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3-10:”金閃”纏いし守護者『Ⅱ』

 少女は、祈り、願った。

 銀の機体を駆る、あの少年の無事を。


 ―――どうか、彼の”意思”に答えて…”力”を。


 わずかに、金色の領域が広がる。ほんのわずかに。

 そして、風に吹かれ、かすかに舞い上がる。



 金閃だった。


『なに…!?』


 エーデル・グレイスから驚きが発せられる。

 ブレイハイドの両腕部にある巨大な装甲が、金色の粒子を噴出しながら、展開する。

 爪状のパーツが3方向に、花を咲くかせるかのごとく。無尽蔵のエネルギーが、湯水のごとくあふれ出すように。

 腕だけではない。

 全身にある各部スリットから光が放たれ、金色は銀を染め上げ、圧倒的な存在感を纏わせる。

 力の顕現を示すかのごとく、粒子が舞い散り、月明かりすら凌駕する極光を得る。


『よし!光った!』


 ウィルが言う。

 腕部装甲は、ただ光っただけではない。そこからあふれた光が、刃となり、形を固定する。


『プラズマ兵装だと!?』


 エーデル・グレイスの突撃はもう止められる位置にない。

 そこへ、


『うおおおおおお!』


 カウンターのごとく、刃状のプラズマエネルギーが一閃した。




 ……あれだ。あの時見たのと同じ状態。


 エクスは、1人離れ、対応策・・・のために全員の視覚の外を走っている。

 そして、突如、現れた極光の輝きに足を止めた。

 これまで、何度試してもかたくなに閉ざされていたブレイハイドの”力”。それが彼女ライネにつながる鍵になる。


「この機会、逃すものか…!」


 あの状態になったのなら、急ぐ必要がある。

 勝敗が決したとき、あの力は再び自ら、奥底に隠れてしまうだろう。ウィルか、リッター。そのどちらかの勝利によって。

 なら、とエクスは思う。


「貴様は勝つと言ったな…なら勝利で幕を引いて見せろ。ウィル=シュタルク」



 カウンターの一閃を、


『ぬう…っ!』


 エーデル・グレイスは回避してみせた。

 しゃがんでは食らう。寸前で大きく地面をけり、機体が逆さまにボディをひねり、プラズマブレードの一閃を飛び越えてみせた。


「―――ライド・ギアが、空中を側転した!?」


 ヴィエルの声が飛ぶ。

 本来、考えられない光景だった。

 鋼鉄の人型が、重力をはねのけるかのごとく見せた変則機動。

 リッターの技量、判断力、反射神経。それに加え特殊な構造を持つ機体の柔軟性が成しえる、まさに人型機動兵器操作の究極系だった。

 またも空振りした勢いで、ブレイハイドが前につんのめる、が今度は踏みとどまった。

 エーデル・グレイスも1回転したのち、脚部をたわめ着地する。

 互いに背中合わせになった状態。そこから同時に振り向く。


『うおおおおお!』


 光を引き、ブレイハイドが再突撃する。その速度は、先ほどとは比にならなかった。


『それが奥の手か! 少年!』


 プラズマブレードが描く斬光が、エーデル・グレイスに向け闘志を奔らせる。

 横に振られた斬撃を、バックステップで回避しようと、純白の騎士が飛び退り、


『む…!?』


 見た。ブレードがスイングに比例するかのように伸びた。間合いから逃れ切れない。

 届いた。エーデル・グレイスのもっていたブレードへ。強力なエネルギー兵装によって、金属製の武装は、いともたやすく融解した。

 リッターは、瞬時に回避運動を変更。背部のそり返しによるバック転。機体構造限界ギリギリのその動きに、フレームの一部が割れ、コックピット内に、”圧力過多”が警告される。


 ……耐えろ!我が半身よ!


