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3-2:”見知らぬ”人? ●

挿絵(By みてみん)

 謎の機体”ブレイハイド”。

 アウニールと共に現れた、その銀色の巨人の力は”カナリス”にとって有益なものであった。

 頑丈な四肢、強靭な脚部、高いエネルギー出力。どれをとっても、彼らが求めていた条件を満たしていた。

 

 まさしく・・・これこそ我々が待ち望んでいたものだ!!


 皆が口をそろえて、そう言った。






 シュテルン・ヒルトの格納庫内―――


「―――おーい、ウィル。こっちの荷物がまとまったから、頼むぞ」


 初老の大声が聞こえ、


『へーい』


 返事は銀色の巨人”ブレイハイド”から聞こえてきた。

 ブレイハイドが、片膝を下ろした姿勢で、手の甲床に、金属音を響かせつつおろす。差し出す形の手の中に周りの作業員が、次々と荷物を載せていく。

 崩れない程度に乗せ終わると、


「―――いいぞ。持ってけー」

『ういーっス』


 機体の腕部が駆動音を立てて上がり、それに続いて脚部の屈曲が、直立へと移行していく。

 銀の巨躯が進む先にあるのは、これまで積み込まれた荷物の山。

 そこに、


『慎重に、慎重に・・・っと』


 細かな操作で、荷物を置いていく。


「―――いや~、助かるわ、ホント」


 エンティが、目の前の光景を見ながら、ご満悦であった。


「作業効率バリバリアップしたし、リフト車が真っ二つになったときは、どうしようかと想ったけど、これで解決だね。おまけに出力高いから、発電機としても使えるなんて超お得だね」


 本来の使い方と違うような気がするが・・・、とツッコめる人間はこの場にいなかった。


「それにしても、ウィル君はだいぶ機体の操縦がうまくなったね。あの子、意外とセンスあるのかな?」


 ブレイハイドを作業に使用する案は、実はなかった。しかし、ウィルから、


「―――これうまく動かせたら、役に立つと思うんスよ―――」


 とか言い出したのが、現状の始まりである。

 その提案に対して、なぜかエクスからの賛同もあり、練習を始めた。

 それから一週間で、ここまで精密な操作までできるようになっていた。


「それとも、エクス君の教え方がよかったのかな?なんか、知らないけどめちゃくちゃ詳しかったし」


 その言葉には、近くで休憩していた老人が答えた。


「まあ、ええではないか。ウィル坊だけでは、けっこう大変じゃったろう」

「まあ、そうかもね・・・」


 エンティがチラリと、後ろの壁をみやる。

 機体が壁に衝突した後が10箇所ぐらい。どれも頭から突っ込んでいる痕跡があった。


「この5倍は被害出てたかもね・・・」

「自転車の練習みたいなものじゃよ。七転び八起き。転ぶほどうまくなるものじゃ」

「まあ、修理代はウィルの給料から差っ引くからいいけどね」


 エンティが、何の問題もない、という顔でいると、


「―――ああ、いいですね。この使い方」


 (おそらく)持ち主たるアウニールがやってきて、運搬作業する機体を見上げながら呟いた。


「うん、あれ役に立つね。ありがとね」

「いえ、使われずに埃をかぶるよりいいかと思うので」

「ところで、それどうしたの?」

「それ、といいますとなんですか?」


 エンティは、


「それそれ」


 アウニールの脚に新しくついたものを指していた。







「―――集中しろ。操作を誤るなよ」


 エクスが今いる場所は、


「そーんな心配しなくても、だいぶ慣れてきたッスから~」


 操縦するウィルの傍らにいた。


「しかし、なんでエクスはそんなに機体これに詳しいんスか?」

「気にするな。それより集中しろと言っている。こいつの操縦をものにしたいといい出したのはお前だろう」

「そうッスね」


 ウィルは、作業を行う、という名目でこの機体の動かし方を学ぼうとしていた。

 理由は、やはりアウニールだ。

 彼女と共に歩むなら、関係するものを理解しなければならない。どこまでも進むために、まずは目の前の機体これから理解しようと、自分なりに考えたようだ。

 口には出さなかったが、ウィルにセンスがあることはエクスも認めるところであった。

 事実、みっちりと訓練を行う兵士であっても、機体の操作法を習得するまでは、最低でも1ヶ月の時間がかかる。それは、通常仕様のコックピットである場合のデータだ。

 ブレイハイドの場合、通常とは異なるコックピット構造をしていた。前に、”ソウル・ロウガ”に近いものがあったことを覚えている。

 重火器を一切装備しない”ソウル・ロウガ”は、操縦桿コントロール・ギアに、トリガーが存在しない。火気管制も独自のものが取り入れられていた。要は、基礎的な部分では操作法がシンプルなのだ。

 実際、エクスは初乗りで”ソウル・ロウガ”の性能を、ほぼ完全に引き出せた。(これにはライネによる、エクスの癖を考慮した専用OSが内蔵されていたのもある)

 今のウィルにも、同じ状況が考えられた。つまり、慣れだ。

 ウィルの売りはタフさ。過酷な状況にも耐えうる精神力、根性がある。てんで素人でも、常人を上回るそれがとシンプルな操作法が彼と相性がよいことが、現状の証明であった。

 とは言うものの、エクスもただ教えるために乗り込んでいるわけではなかった。

 ライネにつながる手がかりを得るためには、この機体をウィルとは別の角度から知ろうとしていたのだ。 

 だが、これまでで得られた情報と言えば、


 ・・・機体に出力制限リミッターがかかっているのか?


 この機体を始めて目にしたとき、銀の装甲の隙間には、金色の燐光があった。しかし、再度起動してからは、それはなくなり、いまだそれが動く兆しは見えない。

 アウニールの搭乗が条件である可能性も考え、最初の状況を再現し、2人を乗せてみたが、


 ・・・結果は、沈黙か・・・


 あの時垣間見たブレイハイドの脅威の出力係数。謎は解けぬままであった。

 そんなとき、ウィルが、


「―――ん? なにか、下が騒がしいような・・・ってあれは!?」





 その人物は、格納庫に向けて早足に向かっていた。


「あ~、また遅刻・・・そろそろクビにならないか心配です・・・」


 眼鏡をかけた女性だった。切り揃えられたセミロングは、艶やかで手入れが行き届いている。社会人たるもの、身だしなみには気を使うのである。


「あ、見えた。あそこが格納庫ですね」


 ・・・久しぶりに会うから、みんなどうしてるかな。元気かな。

 そんなことを考えながら、格納庫内に足を踏み入れた彼女は、


「ってなんですか!この騒ぎはーーーっ!?」


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