少女に、エクスは、ああ、と返す。


「まず1つ目。名前から」


 エクス=シグザール、と淡白に返答する。

 仮にも治療してもらった身。だが、それだけで相手のことを信用しきるのは迂闊である。とはいえ、話しても問題ない情報程度なら話すべきだろう。


「どこから来たの?」


 エクスは一度沈黙。思考に入る

 ここで『未来から来た』というのは、事実ではあるが現実味がない。相手が信用するわけもない。

 結果的に、


「―――思い出したくもない、場所だ…」


 半分本当のことを言った。

 相手もあまり深く触れないほうがよいと察してくれている様子・・・かと思いきや、


「―――ふーん。そこんとこ詳しく。ぜひぜひ」


 このガキ…踏み込んできやがった、と悪態をつく。


「大丈夫だって、他の人には言わないから」


 ね?、という笑顔。到底信用できない部類である。

 エクスは、ふん、と顔を背け、それ以上の追及をはねつける


「つれないな~。せっかくお金かけて治療して、マンツーマンで寝ずに看病までしてあげたのに?」

「…貴様が勝手にやったことだろ」

「…まあね。でも指示したのは別の人だけど」

「別の・・・?」


 口ぶりから察するに、エクスを生かすことに利点を見出した人間がいるようだ。


「その人が治療しとけって。私は見つけた時に、身包み剥いで海に捨てるべきだ、って言ったんだけどね?」


 もちろん冗談だよ、と続けるエンティ。

 コイツ、半分本気だったな・・・、とエクスは根拠なく直感した。

 この女、見た目は少女のようだが、どう考えても年相応には思えない。どこか得体の知れない。というより・・・腹黒い。


「すいません。遅くなりました」


 そこにさっき出て行ったウィルが帰ってきた。しかしその手には頼まれてたはずの食事が見えない。


「さっきそこで食事ひっくり返しました!。申し訳ないッス」


 敬礼に似たポーズをとるウィル。彼なりの謝罪の表し方なのだろう。

 その様子をエンティはしばらくじっと眺め、不意に告げた。


「・・・あ、ご飯粒ついてる」


 げ!?、とウィルは自分の口元にあわてて手をやるが、


「ついて・・・ない・・・?はッ!?」


 この男、病人の食事をつまみ食いどころか全部食べるとは、とエクス呆れた。


「あれ~? 落としたのに、口元にご飯粒がついてるわけないよね~? それとも口の中に落としてきたのかな~?」


 ゆらりと椅子から降りるエンティにウィルが戦慄し、必死に手を振る。


「ち、ちがうッス!これにはやむにまれぬ深い事情があるんス!」

「ほ~? ちなみに『俺の鳴り響くこの腹が悪いんス』っていうのはもう100回以上聞いたからなしね?」

「に、逃げ道ふさがれた!?で、でも3日も寝ずにその人看病してたんだから、さすがに空腹で―――」

「―――減棒決定♪」

「のおおおおッ!?」


 ん?、とエクスが疑問に思う。


「…おい、寝ずに看病してたのは、ウィル(ソイツ)の方か?」

「え? 当たり前でしょ。なんで私が男を看病するのよ。このバカ体力だけはあるから適任だったわ。私は時々連絡とってて、たまたま様子見にきたら、君が起きただけ」

 なんて女だ、とさらに呆れつつも、エクスは力を抜き、ベッドに沈んだ。腹黒女と馬鹿な男だったが、今すぐどうこうされる心配はなさそうだ。

 シーツに深く身体が沈み、心地いい。

 まどろみに飲まれつつも、いろいろなことを考えた。

 これからのこと。

 この過去の世界のこと。

 自分の置かれている現状のこと。

 そして、彼女(ライネ)のこと。


 またお前に会える・・・必ず、会いにいく・・・必ず・・・



 ウィルに制裁を加えていたエンティは、いつの間にかエクスが深く寝てしまっていることに気づく。

 はあ、とため息をついて、


「まったく…こっちの話は終わってないんだけど…」

「無理ないっすよ。この大ケガで生きてるほうが不思議ッス」

「あれ? 思いのほか早く立ち直ったね。制裁が足りなかったかな~ウィル君?」

「いやいやいやいやッ!もう十分ッス! 反省しました!」

「そっか、ならよし。じゃあ、私は社長に『目を覚ました』って連絡とって来るから」

「了解ッス」

「君は、ソイツが逃げないようしっかり見張っといてよ?」

「大丈夫。この人は逃げたりしないッス」

「ん? 自信ありげだね」

「この人、見た目は怖いけど、悪い人間じゃないッスから…」

「フフ、君のその勘、当てになるからね。信用してるよ」


 んじゃ、と出て行くエンティを見送ったウィルは、布団に沈み、深く寝息を立てる男を見る。


「やばい、さすがに限界だ…」


 そういって、彼は壁を背にして座り、すぐに深い眠りに入った。

 2つの寝息と鳥のさえずりだけが部屋の中にあった。

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