 胸部装甲の先端がわずかに、エネルギーの余波にさらされるが、それでも機体は健在だった。

 地についた手の出力を一瞬上げ、再び姿勢を直立へと戻す。人間のごとき、運動能力に遅れて、”髪”がついてくる。


「リッター殿!武装を!」


 副官の声と同時に、駆けつけた車両から、先ほどと同じブレードがせりだす。


『よい活躍だ。副官よ!』


 柄をつかみ、再びブレードを手に取る。車両は一目散に退避。


『あ!ずるいッスよ!?』


 ブレイハイドがこちらを指差し、叫ぶ。せっかく壊したと思ったのに。


『だ、断じてずるくはない!防御不能の攻撃ができるほうが卑怯ではないか!?』


 エーデル・グレイスが、若干後ずさりながらも正論で返す。


『俺も今さっき使えてびっくりしてるッス!』

『そのようなことを…”能”ある者の奥の手ほど恐ろしいものはない、ということか。油断した。実に見事な奇策であった』

『”脳”なんて、みんな持ってるッス!』

『ふ、実に謙遜的だ。敵でありながら天晴れだ』


 エーデル・グレイスが、構える。


『……少年、名を何と言う?』


 不意に冷静な口調で、リッターは名を尋ねた。


『ウィル=シュタルクって言うッス!』


 ウィルは応じる。名前を聞かれたから、なんとなく名乗ってしまった。

 フ、とリッターが声を出す。


『このエーデル・グレイスのブレードを破壊したのは、ウィル少年。君が初めてだ。よもや、2本目を用いる機会がこようとは、な』


 そして、長い髪を持つ流麗な頭部が動きブレイハイドを正面から見据える。金色の光を纏う者を。


 ……美しい。


 そう思った。

 月明かりを受ける今こそ、最も美しいと自負できる、愛機”エーデル・グレイス”。だが、その輝きは、目の前の光を帯びた存在と対等であった。

 自らが受ける光とは、”王”を指す。我らが”王”の存在によって、騎士は輝きを得ることができる。

 しかし、目の前にいる者は違う。

 己から光を放ち、皆を照らす太陽のごとく。少年の操る”ブレイハイド”は、そこに立っていた。


『少年、君はなんのために戦う?』

『決まってるッス!』


 ブレイハイドの視線が、遠くへ。祈り、信じてくれた、”心”のわかる少女へ。


『―――共に歩きたい人がいるから!』

『なるほど、人の美しさ。それは他者のために、戦おうとする意思だ。君にはそれがある。ならば、敬意を表せざるをえまい』


 ならば、とダッシュをきったのは、エーデル・グレイス方からだ。

 これまで、受けの姿勢を崩さなかった騎士は、初めて攻めに転じた。



「リッター殿があそこまで敬意を表するとは……」

「副官!あのブレイハイドという機体の性能が未知数です。どのデータバンクにも該当がありません!」

「なに?」

「戦闘能力が分析できません。このままでは、リッター殿が危険です。援護の指示を!」

「馬鹿者!!」


 副官は張り上げた。


「副官!?」

「全員待機だ!命令だ!」

「しかし!」

「リッター殿が、敬意を表すべき相手に出会えたなら、われらもまたその者に敬意を表する!隊長が信じられないというなら、援護せよ!そのような無礼者が、この部隊にいるのか!?」

『いえ!おりません!』

「ならば、全員、この戦いの行方を見よ!返答は!」

了解ヒア!』



 金閃を引く銀の巨兵と純白の騎士が再び激突する。

 リッターは一度、攻めると見せかけフェイントを入れた。迎え撃つ気満々だったブレイハイドの攻撃は空を切る。


 ……く、やっぱり当たらない!


 プラズマ兵装を展開できたまではよいが、相手は、すでに触れてはいけないものだと理解している。

 細身の機体は、ステップを踏みながら、プラズマブレードの射程距離ギリギリを保って張り付いてくる。

 そして、大振りで空振りを見せたところに、すかさず突きを入れてくる。

 だが、ウィルは気づいていた。動くほど、機体が自分の思うとおりになってくるのが分かる。

 最初は、かすりすらしなかった攻撃も、今はわずかにかする。

 それは、素人とエキスパートの戦いにおいて、どれほど差であるか。ウィルは感じられない。

 一手ごとに自分が強くなっていく気がする。

 そうだ。この機体なら、


『―――勝てる!』


 叫ぶと同時に、ブレイハイドが後方へと大きくバックステップ。距離を離し、今度は上空へとその身が高く、高く跳びあがった。

 上空から勢いをつけて来る気か、とリッターは瞬時に次の手を読む。

 回避は容易。だが、あえて迎え撃つべく、ブレードを突きの体勢に。より後方へ、アローを引くかのように。

 狙うは、”カウンター”だ。ブレイハイドの装甲は強固だ。あの金の閃光をまとってから、さらに防御力があがっている。軽い突きでは、まともなダメージは入らない


 ……なら、この瞬間こそ我が勝機と見る!


 降下による斬撃を避わし、相乗の破壊力の乗せた一撃を叩き込む。

 だが、その考えは、


『くらえええええええっ!!!』


 ウィルの叫びの前に消し飛ばされた。


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