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2-9:始まりへの”飛翔”【Ⅱ】

 大穴の開いた余波は、かなり大きかった。

 崩落した場所から、蜘蛛の巣状に亀裂が徐々に広がっていく。

 その場にいた全員が、危険と判断し撤退を始める者は迅速だった。



 エクスはギリギリまで、その場に踏みとどまっていた。

 ウィルとアウニールを捨ていくことに、良心の呵責を感じていたからだ。

 しかし、同時にこうも思っていた。


 ・・・ここにいて何ができる?・・・


 崩落のペースは一時的に緩くなり、細かく崩れる箇所はあるものの、一応の静けさを取り戻していた。

 あれほどの崩落に巻き込まれたなら、常識から考えて生存は絶望的。


 ・・・なら、この場から自分だけでも無事に戻ることが最善の策だ。


 しかし、


「・・・ちっ・・・!」


「エクスさん!?ちょっとまってまって!」


 崩落の奥に向かおうとするエクスを、リヒルが腕をとって止めた。


「なんだ」

「なんだじゃないですよ!危険です!」

「わかっている」

「今の行動は分かってない人の行動ですよ!?気持ちは分かりますけど、避難が優先です!」

「貴様らは先に退け。俺は別行動をとる」

「そうはいきません!私達の仕事です!」


 リヒルが正しい。

 そんなことはエクスも分かっている。

 だが、


「あいつのタフさがあれば、あるいは・・・」


 生きている可能性に賭けてみたい、という考えのほうが強かった。

 しかし、そのとき、


「逃がすかっ!!」


 切りかかってくる人影があった。

「っ!?」


 エクスとリヒルが離れ、回避行動をとる。

 切りかかってきた人影は、リヒルたちを無視し、真っ先にエクスに躍りかかる。

 両刃剣の斬撃を、ダガーで受け止め、そのまま鍔迫り合いに持ち込む。


「・・・何の真似だ」


 切りかかってきたのは、隊長の少年―――リバーセルだった。


「彼女を見た貴様を逃がすわけにはいかん!」

「なに・・・?」


 互いに武器を弾き、応戦する。

 リバーセルが使うのは、取り回しやすい細めの鋼剣。高い耐久力の切断力を両立した業物。 

 それを、横薙ぎの軌道を中心に、振ってくる。


 ・・・ナイフ相手の戦闘を理解している・・・


 エクスは、戦いづらさを感じる。

 今の武器は、ダガーしかない。しかも投擲用だ。

 簡単に持ち歩けるコンパクトさと、軽さによる使いやすさが利点ではあるが、コンパクトすぎて武器同士の衝突には不向きだ。

 それでも、相手の斬撃を弾くようにさばいていけるのは、エクスの技量によるところが大きい。

 まともにぶつかれば、刃が砕けるという危ういところでふみとどまり、相対は加速をさせていく。



「エクスさん!」

「リヒル、後ろ」


 すぐ援護に向かおうとするリヒルだったが、シャッテンの警告で後ろを見る。

 控えていた部隊員5人も、隊長の動きに合わせ突っ込んできた。


「くぅ、じゃましないでくだ―――」


 リヒルが武装を構え、引き金を引いた瞬間―――砲身が急に横を向いた。


「え?」


 発射された弾頭は、狙った場所とは違う方向に飛んで炸裂した。

 理由はすぐにわかった。

 主に高所などに移動する時に使用される標準装備のワイヤーアンカーだ。敵はそれをこちらの武装に対して使ってきた。

 砲身に巻きつけられたワイヤーで発射方向をずらされた。


「さすが、精鋭ですね・・・!」


 さっきはまとめて吹き飛ばしたが、今度は戦法を変えてきた。すなわち、


「時間稼ぎですか・・・!?」


 リヒルがシャッテンの方を見やる。

 彼女の武器である長刀にもワイヤーが巻きついている。


「・・・なら・・・!」


 シャッテンは、あっさり武器を捨てる。すると今度は、袖口から長さ50センチはあろう3本爪のクローが飛び出し、両手に装備された。

 シャッテンが身を低くし、敵に向かって駆ける。

 相手は退いた。否、一定の距離を保つべく、距離を開けたと言うほうが正しい。

 シャッテンの俊足は常人の比ではない。すばやく、敵の1人に接近し、切り裂きにかかる。

 しかし、敵は受け流す回避重視のスタイルで、クローをいなした。

 先ほどは、武器同士の衝突が発生したことから、瞬殺できたが、今度はそうはいかない。

 勝てないのなら、まともに相手をしなければいいだけなのだ。


 ・・・切り替えの早さはさすが・・・!


