2-10:救いの”手” ●
”シュテルン・ヒルト”の格納庫。
翌日。地下崩落から奇跡の生還を果たしたウィルの前に、
「―――で、どういうことか説明してくれるかな?」
腕組みしたエンティがいた。
「昨日”シア”で、一部崩落があったって情報が入ったけど他人事だと思って聞いてたら、エクスからの連絡で、”回収してくれ”ってきて―――」
そう言って、格納ハンガーに固定された銀色の機体を、横目で見て、
「―――君達、どう考えても関係者でしょ。なにやらかしたわけ?簡単に説明してくれる?」
ジト目でそう言ってきた。
「そうッスね・・・簡単に言うと―――オレにもわけわからないッス」
ウィルが頭をかきながら、笑って言ってのけた。
「簡単すぎて腹がたつんだけど、1発、取り返しのつかないところを蹴り上げていい?」
「ごめんなさい!許してください!」
ウィルは神速で土下座した。
「ま、ウィルだから仕方ないか―――」
エンティは、そのまま土下座しておくようにウィルに言うと、質問の対象が、離れた場所で機体を見上げている男に移る。
「―――エクス君。説明」
話しかけられたエクスは、
「正直、俺の方がウィルより情報を持っていないが・・・」
と、言う。憶測だけで語るのは、情報の混乱を起こすこともあるからだ。
「君の見方でいいよ。まず―――」
エンティの視線が追うのは、まだ土下座中のウィルを、なにをしてるんだ、と見下ろしている少女。
「―――あの子は誰?」
「名前は”アウニール”というらしいが―――それ以外は不明だ」
アウニールねぇ・・・、と呟くエンティは続けて、
「じゃあ、あの機体は?」
巨大な銀の人型を見上げた。
「敵は、”ブレイハイド”と言っていたがな・・・」
「敵って?」
「”西”の特殊部隊と聞いた」
その言葉を聞き、エンティが少々の驚きを見せる。
「それって”知の猟犬”のこと?」
「なんだそれは・・・?」
「”西国”には、”最速騎士””魔女””知将軍”の称号で呼ばれてる3人の人物がいるの。それが、”王”直属の3大戦力で、”西国”を支える3本柱。”知の猟犬”は、”知将軍”直轄の精鋭部隊。”西国”が表沙汰にしたくない仕事を秘密裏に遂行する部隊のこと」
「それほどの連中が関連してるということは・・・」
「アウニール、だったっけ?彼女がここにいるのはけっこう面倒なことになる可能性大だね」
そう言って、見つめる先にいる少女―――アウニールは、まだ土下座してるウィルを指でつついている。
「・・・ヴァールハイトはいつ戻る?」
エクスにとっては、彼女の素状から、ライネにたどり着く手がかりが得られると見ている。そのためには、この場所にいてもらうことがベストなのだ。形がどうとは問わない。
「まだ、当分先だと思うよ。ていうかいつ帰ってくるかわからないんだけどね」
「連絡もとれないのか?」
「まあね。別の人と行動してるし、かけてもう通じないことがほとんど・・・って、あの子ここに置いておくつもり?」
「それを希望したいところだ。ウィルも同じ考えだ」
「・・・”西国”の”知の猟犬”が絡んできてるとなると、彼女が重要人物の可能性もある。・・・国際問題に発展する可能性は考えてる?迷子を保護するのとはわけが違うよ?」
エクスは、頷いた。
今の話を聞いている限り、それは承知だった。
だからこその”希望する”という言葉。
条件つきの交渉で、互いの利害の一致のみで協力している関係に過ぎないエクスが、初めて”頼み”の姿勢をとったのだ。
アウニール、という少女の重要さは察することができる。
エンティも、それを理解し、同時に、エクスのことを、
・・・必要なら、打算を捨てて他人を頼ることができる人間なんだね・・・
と再評価する。
