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3-8:共にある”者”

 ―――それは、必然?

 ―――それは、偶然?

 ―――否、それは運命さだめ

 ―――避けることはできない。避けるすべはない。

 ―――いずれ訪れる、正しき歴史じかんなのだ。





「―――なんだ、この光は?」


 通路をひた走るエクスは、通路に突如として現れた金色の奔流に、不可思議なものを感じた。

 足元を、視覚できる風のように流れていく。


「この先か」


 その源に向け、エクスは再び駆けていく。





 数秒とも、数分ともとれ、時間の意識が曖昧になっていた。

 誰もが、輝きを放ったアウニールに目を奪われていた。

 そして、いつしか光はゆっくりと収縮していく。

 光のおさまりにあわせて、アウニールの髪は、先端の金色の部分を残し、ほぼ銀色の状態へと戻っていった。


「―――なにが、起こった?」


 機械兵は、ブレードを振り下ろした姿勢のまま、停止していた。

 まるで、時が止まっているかのように。

 農家(警備部隊)の1人が、恐る恐る機械兵に、近づき、もっていたクワで、軽くつつく。


「……止まってるべや」


 機械兵のセンサーは、光を消していた。あたかも眠るかのように。


「お、お嬢さん、坊や!無事か!?」


 ロブが、地面に一緒に倒れている2人に駆け寄った。


「―――ん……」


 先に身を起こしたのは、アウニールであった。


「どうしたの、ですか?」


 彼女は状況が分かっていなかった。

 おそらく、自分自身が起こしたことさえも。

 そして、すぐにその意識は、ウィルへ。


「ウィル……無事、ですか?」


 ウィルは、答えない。

 うつぶせに倒れたままだ。


「ウィル……?」


 返事がない。


 ……まさか、彼の身になにか


 すると、遅れてミットが駆け寄ってきた。


「お嬢さん!無事だったさ!?」


 ミットは手早く、安否を確認する。

 アウニールに目立った外傷はない。

 となれば、心配なのはさっきから反応しないウィルのほうだ。

 ミットは、急いでしゃがみ、顔を覗き込み、


「これは!?」

「どう、ですか……?」


 そして、


「―――なんて幸せそうな顔してるさ!?」


 場が、謎の沈黙に包まれた。


「―――は?」


 言ったのは、アウニールである。

 先ほどの心配に曇った顔はどこへやら、普段と変わりない無表情へとチェンジ。

 そして、ウィルの顔を覗き込み、


「―――あ~、背中に乗ってたアウニールの太もも、柔らかくてよかったッス。なんか新しい喜びを得たような気が……」


 そんなことをのんきにほざいていた。

 しかも、起きてるし。

 そして、アウニールは無言のまま、


「フンッ!」


 高々と跳躍し、


「でやぁたぁっ!!?」


 背中に、渾身のとび蹴りを叩き込んだ。

 少し、遺跡が揺れた……ような、気がしないでもなかった。

 しかも、


「さっさと、起きてください。ウィル」


 ジャンプし直して、もう一度、フン!。追加。かかとでグリグリの連続コンボを決めた。


「あだだだだだだだだだだだだだ!!?起きます!起きますから、やめてぇ!」


 目の前で繰り広げられている光景に、周囲はついていけてなかった。

 とりあえず、無事なのは分かったのでホッとする。


「―――いたた。ちょっと最近荒事から遠ざかっていたせいで、受身に失敗しちゃいました…」


 先ほどまで、倒れていたヴィエルも歩みよってきた。

 その時、


「―――ようやく、見つけたぞ!『金銀娘』!さあ、これで任務完了であろう!」


 妙にテンションの高い声が、響き渡った。


「―――なんだ、あれは!?」

「―――き、奇抜だ!」

「―――いや、違う!変態っぽいべや!?」

「―――あれが、都会人の最終形態だがや!?」


 農家(警備部隊)の面々が、突如乱入した奇抜なファッションのテンションMAX人間に恐れをなした。

 分かりやすく言えば、変なのが来た!?、である。


「見よ、副官。皆が私に、注目している。これはどういうことか、述べてみよ!」

「は、それはリッター殿の優雅さ、気品といった美しさ。それに目を奪われている、ということに他ならないかと」

「エクセレント!見事だ副官。今実に心地いい、いやまことに心地いい」


 彼―――リッターの辞書に、『奇抜』『変態』の言葉は、残念ながら載ってなかった。

