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3-6:”砲撃”武士【Ⅱ】 ●

挿絵(By みてみん)

 機械兵”ウィンドラス”―――

 それは、エクスのいた未来において、歩兵のような存在だった。

 正直いうと、人間側の主な犠牲者はこの機兵によるものが圧倒的に多かった。

 人間とは異なり、損傷を恐れず、機敏な動作で、鉄の身体そのものが強力な武器。

 普通、生身の人間が充分な装備なしには太刀打ちできない。

 しかし、目の前にいる機械兵は、


 ……だいぶ大型だな。


 頭頂部まで2メートル、肩幅も広く、装甲がはっきりとわかることから、機動兵器を小型化しただけのようにも思える。

 未来の機械兵は、人間とそう変わらないほどの体躯をしていたため、遠目からでは機兵と判別ができないほど精巧だった。


 ……技術力の途上か。


 過去に置いて、それは当然の結果だった。


「―――なんだ、こいつ?」


 ムソウは、目の前に現れた機械兵に、物怖じしていなかった。

 むしろ、珍しいものが見れたことに、興味を抱いている様子だ。

 機械兵の単眼が動いた。

 先に近くにいたムソウを、ジッと見ている。

 しばらくしてから、エクスへと視線が移り、


 ―――対象2。武装所有。任務阻害指数……A―――


 両腕の装甲が割れ、内臓火器の機関砲が駆動音を立て、飛び出す。


「ちっ……!」 「うおっ!?」


 銃身の回転と同時に、秒間50発の連射が襲い掛かり、壁や床をはね、削り取る。

 2人の行動は同時。身近にあった、壁に身を隠す。


「おい、あれはなんだ。知り合いか?」


 これは、知っているのか、という意味だろう。


「知っている。だが……詳しくは知らん」

「今日はとことん面白いな。強い奴に、金属のお人形さんとは。運のいい日だ」


 言っている間に機関砲の音がやんだ。

 弾の無駄使いをやめ、距離をつめてくる足音が聞こえる。


「協力しろ。奴をしとめる」

「名案でもあるのかい?」


 この狭い通路で、飛び出せば、機関砲の餌食になる。

 相手に先制を許してしまっている。


「相手の腕は2本だ。意味は分かるな」


 つまり銃口は2つ。

 そしてエクスは、ムソウの刀を、一瞥。


「なるほどな」


 機械兵ウィンドラスは、2人の隠れた壁へと近づいていく。

 腕の機関砲が、一発薬莢を吐き出す。弾詰まりの防止も万全に実行。

 そして、あと2メートルに踏み込んだ瞬間、


 ―――排除―――?


 壁の上から飛び出した影に、瞬時に照準。だがそれは、


 ―――敵武装、確認。


 鞘に納まったままの刀だった。

 そして、上空に注意が向いたことで、


「おら!こっちだ!人形さん」「仕掛ける!」


 叫びながら飛び出したムソウとエクスへの反応が遅れた。

 一手遅れで、機関砲が照準、射撃。

 しかし、すでに2人は至近距離にいた。

 エクスは、銃口の補正は追いつかない速度で駆けた。

 先のムソウとの戦いで見せた挙動。

 相手の側面から、回転して回り込み、


「そこだ!」


 逆手に持ったナイフを機械兵の、腰部装甲の隙間へと突きこみ、そのまま一閃。

 すると、単眼の光が明滅し始める。 


 ―――中枢、伝達回路……信号…途、絶―――


 機械兵の膝が落ち、土煙をあげ、巨体が勢いよく地面に倒れ臥した。

 エクスは、しばらく構えを解かなかったが、


 ……止まったか。


 機能が完全に停止していることを確認し、腕を下ろした。


「なんだなんだ?意外とあっけないな」


 ムソウが、倒れた鉄の骸を軽く小突いた。

 エクスとしても、意外だった。


 ……予備動力はまだ搭載されていない。試作型か。 


 思っていたより、構造が簡素だった。

 その証拠に、ローブに包まれて見えなかった背面の装甲は、意外と少ない。

 装甲の細分化の技術が途上のように思われる。

 動作の邪魔にならないよう、意図的に装甲を少なくしているようだった。


「お前さん、こいつの弱点知ってたのかい?」

「一応だ。通じてよかったが」


 人間と違い、機械兵の急所は、腰部にある中枢伝達回路だ。

 それは昔から共通のようだった。

 頭部は、センサー類が集まった、ただの”目”。致命傷にはなりにくい。

 真正面から戦うことを想定して作られているため、正面と比較して、背面の装甲には隙間が目立つ。

 未来の機械兵ウィンドラスと比較すると、特にそれが顕著で、途上傾向がよく分かる。

 整備性も優先されているのだろうが、この時代ではこういった事態がまだ考慮されていないのだろう。


 ……しかし、1体だけとは―――


 その時、銃声が響いた。

 今度は1発。


「が……!」


 命中していた。エクスの肩にだ。

 油断した


 ……単発の銃器型か!?