「・・・でも、やっぱりリスクが大きすぎるかな。下手したら、想像以上の被害がでるかもよ?そのときはどうする?」
「そうなる前に・・・彼女を連れて、”カナリス”から去る。そっちは、”知らない”を通せばいい。巻き込まれただけだと、な」
う~ん、とエンティが腕を組み、うなだれる。
・・・有事の判断は任せる、とか言われてるけど・・・
これは、非常に大きな選択だ。
無難にいくなら、当然、厄介事の種は追い出すべきだ。
アウニールは、客ではない、ウィルとエクスが勝手に連れて来たに過ぎない。彼女の除外により、”シュテルン・ヒルト”は通常通り、これまでと変わりない。
・・・いや、これまでどおりとはいかないか・・・
今の彼の言葉のとおりなら、彼女を追い出すことは、エクスも同時に追い出すことになる。
若手がいなくなることは、たいした損失ではない。
・・・だって、ウィルをこき使えば解決だし・・・
問題は、エクスの”存在価値”が流出することだ。
”西”と一戦交えた以上、今後、彼が不用意に接敵することで、生まれるリスクもある。どちらにせよ、国際問題級の存在2人を野放しにするのは、ヴァールハイトの役割にも支障をきたす。
要は、消去法だ。
アウニールがここに留まるか、そうでないか。そのどちらが、”カナリス”にとってのリスクが少ないのか。
・・・こういう時、社長君ならどう判断するかな・・・
人の上に立つ立場である以上、人情に流されていてはいけない場面は多々ある。今がそのときだ。
・・・さて、どうするかな・・・
エンティが考え込んでいると、
「―――エンティさん・・・」
ウィルが話しかけてきた。
「えっと、実はお願いしたいことが―――」
彼の考えは、分かりやすい。バカらしく顔に出てる。
「ウィル、君の言いたいこと、分かってるよ。あの子・・・アウニールをこの船に置いてほしいって、言いたいんでしょ?」
ウィルは、考えを見抜かれていたことを驚きながらも、
「そう!そのとおりッス!ぜひ、お願いしたいッス!」
笑顔でそう言ってきた。
「簡単に言うね、君は・・・」
ウィルを拾った時とは、自分の立場も責任もまるで違うというのに。
「猫や犬拾ってきたわけじゃない。あの子は人間だよ?もしもがあった時、その責任は誰がとるのかな?」
エンティの表情は、責めるようで、同時にさとすようでもあった。
人が人を助ける、ということは簡単なようで難しい。
自分が、ウィルを助けたときもそうだ。
そのときから、エンティはウィルの生き方を見守り続けることを決意した。しかし、ウィルには、自分と同じことができるか、不安だった。
彼は、まだ少年だ。不安定な未成年で、鉄砲玉のように考えなしに行動して、大きな失敗を積み重ねる年頃。
そして、なにより・・・バカである。
しかし、彼は続けて言った。
「・・・ほうっておいたら、あの子は1人ぼっちになってしまうッス。だから・・・」
見上げる首が疲れたのか、エンティは近くの作業台に座り、視線の高さを上げ、再び問う。
「じゃあ、どうするの?彼女が自分の道を見つけるまで、君はそばにいてあげられる?一生かかっても、見つからないかもしれない・・・先の見えない暗闇しかない道を一緒に歩いていく覚悟はある?」
厳しくも、真理をついた言葉。
少年の選択としてはあまりに大きすぎる。
人を助けるということは、それだけの重みをもたらすことを理解してもらいたかった。
「覚悟がどういうものかなら・・・わかってるつもりッス。ずっと、エンティさんを見てきたから、なんとなくッスけど・・・」
続けて、
「・・・オレを拾って助けてくれた時から、ずっとそばにいてくれたから、それはわかるッス」
弟のような少年の発する言葉は、頬杖を膝に立てて聞く小柄なお姉さんの過去を、一遍だけ思い出させた。