 こちらが圧倒的な実力を持つ個人戦力なら、敵は数人での戦法を確立した集団戦術で対抗してくる。

 阿吽の呼吸がなければ成しえない、高等戦術だ。

 リヒルが、ワイヤーの絡まった武装を捨てる。

 一見丸腰になったように見えるリヒルにも、敵はうかつに近づかず距離を保っている。


 ・・・この場で敵を無視するのは危険ですね・・・


 そうすると、今度は背後からワイヤーの拘束を受ける可能性が高くなる。その分担まで、敵はアイコンタクトで行っていた。



 高見にいる危険な自由人(リベルダンジェ)たちは、眼下で繰り広げられる戦闘を眺めていた。


「―――おいおい、なんか勝手に戦い始めたぞ?」

「―――あの切りあってる2人、速すぎてよくみえねぇぞ」

「―――崩落が広がったら危険だ。この場は退こうぜ」

「―――落ちていったあいつら、大丈夫かよ?」

「―――バカ、気にはなるけど、自分の心配しろよ」

「―――”お宝”は、崩落が収まってからだな。数日先になるか?」


 各々にそういいながら、撤退を始める。

 しかし、その中に、周囲とは違う視線を持つものがいた。


「―――あれが、”災厄”ねぇ。あんな小娘が・・・?」


 ”東”特有の”羽織り服”を纏った男は、得物を肩にかけながら呟いた。

 そのとき、空気が轟音を響かせた。


「―――なんだ、この音!?また崩落か!?」


 そう警戒する者もいたが、


「―――違う!?こいつは・・・駆動音?」


 知識のあるものがそう叫ぶ。

 音が噴出したのは、少年と少女が落ちた、穴からだった。

 何かが地の底から、やってくる。



「しぶといヤツだ!」


 突きから繰り出される横薙ぎの一閃を、間合いから離れ回避。

 リバーセルの剣の軌道には、隙が無い。

 回転するように、時には飛ぶように、縦横無尽に斬撃を走らせてくる。


 ・・・なんだ?この感じどこかで・・・


 剣の扱いだけ見れば、相当な使い手だ。エクスがこれまで相手にしてきた中で、トップクラスの。

 しかし、その剣さばきには、どこか見覚えがあるような気がしていた。

 当然、この過去の世界で、エクスが面識ある人物は限られている。


 ・・・そうだ、この剣の軌道、俺は何度も受けてきている。これは・・・


「―――考え事か!余裕だな!」

「っ!?」


 コマのような回転から、一気に懐に入り込まれた。

 鋼剣が、逆袈裟から襲い掛かる。

 回避できない。


「くっ・・・!」


 やむなくダガーで受ける。

 なんとか弾くが、刃が砕け、破片が四散する。

 しかし、リバーセルの攻撃はとまらない。継続の流れのまま、今度は真っ向から振り下ろされる。

 予備のダガーを抜く暇が無い。


()ったぞ!」


 武器をなくした、エクスに斬撃が走る。

 食らった。

 しかし、


「なにぃっ・・・!?」


 止まっていた。

 あろうことか防がれた。


「・・・こいつが役に立つのは初めてだな」


 エクスのジャケットの肩部分についている小型の装甲板だ。それが刃による両断を阻んでいたのだ。

 回避できないと判断した瞬間、エクスは身体の軸をずらし、刃の軌道を装甲位置にあわせ、そこで受けたのだ。

 防弾用の金属だ。当然、刃を通すことはない。

 しかしそれは、並外れた度胸と動体視力なしでは、成立不可能な防御だった。


「ち、小細工を・・・!」

「装備を活用したまでだ」


 剣をはじき、エクスは再び間合いを取ると、懐から最後の1本であるダガーを抜いた。

 相手の実力を認め、右足を前に、ダガーを握る力は軽く、


「その剣の軌道・・・この先は通じないと思え」


 逆手に構え、ハッタリではない強みと威圧が放たれる


「・・・貴様が只者で無いのは分かった」


 リバーセルは、上段から突きへの体勢をとる。

 今一度、敵の懐に飛び込む構えで、

「なら敬意を表し、全力で駆逐する。オレの剣、たやすく見切れると思うな」

 先ほどと空気が変わるのを双方が感じた。

 ぶつかれば不利なのはエクス。しかし、それは互いが理解している。

 武器の相性ではリバーセルに軍配が上がれど、それは勝敗には直結しない。

 勝負は、一瞬の判断が左右するからだ。


 ・・・どうくる・・・


 発端を開くきっかけを両者が待っていた。

 しかし、その時―――


「っ・・・!?」 「なに・・・!?」


 駆動音が空気を震わせ、次の瞬間―――



 陥没後にできた穴の中から、飛び上がってきた巨大な影に、


「ええ~!?」


 リヒルが驚愕し、


「・・・”銀”のライド・ギア・・・?」


 シャッテンが首をかしげた。

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