3-1:”親愛”なる者たちへ ●
まばゆい光沢を放つ、巨大回廊をその人物は歩いてた。
この回廊ははるか昔、自身の人生が3度繰り返されても到底及ばぬであろうほどの時代に築かれた建造物の一角でしかない。今でこそ、ライドギアなど少数人員で多様な公的事業を行う術が確立されているも、当時あったものと言えば、人の力と力学の知識のみ。
おそらく莫大な時間をかけ建造されたのであろうこの場所は、壁から天井に至る広い範囲に、色あせることのない職人のこだわりたる芸術的な彫り絵が見られる。無論、それだけに留まらない。電飾技術が未発達の時代、夜の回廊を照らしだすため、月の光を最大限に拡散反射させる技術が施され、今もこの回廊は電飾を必要としていない。
”西国”の繁栄の姿―――決して光を失わず、永久に照らされる国家繁栄への願い。
先人達に敬意をはらい、この場所は”愛国者の道”と呼ばれている。
・・・いつきても、実に優美な構造である。これを未来永劫、汚すことなく受け継いでいくこともまた我が使命の1つであろう―――
「―――きゃあ!壁にペイント用塗料が!?」
「おいおい、機体ペイント用塗料だろ?もう固まりだしたぞ」
「研磨剤持ってきて、削ればいいよ」
「ナイスアイデア」
「―――って、こらぁ貴様らーーー!なにしとるであるかぁっ!?そこになおれぃ!!」
口元と顎には、短いながらも貫禄を感じさせる整えられた髭。そして、謁見用の厳かな礼服に身を包んだその人物。
ウィズダム=ケントニス―――西国の3大戦力”知将軍”の称号を持つ、生粋の愛国者である。
彼は、その場で正座させた技術部の男女2人に向かって、
「まったく、君達は先人の残した歴史の何たるかに対する敬意が著しく欠けておる。今から、それについて語るのでよく聞くのである。よいか?この場所は―――」
通称”説教将軍”とも呼ばれている。
無論、本人には超極秘である。
●
謁見の間。すなわち玉座の間。”西国”の象徴にして中心。民や仕える騎士達がもっとも分かりやすく、”王”を意識する空間である。
巨大な扉は、人5人が横並びで入ってきても余裕であるほどに、巨大な開放がされている。
そこを通り、ウィズダムは謁見の間に足を踏み入れた。
「―――遅かったわね。”知将軍”殿。何かトラブルでも?」
日傘をさしたその女性が、背中越しに声をかけてきた。彼女もまた、謁見用の礼服に身を包んでいる。
「―――なに、不届きな若者をしかりつけてきたのである。お待たせしたことは謝罪しよう”魔女”殿」
「今度はどれくらいの時間をご講義に使われたのかしら?」
「なに、ほんの90分ほどである。我も多忙な身ゆえ、『もう行かれてしまうのですか?』と晴れやかな表情で教えを請う者達を振り切るのはなかなかに心が痛いのであるよ・・・」
「・・・90分で済んでよかったわね、その子達・・・」
「ん?なにか言ったであるか?」
「いえ、なにも」
「ところで”最速騎士”殿はまだおらぬか?謁見までもう時間がないが?」
「彼なら途中まで一緒でしたけど、荷物が重くて動けないおばあさんを背負って、『家まで送っていくので先に言っていてください。大丈夫、後から走ってくるので心配は無用です!』と白い歯見せて、親指立てて別れたのが最後」
「相変わらず、時間配分を考えない男であるな。今度、”時間を守るための優先順位”についての講義を行うべきであるか・・・」
「・・・哀れ、”最速騎士”・・・」
「ん?何か言ったであるか?」
「いえ、なにも」
その会話の直後、
「―――お待たせしました!”最速騎士”リファルド=エアフラム。ただいま到着しました」
走ってきた割りに、礼服が乱れていないのは、神業的なものを感じる。
「お待たせしたことお詫びします。ユズカ殿、ウィズダム殿。しかし、まさか帰り道で食中毒の陥った人を応急処置したり、転んで起きれないライドギアの移動を手伝ったり、恋人の喧嘩現場の仲裁まで行う羽目になるとは、あまりに予想外でしたね!」
ハハハ、と笑うリファルド。嘘くさいが、この男が言うなら本当なんだろう。
「―――貴殿ら、実に楽しそうじゃのう」
その声は唐突に訪れた。