 一通り、天を仰いでいたが、改めて任務遂行へと向き直る。


「私は”西国”の陸戦機動”ソル・ライフェン”を束ねる部隊長にして、稀代の美しさを誇るリッター=アドルフである。このたびは、隠密任務でこの地に参った」

「リッター殿。隠密任務で名乗ってはなりません」

「む!?そうであったな。訂正しよう。私は通りすがりの”一般軍人”リッターである」


 みんなが、黙って聞いていた。

 純粋に耳を傾けているわけではなく、どこからツッコめばいいのか分からないのだ。

 とはいえ、心のうちに思うことは皆同じ。すなわち、


 ……コイツはバカだ。間違いない。


 そんなことを思われているなど、微塵も気づかないリッターは続ける。


「では、みなのもの。私はそこの……えぇ、その少年の上に乗って、踵をグリグリ押し付けている『金銀娘』を保護するためにやってきた」


 そう言って、リッターはスッと手を差し伸べた。


「では、『金銀娘』よ。私と共に”西国”へ参ろうぞ」


「お断りします」


 即答。


「そうかそうか。素直な子は美し……ん?今、なんと?」

「あなた方についていく理由が分かりません。なのでお断りします」


 その言葉にリッターは、すばやく後ろを向き、副官とヒソヒソと話す。


「副官よ。これはどういうことだ?あの『金銀娘』は、”西国”の人間で、帰りたがっている、ということではなかったのか?」

「は…自分にはなんとも。ですが、任務上の目標では”奪還”となっております」

「しかし、可憐な乙女を”奪還”などと言って連れて行くのはどうだ?」

「任務には時として、非情に徹することも”美学”であるかと。リッター殿にはつらい選択かもしれませぬ」

「いや、私はこの試練にあえて挑もう。美しさを捨て、”美学”を得てみせよう!」


 リッターが、バッ、と正面に向き直り、高らかに宣言した。


「『金銀娘』よ!私のこの心は今にも張り裂けんばかりである。しかし、私は”西国”に、そして”王”に忠誠を誓った身!そのためならば、今このときばかりは悪の”美学”へと徹しようぞ!」

「勝手に盛り上がらないでください」


 アウニールの、いつにもまして辛辣な一言。


「全員、構えよ!」


 リッターは聞いていなかった。

 号令を受けた部下が、横一列に隊列を組む、その数10人前後。

 訓練を受けた、直属の陸戦部隊員である。


「―――隊長は変だが、部下はまともそうだ!」

「―――そうだな、部下は手ごわそうだべ」

「―――ボスだけなら、たいしたことなさそうだがや」


 農家の方々は妙にやる気である。

 しかし、正直言って、


「―――これ、勝ち目ないですよね?」


 ヴィエルがそうぼやいた。

 戦闘のために鍛えられた人間とでは、戦闘能力が違いすぎる。

 ジャバルベルクの人間は、かなりの世間知らずで有名だ。

 世間では、けっこう名が(主に”変人”として)通っている方のリッターのことすら、会うまで知らなかったぐらいだ。


 ……とりあえず混乱にまぎれて、2人を連れ出して―――


「―――かかれ!」


 リッターの声が飛ぶ。

 それと同時に、隊列組んだ部隊が突撃を開始した。

 だが、その瞬間―――


「な!? こんなときに!?」


 さっきまで、沈黙を守っていた機械兵ウィンドラスの、センサーに再び赤い光が灯った。

 ボディの各部をきしませながらも、直立した。


「―――また、こいつか!?」

「―――まずい!危機再びだべ!?」


 そんな絶望にも似た声が聞こえた。

 リッターは、その姿を確認し、


「う~む。さすがは、我が技術開発部。あれだけの損傷を受けても、戦闘行動を継続できるとは。まことに惚れ惚れする」


 称賛する。そして、命令を告げる。


「機械人形よ! 任務を続行せよ!」


 その声に、機械兵ウィンドラスは、特に振り返ることなく、視線センサーも動かさない。


 ……再起動に手間取っているのだろうか?


 と思った。


 

 リッターの命令を受け、機械兵ウィンドラスは、プログラムの起動にあわせて記録回路を検索する。


 ―――任務…続行…。任務、再確認……『金銀娘』確保…阻害対象の排…


 そこで、プログラムにノイズが入った。


 ……ウィルを…傷つけないで…!……


 ―――任務……『金銀娘』、および『彼』の護衛。任務…了解―――

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