 背後から、またも単眼を光らせる影が歩いてきていた。

 外見は同じ。

 だが、今度は内臓式ではなく、腕部の外側に武装を取り付けられたタイプだった。

 エクスは、とっさに跳んでいた。

 先までいた位置に、銃弾がはねる。

 再び壁に隠れ、機をうかがう。が、


 ……く、力が入らないか。


 長年の勘で、見ずとも肩の状態は分かる。 

 弾丸は抜けている。致命傷でもない。だが、撃たれた位置が悪かったのか、右腕にまったく力が入らない。

 残りの武装は、投げナイフが1本。持っていたコンバットナイフは、打たれた拍子に落としてきてしまった。

 どうする、と考えをめぐらせていたが、ふと気づく。


「―――何をしている。早く身を隠せ!」


 ムソウだ。

 彼は、隠れもせず、さっき囮として投げた刀を拾い上げていた。


 ―――対象1…遮蔽物側。対象2…射線内。優先排除順位…対象2―――


「なに、お前さんの鮮やかな手際に敬意を表して、今度は俺様の活躍を見せてやろうと思ってな」

 何をする気だ、とエクスは考えをめぐらせる。


 ……まさか、刀で戦うつもりか。


 無理だ。武器が大き過ぎる。

 腰部の装甲の隙間は、ナイフがちょうど滑り込む程度の隙間しかない。

 それに、間合いが開きすぎている。

 さっきは、相手の接近まで待つことで、成功したが、今度は違う。

 ムソウが、堂々と姿をさらしている時点で、機械兵は近づいてくる必要がない。


「まさか、お前さん。俺様のこと”剣士”だなんて思ってんのか。違うぜ?」

「なに?」


 違うのか、とエクスは理解できない。


「俺様の得意分野はな―――”砲撃”だ」


 言うと、ムソウは腰に下げた2本のうち、ボロボロの包帯に包まれた刀を鞘ごと腰から、手にとった。

 それ軽く宙に放り投げると、


「―――”砲閃抜刀”―――」


 言葉の終わりと同時に空中にあった鞘を歯で捉え、かみ締め固定する。鞘を噛み砕かんばかりに。

 左腕が柄をつかむ。

 握り締め、乾坤一擲の気迫の元に―――

 

 ―――対象2…武装射程外。中距離、射撃対応―――


 抜刀した。 

 機械兵ウィンドラスの銃弾が遅れて放たれる。が、


 ……なに!?


 遺跡が揺れた。

 衝撃波、としか言い表せない。

 目に捉えられない速度の抜刀。

 その瞬間、通路を埋め尽くす”見えない爆風の壁”が、発生した。

 壁を削り、周囲を破砕し、進路上の万物をなぎ倒して、蹂躙していく。

 当然、進行方向にいた機械兵ウィンドラスもその餌食になった。

 直撃。

 人間なら、肌の感覚で感じられる危機感知も、機械にはできない芸当だった。

 真正面から攻撃を受けることを前提に構築されたボディだったが、不可視の衝撃波にさらされ、一瞬も耐えることができなかった。

 もろい関節部分から、次は装甲の隙間から、いともたやすく吹き飛ばされ空中分解し、四散した。

 不可視の暴風は、そのまま先の見えない奥まで、過ぎ去っていった。

 静寂。

 エクスは、抜き放たれたムソウの”とっておき”といわれた刀の刀身を見た。

 黒塗りの黒刀。波紋は、炎のように赤い。しかし、光を反射すると、月明かりのように淡い光を見せる。

 さっきまで使用していた刀とは一線を画す精巧なつくりの刀だった。

 そして、ムソウは口にくわえたままの鞘に、勢いよく刀身を納めると、手に持ち直した。


「……なんだ、今のは?」

「さっき言ったろ、”とっておき”だよ。それにこれあまり使いたくねえんだ」

「切り札を隠しておきたいのか?」


 いや、とムソウは口の中を指し、


「歯が痛くなっちまうからな」


 確かに、口にくわえて抜刀したのだ。当然だといえば、当然だが、


「それより、ほら。先、急ぐんだろ。さっさといけよ。火傷男」

「まったく、わけのわからん男だ」


 さっきまで敵対してたと思えば、今度は共闘。

 判断力はしっかりしているようだが、


 ……今は詮索しても仕方がない、か。


 エクスは、それ以上の追求をせず、駆け出す。

 すでに止血は完了している。まだしばらく動く分には問題はない。

 砲撃侍の開けた道をぬけ、奥へと向かった。

 ムソウは、火傷男の背中を見送ると、


「―――まあ、またすぐ会えるさ」


 そう言って、いたた、と頬をおさえながら反対方向へと踵を返した。 

機体紹介④


挿絵(By みてみん)


名称:機械兵”ウィンドラス”


武装:①内臓および外部固定式換装兵装 ②ボロボロローブ(防御力0)


特機:補強戦力(試作型)

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